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サブスクリプションブームとサービス展開の裏付け
ご経歴を拝見しました。学生起業からリクルートへの入社からの起業という、まさに「実業家集団リクルート」ですね…!
リクルートでは、学生起業を経験している同期も多かったので一種の流行りのようなものだと思います。私自身、家族や親戚を見渡しても起業をしている家族はおらず、高校時代までは起業とは無縁の世界に居いました。リクルートを辞め、起業をすると両親に伝えた時はとてもびっくりされたし、反対もされましたね。
起業時の事業着想はリクルート時代から持たれていたのでしょうか。
起業する際は、これまでの経験やスキルを活かせる事業にしたいと考えていました。
リクルート時代はホットペッパービューティーの営業や、ポンパレでEコマースの立ち上げに携わっており、国内向けEコマースは強力な大手Eコマースがいる飽和状態の市場で戦うことに厳しさを感じていました。そのため、Eコマースをやる場合は、海外向けを視野にいれて考えました。
今では当たり前のサブスクリプションサービスのEコマースの事業を始めようとしたきっかけはなんだったのでしょう。
2015年の起業当時は、誰もがインターネットで当たり前に物を買う時代になっていたこととが理由の1つです。また、2012年頃からのインバウンド需要が急激に伸びていたことも外的要因の1つです。
私たちのサービスはアメリカのお客さまが多いのですが、2015年頃はアメリカでサブスクリプションボックスブームが起きており、今では当たり前と思うかもしれませんが、野菜の定期便やアニメグッズのサブスクリプションのサービスなどが右肩上がりに売上を伸ばしていました。
新しい概念の形成や、サービス認知から始める場合はかなり時間と労力がかかります。しかし、成長市場にサービスをローンチ出来たことはかなり追い風ですね。ローンチ直後からサービスを伸ばすことにリソースを注力できますよね。
そうですね。市場が成長しているということは、前例があるということでもあります。当時、Dollar Shave Clubという剃刀のサブスクリプションがアメリカでブームになっていましたね。
巨大企業が寡占している領域でサービスローンチ2日で定期購入者が12,000件…!?すごいサービスですね!!
サブスクリプションブームの追い風もあり、「TOKYO TREAT」もローンチ後すぐに売上を立てることができました。もちろん、小さな問題は色々ありますが、順調に売上を伸ばすことが出来ています。
外的要因が追い風だったことはわかりました!次はサービス立上げについてお伺いできればと思います!日本のお菓子・ソフトドリンクのサブスクリプションサービス「TOKYO TREAT」の立ち上げ当時の取引先開拓はどのように行われたのでしょうか。
「TOKYO TREAT」ではKitKat(キットカット)やPocky(ポッキー)など海外でも人気が高く、多くの人にとって馴染みのあるお菓子を取り扱っています。立上げ当初に取り引きの問い合わせを行いましたが、実績もないサービスはどこからも相手にしてもらえなかったですね。
加えて、メジャーブランドのお菓子業界は問屋を入れないと取引が出来ない縛りが強いんです。しかし業界の右も左も分からないサービスを立上げた当初は、直接メーカーに問い合わせても「問屋に言ってください」の一点張りで。満を持して、問屋に取り引きを持ちかけても断られてしまう八方塞がりでしたね。
取引先も、越境Eコマースという海外への漠然とした不安もあったと思います。また、出来たばかりの会社で信用がないので保証金を預けてほしいと言われたこともありました。
門前払いだったんですね…海外にも認知されている有名な日本のお菓子は有名メーカーのお菓子ですよね。取り引きができないと「TOKYO TREAT」のサービスの質にも関わってくる重要な部分だと思うのですが、どのように状況を打破されたのでしょう。
