“ただやるだけ”は危険。急成長のペットフードD2C「ココグルメ」がポップアップストアへ投資し続けている理由

矢作 裕之さん
株式会社バイオフィリア 取締役COO。東京大学大学院卒業後、日本オラクル株式会社でシステム開発に従事。その後、2017年に株式会社バイオフィリアを共同創業し、取締役COOに就任。エンジニアとしてのキャリアを活かし、マーケティングやシステム改善など幅広い業務に携わる。「ココグルメ」や「ミャオグルメ」などのペット向けフード事業では、幅広い業務に対応し、技術とマーケティングの知識を活かして企業の成長を推進する。

ドライフードの代替からトッピングへ。愛犬の健康を食から支えるフレッシュペットフードの挑戦

人間の食品と同じ原料や調理工程で製造されるフレッシュペットフード領域において、わずか数年で市場シェアNo.1を達成した「ココグルメ」。本日は、市場シェアNo.1を達成した「ココグルメ」のサービスの裏側に迫ります。まずは、「ココグルメ」立ち上げのきっかけを教えて下さい!

数年前に、高校の同級生だった現代表の岩橋とカフェで偶然再会したことをきっかけに、「ペット×IT」分野で共同創業しました。

しかし、起業してから約1年半は、「世界中の動物たちを幸せにしたい」という想いで、里親マッチングサイトや、写真共有アプリなど様々なサービスをリリースしては、閉じてを繰り返す日々でした。そんな時、岩橋の愛犬2匹が立て続けに亡くなった時期がありました。

動物の健康維持には、「食事」と「運動」が必要不可欠です。特に食事の領域は私たちのような企業が介在する価値があると考えました。そこで、「動物の健康」という根源的な課題に立ち返って生まれたのが、「ココグルメ」です。

サービス立ち上げ当時は「フレッシュペットフード」の日本での認知度は高くなかったと思います。なぜ、ペットの健康寿命を延ばす数ある手段の中で、フレッシュペットフードにたどり着いたのでしょう。

おっしゃるとおり、「ココグルメ」の立ち上げを決めた2018年12月当時は、「フレッシュペットフード」という商品は市場に存在しておらず、近いもので言えば、一部の愛犬家が我が子のために調理した手づくりごはんというジャンルが存在するだけの曖昧な概念でした。

さらに、調べていく中で日本の法律上、ペットフードは「食品」ではなく「雑貨」扱いであり、食品とは異なる基準で取り扱われていることを知りました。

そのこと自体が良い悪いの話ではなく、人間でも食べられるくらい新鮮な食材で添加物を使わず調理された安心安全なペットフードを届けることが、愛犬の健康維持に繋がるのではないかと考えたんです。

画像引用元:CoCo Gourmet公式サイトより

「ペットフード」と一括りに言っても様々な種類があるんですね。認知度が高くない中、「フレッシュペットフード」を販売するにあたって、どのような飼い主像をイメージしていましたか?

ペットフード協会が発表している全国犬猫飼育実態調査の統計データによると、愛犬の食費は平均4,000円以下と言われており、全国の飼い主さんの7割を占めます。

実際に販売した結果は、どうでしたか?

想定よりも、幅広い飼い主さんに愛用していただいています。

もともとココグルメは、ドライフードの代替商品として考えていたのですが、蓋を開けてみると、ドライフードの代替ではなくドライフードのトッピングとしてココグルメを併用する方が多かったんです。

ペットフードでの、トッピングとは何ですか?

ドライフードの味や食感に変化を出すための食品です。ドライフードは総合栄養食なので、特別な栄養調整がいらない健康な愛犬であればドライフードと水だけでも栄養価は十分とされています。

しかし、同じドライフードが続くと、飽きて食いつきが悪くなってしまうことがあります。その対策として、ドライフードに茹でたササミを和えるなどして味や食感を変えることで、愛犬の食べつきを良くすることが期待できます。

ペットフードにトッピングをする飼い主さんはどのくらいいるのでしょう。

8割以上の飼い主さんが、定期的に月に1回以上何かしらのトッピングをしているという調査結果もあるようです。ココグルメでも、ドライフードのトッピングとして利用いただく飼い主さんが多いです。

そのため、LPでも普段食べているドライフードと愛犬の体重にあわせた推奨摂取量を提示できるようにしたり、トッピング用途での訴求をすることで、飼い主さんの目線に立ったLPでのコミュニケーションを意識しています。