サービスローンチ直後は会員数も少なかったので、自分でコンビニや量販店を回って購入した商品を箱に詰めて送っていました。
しばらくして会員数が増えた時に、現金問屋(※)を使わせてもらえることになり、2トントラックで、大量仕入れをできるようになりましたね。
(※)現金問屋とは…商品の仕入れを検討している小売業者が現金を持参した上で訪問し、その場で仕入れる商品を選び購入し現金で支払い、小売業者が自ら商品を持ち帰るという方法を取っている問屋のこと
近本さんご自身でバイヤーから仕入れ、搬入もされていたのですね。
企画から仕入れまで全て自分でやっていました。会員数が増えて自分一人でできることに限りが出てきたタイミングでバイヤー経験者を採用しましたね。
問屋との付き合いもあるバイヤー経験者だったので、その人を介して今まで取り引きができなかった中堅以上の問屋との取引もできるようになっていきました。
なるほど。経験者を採用することで、仕入れ販路がより強化されたんですね!スナック菓子は賞味期限が長いことに加えて、重量が軽く、破損が少ない所が秀逸だと感じました。だからこそ、その後「SAKURACO」という和菓子のサブスクリプションサービスを始められたことに意外性を感じたのですがいかがでしょうか。
一口に和菓子と言っても、範囲は広いです。例えば、おまんじゅうやお餅など全ての和菓子が賞味期限が短いというわけではありません。もちろん、スナック菓子などの加工品と比較すると賞味期限が短くなる場合もありますが、メーカーと相談しながらEコマースに耐えうる和菓子を仕入れて販売しています。
また、「SAKURACO」のサービスを立ち上げた2021年頃は、会員数も増えメーカーともある程度の信頼関係を築けていました。加えて、起業当初よりも越境Eコマースに対する認知も増えたことで、始めることの敷居の高さは年々下がってきており、むしろ興味を持ってくれる取引先さえあったほどです。
和菓子と聞くと、生菓子をイメージしてしまっていたのですが、色んな種類がありますよね…!加えて、海外のユーザーからは和菓子の取り扱いを希望する声も多かったのではないでしょうか。
そうですね。ユーザーからスナック菓子やチョコレート以外の伝統的な日本のお菓子を取り扱ってほしいという要望が多かったので、需要はあるのかなと思っていました。
私たちが新しいサービスを始める時は、必ずユーザーアンケートのサーベイを行います。和菓子ボックスを1つの選択肢としていくつかの案を用意してどのボックスが欲しいかのアンケートを行った結果、1番人気だったのが和菓子でした。アンケート結果から、数人の意見ではなく市場の需要を感じ「SAKURACO」のサービスを開始しました。
ユーザーの声に1つ1つ向き合いながらも、とりあえずやってみようという見切り発車ではなく、サーベイの裏付けに基づくサービス展開をされているんですね。
既存ユーザーからの購入に加え、「日本に和菓子という美味しいお菓子がある」という認知の高まりも相まって、サービス開始1ヶ月目から売上も順調に上がっていました。
最初の「TOKYO TREAT」の売上を立てるまでと比較すると「SAKURACO」はすぐに軌道に乗せることができたと思います。
地方の魅力発信からボックスに隠されたこだわりのポイントまで
国内のコンビニではスナック菓子の選択肢の方が多く、あえて和菓子を選んで食べる機会も減ってきていると感じます。そのため、越境Eコマースが和菓子メーカーにとっても新たな販促の選択肢になりますよね。そうすることで、日本の文化を守ることにも繋がっていると感じるのですが、近本さんはどのように感じられていますか。
「SAKURACO」は今まで世界に出たことがなく、地域に根ざして商いをされており、自分たちの商品を海外の人に食べてもらうことが初めてのメーカーさんも多かったです。そのため、メーカーさんからは「すごくうれしい」「ちょっと不思議な気分でした」という感想を頂くことも多いです。
だから、私たちもユーザーからの感想や評判をメーカーには伝えて、次回の商品開発に活かしたりもします。
まさに、三方良しのビジネスですね…!
「SAKURACO」では地域の和菓子屋さん以外に、地方自治体さんとのコラボレーションをするようになりました。最近だと、栃木県日光市とのコラボボックスをリリースしました。お菓子を通じて日本の地方の魅力を知ってもらうきっかけになっていると感じます。
ボックスも素敵ですね!!ユーザーが来日した際に、東京だけではなく、様々な地方へ足を運ぶきっかけになったらとても素敵ですね!
地方自治体とのコラボレーションの目的の1つでもあります。「SAKURACO」のサービスを始めた当初は、地方自治体とのコラボレーションは想像していませんでした。
当初は、夏の沖縄、冬の北海道など四季折々の魅力を和菓子を通じて知ってもらいたかったんです。それが、地方自治体からお声がけを頂けたことで、その地域の魅力をより届けられるようになったと思います。
私は東京育ちなので、地方の特産や名産の知識に疎くて…。例えば、京都というと八ツ橋のイメージが強いですが、実は小豆やきなこが穫れて、小豆を使用したお菓子がとても美味しいこと。都会のイメージがある神奈川も、柑橘類の収穫が盛んであることをボックスを通じて知ることが出来ました。
これら全て、自治体という仲介役がいないと接点を持つことが難しいかったし、「SAKURACO」というサービスの質の向上はもちろん、顧客満足度にも反映されているので良い相乗効果に繋がっているのではないでしょうか。
思わぬ良い結果に繋がっているのですね!逆に、越境Eコマースならではの想定していなかった課題はありましたか。
発送する商品によっては、海外へ発送ができない成分があるんです。例えば、ビーフジャーキーなどの干し肉はもちろん、肉の成分が含まれるお菓子は配送ができません。パウダーやエキスが含まれているだけでも発送ができないんです。
日本ならではのテリヤキ味やカルビ味のポテトチップスも送れないということですか…!?
私も最初から規定の全てを把握しているわけではなかったので、何千箱も発送してから禁止の成分が含まれていることを理由に全てのボックスが返送されていたこともありました。
それは…かなりショックですね……!
私たちはBtoCサービスなので規制は少ない方だと思います。BtoBの場合は、アメリカで禁止の着色料があったり、アメリカでは問題なくともドイツでは禁止されている成分などたくさんの細かな規定があるんです。
ポテトチップスの風味づけの数グラムで、その月の損失額が大変なことになりますね…。
1回経験すれば、同じことをやらないようにマニュアル化すれば、統制は取れるのでそこまで落ち込みはしなかったですね。
越境Eコマースを始めるにあたって、物流や顧客対応など未知数なことも多かったと思うのですが、実際はいかがでしたか。
物流は郵便局から全世界への配送をしていますが、郵便局がない国はほとんどないですよね。だから、私が0から物流を整えなくとも、安価で正確に届けてくれる郵便局のお陰でスムーズに物流を整えることができました。
今、手元に実際のボックスがあるのですが、とてもしっかりとした作りのボックスですね…!耐久性や素材選びなどのこだわりポイントなどはありますか。
実は、とてもこだわって作っているんです!サービスローンチ直後はお金がないので、既製品の段ボールを使用していました。しかし、自社でデザインから商品開発を行って現在はオリジナルの段ボールを使っています。
箱を触ってみてください。結構、固くないですか?
固いし、上からの衝撃でも蓋が沈まない…!
そうなんです。既製品の段ボールを使用していた時は、箱の周りに梱包材を巻いたり、上からみかん箱を被せたりしていました。しかし、現在は箱の周囲を梱包せずに、このまま輸送しても汚れも少なくほぼ無傷でお届けすることができるようになっています。
海外旅行に行くと白いスーツケースは1回の旅行で黒くなってしまうのに、ほぼ無傷はすごいですね…!