画像引用元:CoCo Gourmet公式サイトより

Webサイトでも、お召し上がり方を1食分か、トッピングかで選べるようになっている理由が納得できました。

今でこそ、ペットフード市場の中のトッピング需要も意識されはじめてきています。しかし、トッピング需要を今まで誰も定義付けしたことはなかったのではないでしょうか。

つまり、誰も気づいていなかったトッピングという大きな市場に参入できたことがココグルメがここまで拡大できた理由と考えています。

初めての試みから得た手応え。ポップアップストアの裏側

「トッピング市場の開拓」が市場シェアNo.1を達成した理由の1つというのは、とても興味深いエピソードです!私はココグルメを愛用させていただいているユーザーの1人なのですが、メルマガなど普段から愛犬起点のコミュニケーションをとってくれることが印象的です。

商品開発はワンちゃんの健康を考えて開発していますが、商品の特性上、食べるのはワンちゃんでも、選ぶのは飼い主さんです。そのため、飼い主さんに商品の良さを伝えられないと選んでもらえないと思っています。なので、そのように言っていただけると嬉しいです。

配信しているメルマガも、冒頭を「○○様へ」ではなく「○○ちゃんへ」と愛犬の名前にしている通り、すべては飼い主さんと共に「愛犬のために何ができるか」を私たちも考えています、という私たちからの意思表示の1つです。

実際に配信されたメルマガ

飼い主さんとのコミュニケーションを取るうえで、実施されていることが他にもあれば教えて下さい。

飼い主さんの生の反応を見るようにしています。そのために、定期的にポップアップなどオフライン施策を積極的に実施しています。

マーケティングの成功事例としてココグルメのポップアップストア施策の話はよくお見かけします。しかし、他ブランドがポップアップを成功事例として実施しても、御社と同様に軌道に乗せることは難しいのではと思うのですが、いかがでしょう?

おっしゃるとおり、ブランディング目的として、KPI設定もせずに「ただ」やるだけのポップアップストア施策は危険だと思います。

「ココグルメ」は創業以来、多額の資金調達をする事業ではありませんでした。そのため、限られた予算の中で投資対効果が確立できる施策が求められていました。

その点、Web広告は比較的、投資対効果の可視化がしやすいと考えています。そのため、弊社も創業から1年間は運用型広告の運用にかなり力を入れていました。

しかし、創業当初から運用型広告を含めWeb広告1本だけでは将来的な事業のスケールは難しいと考えていました。だから、Web広告以外での予算を投資先を早い段階から模索しており、ココグルメの場合は、それがポップアップストアだったんです。

創業当初から、事業スケールのカギをWeb広告以外の施策を視野に入れていた理由はなぜでしょう。

通販企業の偉大な先輩方の前例を平均すると、通販単体では売上30〜50億円で伸び悩むと皆さん口を揃えておっしゃっていました。それは「ココグルメ」も例外ではないと思っています。

そのため、今後100〜200億の売上を目指すのであれば、Web広告の限界を視野に入れて、早い段階からWeb広告以外のチャネル開拓を行い、知見を溜める必要があると考えていました。

なるほど。Web広告以外のチャネルとして、どのようにポップアップストアという1つの「解」にたどり着いたのか気になります…!

様々な施策を試した上で弊社の場合は、継続的に投資が可能な施策がポップアップストアでした。

ポップアップストアを実施すると、場所代で約30万円ほどかかるだけはなく、重機などの搬入や人件費などで約100万円ほどの費用がかかるといわれています。

そのため、場所代や人件費を極力削減するために、ペット同伴が可能な代々木公園近くのカフェの一角をお借りして、土日に私1人が店頭に立っていたのが1番最初のポップアップストアです。

矢作さんご自身で店頭に立たれていたのですね。その時のポップアップストアの結果は、どうでしたか?

結果は、1日で約30人の試食して頂いた方の中から、7人の方に購入いただき、かなり好感触だった記憶です。

初めてのポップアップストアだったので、訪れた方の内、何人が試食をして、購買してもらえるのかを観察していました。それを繰り返して、試食後の購入率などの数値感が掴めたら、ポップアップストアの規模を徐々に大きくしても試算は大きくはズレないだろうと考えていました。

ポップアップストアは、費用対効果を可視化しづらい側面もあると思うのですが…具体的にどのように、評価指標を敷いているのかお伺いしたいです!