素材や表面の塗り方を工夫したりメーカーと何度も打ち合わせを重ねました。だから、素材は薄いのですが、耐久性のある素材を使うなど、目に見えない部分までこだわりが詰まっています。
思わず拡散したくなるコンテンツ作りの裏側
「TOKYO TREAT」(@tokyotreat)のInstagramはフォロワー数37万人、「SAKURACO」(@wearesakuraco)は7.3万人以上とUGC(※)もかなり活発な印象です。
(※)UGC(User Generated Contents)とは…企業ではなく、一般ユーザーによって制作、生成されたコンテンツのこと
毎月ボックスにメッセージ冊子を同封するなど、SNSで拡散したくなるようなコンテンツ作りを意識しています。
箱を開けたときの写真を載せるユーザーさんが多いので、写真に取ってもらえるような設計も意識しています。
わッ!!クッピーラムネとか懐かしいですね!!!同封されている冊子も全て内製化して制作されているのでしょうか。
はい、毎月作成していますね。成分やアレルギー表示はもちろん、日本の文化の紹介や地方と特産物の紹介も載せています。
普段なにげなく目にしているお菓子がこれほどエンターテイメントに富んだボックスになるんですね!現状、日本での購入は出来ませんが、日本にいても欲しいユーザーもいると思いました。将来的に販売は検討されていますか?
日本での需要はないと思っているので、販売は検討していないですね。
また、配送伝票を発行するラベリングも全て自社でシステム開発しており日本で送る場合、配送会社が変わるのでラベルも全て日本仕様に変更する必要が出てきます。そこまでの開発工数をかけて日本で販売するメリットを現状、感じていないです。
カートシステムも全て自社開発ですか?
全てのサブスクリプションサービスは全て自社開発です。一部の単品購入サービスではShopifyを利用しています。
サービスの一部で、Shopifyを使い続けている理由はなんでしょうか。
共同創業者が元々エンジニアで海外で働いていたので、Shopifyが日本上陸する2017年より前から利用しています。サードパーティーの活用や分析ツールなど使い勝手が良いので使い続けてますね。
反響が良いテーマや商品の傾向はあるのでしょうか。
1つのテーマが局所的にバズるということは少ないです。日本の味としてイメージする「抹茶」は賛否両論ありますが、海外の方に知名度が高い「桜味」「ゆず」や「お餅」などの日本の文化はバズりやすい傾向です。
例えば、ゆず味は海外で受け入れられるのかなど反響が未知数だった味の1つです。しかし、広告配信の実績でゆずのお菓子やゼリーの広告のCPA効率が良く、今では人気商品の1つになっています。このような1つ1つの検証結果を次回以降のテーマでセレクトする商品にも反映させるなど日々、試行錯誤ですね。
新規ユーザーの獲得は広告経由の割合が多いですか?
広告経由だけではなく、オーガニックやSNS経由はもちろん、ブログやインフルエンサーなどデジタルで完結する施策は全て実施しています。現状、オフラインからの流入はやっていないです。
各チャネルからの継続率も異なると思うのですが、平均するとどのくらいなのでしょうか。
継続率は公開していないのですが、競合他社で公開している数字と比較すると弊社サービスのほうが高いと思います。
最初に選んでもらうことはもちろん、継続してもらうために取り組まれている施策を教えてください!
1つは、同封している冊子ですね。日本の四季を感じられるような内容を意識しているので、毎月の冊子を楽しみにしてもらえるようなコンテンツ作りを意識しています。
もう1つは、サブスクリプションというサービス形態上、買い方の選択肢を用意することです。
毎月引き落としされるマンスリープランから、12ヶ月まとめて一括支払いのプランまで全部で4つのプランを用意しています。
12ヶ月まとめて購入されるユーザーの継続率が高くなる傾向があるので、12ヶ月プランへ促すような施策やキャンペーンも継続的に行っています。
サービス当初から1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、12ヶ月の細かく選べるプランを用意していたのでしょうか?それとも、徐々に増やされていったのでしょうか。
当初から用意しています。アメリカの他のサブスクリプションのサービスが細かくプランを用意していたのを参考にしました。
サービスを作る側からみて、海外のサブスクリプションと日本のサブスクリプションのサービスとの違いはありますか?