明確な評価指標を敷いているわけではなく、ポップアップストアを実施して、地域のお客さんが何人訪れて、何人にリーチできるのかの肌感覚を基に試算しています。

ポップアップストアを新規顧客獲得のための施策として捉えてしまうと、売上はもちろん、UGC(User Generated Content:ユーザー生成コンテンツの略。以下、UGC)の発生率や、オフライン購入からいかにしてウェブ購入につなげるかを考えてしまいがちです。

しかし私たちの場合、ポップアップストアに訪れていただける方は新規のお客さまだけではなく、既存のお客さまも多くいらっしゃいます。

そのため、ポップアップストア単体で収支を合わせるのではなく、訪れたお客さんのLTV(顧客生涯価値)の変化と、発生したUGCの間接的な効果を全て足し合わせてポップアップストア出店の費用対効果を見ています

なるほど!ご自身の実際の経験値を基に、数値感の“あたり”がつけられるのですね。

そうですね。例えば、Meta広告では、1インプレッション当たり1〜2円と仮定します。全てのフォロワーがポップアップストアに訪れてくれるわけではないですが、仮に300フォロワーの方がUGCを投稿してくれたとして、そのフォローワーから何名かが訪れて、購入まで繋がったとしたら300~500円の価値がある、と換算して、設定した1つ1つの数字を達成した先に、採算が合いそうという目星をつけます。

目星がついた後は、そのためにどのような施策を実施し、どのように計測するかの仕組みを整えます。

UGCを促進する企画やリソースはもちろん、クリエイティブの制作予算から逆算して、ポップアップストアの開催で赤字が出ないように私たちなりのロジックを立てて試行錯誤しています。

UGCは意図的に生み出そうとしても、簡単には生まれるものではありません。そのため、多くの企業がUGCを生み出す仕組みを作っています。しかし、実際にUGCが生まれるかどうかは別問題ですよね。その点、御社では自発的にUGCが生まれ、拡散されているように見えるのですが、その理由をどのように考えられていますか?

UGCを意図的に生み出している感覚はありませんが、ポップアップストアで愛犬との写真が撮れるフォトブースを設置したり、SNS投稿キャンペーンを実施すると愛犬家コミュニティ内で2次拡散に繋がりやすくはあると思います。

しかし、私たちはUGCを投稿と拡散のための手段というよりは、お客さまとのコミュニケーションの一環として捉えています

SNS上の投稿は、お客さまから私たちへのアクションです。だから、私たちはその投稿1つ1つ全てに普段のお礼など何かしらのアクションをお返ししています。そうすると、その様子を見たお客さまが自分も投稿してみようと思ってくれたりしながら、少しずつその連鎖が繋がった結果なのかなと。

自分の投稿に公式アカウントから反応があると嬉しいですよね!ここまでの話をまとめると、ポップアップストアなどオフラインでのコミュニケーションを経て、オンラインへどのくらいの反響があるのかを、仮でも良いので試算することが大事ということですね。

はい、「とりあえず」でポップアップストアを実施するだけでは、売上は立たないし、ポップアップストアをきっかけに新規のお客さんが増えるかと聞かれたら「難しい」と考えています。

それでもポップアップストアを実施し続ける理由はなんですか?

店頭での販売数を伸ばしたり、新規のお客さまへの認知施策など販売の側面ももちろんあります。しかし、それ以上に、お客さまと直接お話する中での学びの多さがポップアップストアをしつづける理由です

サービスの使い勝手をお客さまの顔を見ながら話せたり、ワンちゃんたちの新商品への食べつき具合を見ながらコミュニケーションが取れる場はとても貴重な機会です。

ポップアップストアは費用対効果を合わせづらいとよく言われますが、それでもなんとかして続けられないかと試行錯誤をしてた結果、1年以上も続けることが出来ています。

試行錯誤の内容を具体的にお伺いしたいです!

私たちは投資予算が潤沢にあるわけではありません。そのため、まずは短期間で回収可能な予算で実施することを大前提としています。その上で、長期的な間接効果を生み出せそうな施策を社内メンバーから出てくるアイディアとかけ合わせて実施しています。

画像引用元:祝ハチ公生誕100年。忠犬も待てない!「ココグルメ」を食べたすぎて待てないワンちゃんたちがJR渋谷駅ハチ公改札前に大集合

例えば、以前実施したバズることを目的としたJR渋谷駅ハチ公口に掲載した大型広告では、UGC発生率、既存のお客さまの売上、ポップアップストア来訪へのアプローチや、実際の来場者数など細かく目標数値を決めることで、「とりあえずやってみよう」という投資にはならないように意識しています。

そのおかげで、オフラインでコミュニケーションを取ったお客さまは、その後のLTV(顧客生涯価値)が通常の約3倍高くなるというデータも取れています。

3倍もですか?その理由をどのように考えられていますか?

1つに「ココグルメ」を検討したが、購入まで至らなかったお客さまの反応を知ることができることが要因と考えています。オンライン上のアンケートなどだけでは、生の声を得られづらく、具体的な改善点まではなかなか見えてこないものです。

その点、オフラインでのコミュニケーションを通じて、購入理由や継続に至らなかったボトルネックをヒアリングできるだけではなく、どのような訴求が購入に繋がるのかを直接、飼い主さんとお話ししています。そして、「生」の情報を集結し、その後の施策や商品開発にも反映しています。

ポップアップで得た“生の声”と“美味しさ”を追求するこだわりの商品開発

photo via 株式会社バイオフィリア

実際に、お客さまの声から生まれた商品の開発エピソードはありますか?