日本のサブスクリプションのサービスは解約がし辛いと思います。グローバルスタンダードでは「キャンセルエニタイム(Cancel Anytime)」なんです。だから、うちもそうしてます。
解約防止よりは、継続してもらえるコンテンツ作りのほうが重要ということでしょうか。
もちろん、一度購入して頂いたユーザーへのクロスセルや休眠ユーザーへの広告配信はやっています。しかし、日本のサブスクリプションサービスで見かける解約直前に「ほんとにいいんですか?」と解約を妨げるポップアップを表示させたり、違約金を請求するなどの施策はグローバルスタンダードではないのでやらないですね。
私たちが戦うサービスはグローバルスタンダードでサービス設計をしています。そのため、うちだけが日本基準でサービス設計をすることは、ユーザーにとっては違和感のあるサービスになりかねないので。
メルマガ読者数約200万人というのをお伺いしました!メルマガで継続的にユーザーとの接点を持つのも大事ですよね。メルマガ以外にコミュニティ作りで行なわれる施策はありますか?
まだ購入していない方でもメルマガだけ登録してくださっている場合もあれば、購買を辞められたユーザーもメルマガだけを継続してくれている場合もあります。
メルマガ以外にも購入者限定のコミュニティとして掲示板を作り交流の場を作ったのですが、実はそんなに使われてないんですよね。
ユーザーが自由に投稿できる仕組みにして、時々マーケターが介入してファシリテーションを行い、話題の提供やスレッドを立ち上げたりしていました。しかし、ユーザーが自由に発言できるようにすると「私はカナダに住んでいて、今月まだ届いてないんけど、みんなどう?」のようにどんな話題でも最終的には配送の話しにしかならなかった。
ポジティブな話よりも、どちらかというとネガティブな話になりやすかった。だから、コミュニティ運営はまだまだ改善の余地があると感じています。
カスタマーサポートの対応がサービスの心
購入者同士が共通の趣味を介してグループを形成するよりは、企業と顧客の1対1がたくさんあるイメージなんでしょうか。
そうですね。カルチャーで言うと、日本よりも顧客と企業の距離は近いと感じます。言語に敬語がないことも要因の1つではないでしょうか。
カスタマーサービスでも「またメッセージくれてありがとう」のように、まるで友達のような感覚でのやり取りも大事です。だから、顧客対応はネイティブの人が対応しないとユーザーへ違和感を与えてしまうリスクが高まるので、顧客満足度にも直結する重要な指標の1つですね。
ネイティブの人が対応するというのは、スラング的な言葉遣いということですか?
スラングというよりは、カスタマーサポートに連絡するということは、何かしら不都合があったり、緊急性の高い事象がユーザーに起きているはずなんです。その時に、カスタマーサポートがカタコトの日本語だと少し不安になることはないですか?
広告も同様ですね。不自然な日本語の広告を見るとサービスへの信頼が揺らぐと思うんです。
つまり、カスタマーサービスでの対応の1つ1つがブランディングに繋がります。逆に、カスタマーサービスでの対応がブランド毀損になるリスクも高いとも言える。だから、できる限りネイティブの人が対応したほうがよいと思っています。
これは、海外のサービスだからというわけではなく、日本のサービスも同様ではないでしょうか。
仰るとおり、良いサービスは?と聞かれた時に印象に残っているサービスは、カスタマーサービスの対応がスムーズだったり、心地よかったサービスな気がします…!サービス自体は良いのに、カスタマーサービスでの体験が悪いとサービス自体の心象も180度違ったものになりますよね…!
良くても、悪くても印象に残る。すごく大事な部分ですよね。
様々な継続の施策は行いつつも、解約される方はどのような理由が多いのかズバリお伺いできますか…?
配送遅延を理由とする解約が多いのが越境Eコマースならではではないでしょうか。国内であればどんなに遠くても2日後には届くので、越境でもできる限りお待たせしない仕組みづくりを常に配送業者と交渉をしています。しかし、海を越えて様々なのルールの元では全てのリスクを回避するのは難しい面も多いです。
コントロールできない部分も多い中で、工夫されていることを具体的にお伺いしたいです!
社内でできることは、ユーザーを待たせないように、受注から3営業日以内に絶対出荷することをルール化すること。
サブスクリプションの定石はできる限りオペレーション負荷をかけずにサービスを回していくことが大事です。競合他社は毎月5が付く日しか配送をしないようにするなどして、サービス価格を下げることができます。
しかし、うちは日本から海外へ配送する時点で日数のビハインドがある。だから、3営業日以内の発送や、カスタマーサポートを手厚くするなど細かい部分をちゃんとやり続けることが大事だと思っています。
カスタマーサポートのマニュアルについてもお伺い出来ますか?
届かなかった場合の返金システムや、どのように謝罪するのかまでマニュアルを作り誰が対応しても一定水準の対応レベルになるようにしています。
荷物が届かずに嫌な気持ちになってしまったユーザーも、カスタマーサポートの対応が良かったから、もう少し続けてもいいかな。と思ってくれたりもするので、企業努力は惜しみません。
カスタマーエクスペリエンスはサブスクリプションの肝というのは国内外問わず重要なポイントなんですね…!しかし、マニュアルを作っても、マニュアルが浸透しないとサービス品質の向上には繋がらないと思いました。
多くの会社がCS(カスタマーサクセス)部門のスタッフの入れ替わりによる対応品質の低下を課題に感じると思うんです。だから、入社時の研修と顧客対応を全てマニュアル化することで、対応する人による品質の差が出ないようにすることを徹底しています。
また、カスタマーサポートのはZendesk を使って、ファーストリプライや問い合わせから解決までのやり取りの回数、お客様満足度までを数字で可視化しています。可視化した数字はカスタマーサポートチームにはOKR(Objectives and Key Results)として持ってもらっていますね。
※OKRとは…「Objectives and Key Results(目標と主要な結果)」の略称です。 「達成目標(Objectives 以下O)」とその達成度を測る「主要な成果(Key Results以下KR)」を設定して、企業が目指すべき目標と社員個人の目標
OKRの具体的な指標をお伺いできますか?
例えば、ファーストリプライは21時間以内、やり取りは3回以内で解決する、顧客満足度85%以上などの指標があります。
これらを2週間に1度の頻度で進捗確認をし、データで悪いところは分析と改善の繰り返しですね。
売りたいものと欲しいものは違う。数字に基づく徹底したデータ主義
想像以上にオペレーションがすごくしっかりしていてびっくりしています…!しかも、”楽”しようというオペレーションではないのがとても興味深いです。
仰るとおり、オペレーションの会社だと思います。オペレーションも効率化で楽をするよりは、みんなが同じことができるようにする平準化と顧客満足度の向上に重きをおいています。
属人化をなるべく排除するオペレーション化の中で、あえて属人化を残している業務はあったりしますか?
商品の目利きを行うバイヤーは個性が出るので属人的とも言えます。
毎月のテーマに合わせてバイヤーが選んできた商品をチーム会議でふるいにかけて、最終的に私の所にくるんです。その時、バイヤーからの選定ポイントも一緒にもらうのですが、私が最終判断にするのはデータに基づく根拠ですね。
競合の販売状況や、実績のデータと照らし合わせて決定するようにしているので、属人的ではありつつ、最終的には数字ですね。
今後、越境Eコマースを検討している企業に「ここだけはおさえておきたいポイント」をアドバイスするとしたらどのような言葉を送りますか。
ポイントは顧客獲得をできるマーケティング体制とカスタマサポートの2つだと思います。
例えば、シンガポールで物を売りたい場合、マーケターが全員日本人で、誰もシンガポールに行ったことがないのではだめですよね。代理店に委託する場合も、社内のメンバーがマーケティングのことがわからない状態で丸投げするのも厳しいですよね。
シンガポールで何が流行っているのか、効果的なマーケティング手法などを現地での市場調査して知識として持っている必要があると思います。そうでなければ、仮に外注するとしても費用だけが嵩んで売上を立てづらくなるだけなので。
なぜなら、私たち日本人が売りたいものと、海外の方が欲しいものは異なるんです。その認識のギャップを埋めないと成功は難しいのではないでしょうか。
文化や生活様式の異なる海外においては、人々の目にする広告がWeb広告だけとは限らないですよね。例えば、日常で使っているアプリも異なれば、Web広告よりもOOHの看板広告のほうが多くの人の目に留まるなど有効な手段は異なりますよね。
そうですね、その1つのベンチマークとして競合調査をちゃんとすることも大事ですね。他社は競合調査をやらなさすぎる…!