新発売の鹿皮ガムは、ポップアップストアでワンちゃんに実際に試食していただいたり、先行販売後のお客さまの反響を見て生まれた商品です。

このように、ポップアップストアだけではなく、オフラインでのお客さまの声をきっかけに商品開発を行うことはありますが、飼い主さんの声以上に愛犬が喜んで食べてくれなければ継続的に買っていただけません。

そのため、どの食材やレシピがワンちゃんの食べつきがいいか、どんな香りや見た目だと飼い主さまが使いやすいかなどを数回にわたり、モニターを行ったりして商品開発に活かしています。

photo via 株式会社バイオフィリア

COMMERCe+で以前、取材させていただいた「mogumo」の幼児食とマーケティングの類似性を感じるエピソードですね。

人間の子育てとの類似点は多いと思います。私たちも普段から、ワンちゃん向け商品よりは、人間のお子さん向けの商品のマーケティング事例を参考にさせていただくことが多いです。

異なる点は、ワンちゃんのアレルギーの問題は幼児食よりも複雑で、メニュー数を一気に増やしたり、大幅な変更をしづらいことです。

その代わりに、ココグルメほど既存メニューのマイナーチェンジを行っているブランドは多くないという自負はあります。

photo via 株式会社バイオフィリア

マイナーチェンジは、味を一定に保つためなのかそれとも、より美味しさを追求したものなのか、どちらの意味合いが強いですか?

より美味しくするためです。同じチキンでも、新鮮で美味しいチキンを仕入れるために、年に1回の頻度で少しずつマイナーチェンジを繰り返しています。発売から5年目になるチキンの商品は、過去約8回の商品改良を行っています。

ココグルメ愛用者ですが、これまでマイナーチェンジに気付かなかったです…!

表示成分が変わる場合は、もちろんお伝えします。しかし、ココグルメの解約される飼い主さんで最も多い理由が「ワンちゃんが食べなかったから」です。

そのため、より美味しくするための商品改良を通して、商品改善した試作中の商品の感想をいただくなど、解約されたお客さまともコミュニケーションを取る場合もあります。

これまでのお話を通じて、業績が一気に伸び始めたターニングポイントがあったというよりは、様々な施策の試行錯誤の積み重ねが現在の結果に繋がっていると感じました。

おっしゃるとおり、かなり地道なマーケティングの結果だと思っています。

ポップアップストアも1回で1,000〜2,000人規模になると定性化された情報が蓄積されます。その情報を基に商品開発やWeb広告の訴求に転用して、より使いやすいサービスにしていきたいですね。

新規から既存のお客さまはもちろん、解約ユーザーまでもファンになるブランド力の秘密が垣間見えるエピソードです!最後に、これからのココグルメについてお聞かせください!

まだ、やりきれてないことがいっぱいあります。そして、今後の拡大において商品が良いことは大前提だと考えているので、引き続き商品改善を続けていきます。

その上で、現在行っているポップアップストアも、開催できる範囲や規模感に限界があると思っています。そのため、今後は私たちだけで何かをするのではなく、動物病院などと協力して取り組める施策の幅を広げていきたいですね。

編集後記

愛犬家の間では、フレッシュペットフードと言えば「ココグルメ」が第一想起されるほど有名なブランド。私の愛犬もココグルメが大好きで、レンジで温めてて香りが立ってくると、普段はしない要求吠えをするほどです。

これほど認知が拡大するまでには、オンライン・オフライン問わず、さまざまな施策を展開してきたこと、そして「愛犬にとっての美味しさ」を追求し続けていることが伺えました。普段のメルマガや同梱物も、飼い主に寄り添うメッセージ性が込められていて、心から愛犬のことを想って商品を提供してくれている安心感があります。

取材中に印象的だったのが「起業経験もマーケティング経験もないなか、筋道立てて費用対効果を合わせられる方法を考え続けた」というエピソードです。大胆な施策の数々は、手探りながらも過去のデータに裏打ちされたロジックの上に成り立っていることに感銘を受けました。

今回のインタビューを通じて、「ココグルメ」が愛犬と飼い主の両方に寄り添ったフレッシュフードを提供する背景には、地道な試行錯誤と顧客との対話があることが見えてきました。飼い主からの声をきっかけに生まれた新商品や、老犬に配慮した細やかな改良の数々。「とりあえず」の施策ではなく、データと想いを両立させたブランドの成長がこれからも見逃せません。

文 :信原 有希
編集:杉山 美和
写真:関 大二郎

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