自社のサービスだけではなく、類似サービスの商品や仕入れ価格から宣伝費にどのくらい予算を使っているのかなど、競合調査を行うことで自社サービスの方向性も決まってくるんです。
例えば、水をシンガポールで売りたいとします。シンガポールで水を買う人がいれば、すでに水を売っている誰かがいるはずなんです。もし、水が売られていない場合は、水が認知されていないか、そもそも求められてないかという可能性が考えられる。しかし、競合がいないサービスはほとんどの場合、需要がないことが多いですね。
サブスクリプションブームで様々なサービスが生み出され、ブームが去っても継続されるサービスと淘汰されるサービスとの違いはなんだと思いますか。
コストコントロールです。成長市場であれば、売上は伸びるんです。しかし、健全な伸び方かどうかが大事になります。
マーケティング費用の垂れ流しでは黒字体質にはならないですよね。だから、何でもかんでも外注するのは自社にノウハウが溜まらないことに加えて、コストの観点でも危険と言えると思います。
もちろん最初から自社で全てのシステムやマーケティング体制を構築するのは大変です。しかし、サービスがグロースする前から自社構築をしたほうがいいと私は思います。
例えば、売上10億円の規模になってから外注していた倉庫を自社で借りるとなると、家賃だけではなく、倉庫の人材採用も数10人規模で対応する必要が出てくる工数は膨大です。だから、グロースする前の商品数が少ない所から徐々に増やしていくほうがコストもリスクも小さくできるのかなと。
なるほど…!スタートアップ時期こそ、やらないといけないことが多い為、大変な作業は外注してしまいがちですが、大変だからこそ大事ということですね…!
編集後記
近本さんとのインタビューは終始、ハイスピードでのやり取りのラリーがテンポよく続いた。とても聡明で1つ1つの質問に真摯に答えていただいたように感じる。
現在、ICHIGOでは様々なサービス展開を行っていますが、自社サービスの顧客基盤を基に、競合調査、市場調査を行い、勝算を見出してから開始する徹底ぶりは、ここ数年の事業の成長率も納得せざるを得ない。
様々なマーケターのタイプがいますが、競合調査や、マニュアル化やデータに基づいた意思決定…全てが当たり前と言われたら当たり前ですが、全てをちゃんと出来ているかと言われて首を縦に頷けるマーケターはどれほどいるでしょうか。身が引き締まるようなインタビューでした……!
最後に、サービスのパイプを利用すれば、海外のものを日本に輸入するサービスもできるのではないかという質問に対し、全然土俵が違うと答える近本さん。マーケティングにおいて、顧客獲得が一番大事であり、大変なこと。今行っているマーケティングが日本人にも通用すると考えておらず、全く異なるアプローチを行う必要があるため現状は考えていないと言う。
しかし、メルマガ登録者数も200万人とSNSの合計フォロワー150万人を誇るユーザー基盤は、間違いなくICHIGOのこれからの可能性であり強みであると言える。今後も、Eコマースで日本の文化を海外に届けるサービスを基に、日本好きの海外ユーザーが来日した際の接点を持てるビジネスを検討中というICHIGOのこれからに目が離せない。
文:杉山 美和
写真:杉山 美和/齋藤 彩可