「ものづくりをデザイナーだけのものにしない」GREEN SPOONに学ぶ、ブランドとお客さまをつなぐコミュニケーション設計の哲学

池田明香里さん(写真左)
専門学校でWebデザインを学んだ後、事業会社のインハウスデザイナーへ。2020年からデザイナーとしてGREEN SPOONに携わり、2021年に入社。現在は情報設計、UIデザイン、フライヤーやポスターの制作、撮影ディレクションなど、主に既存顧客向けのコミュニケーションデザインを担当。

三角茜さん(写真右)
新卒でメーカーに入社し、革製品ブランドの販売・広報を担当。デザイナーとして転職するために専門学校へ通い、2021年にGREEN SPOONに入社。現在は、フライヤーやポスターの制作、撮影ディレクションなど、主に新規顧客向けのコミュニケーションデザインを担当。

GREEN SPOONとお客さまをつなぐ企画から情報設計を体現するデザイン

可愛らしくおしゃれなイラストの商品パッケージ、シズル感のあるWebサイトやLPなど、見る人たちの気持ちを高揚させてくれる「GREEN SPOON」のクリエイティブ。デザイナーの私は、そのクオリティの高さと細部に宿るこだわりにかねてより注目していた1人です。前回の取材時にCOOの黒崎さまが「クリエイティブは一つ一つの意図を全て説明できるほどロジカルに制作している」と仰っていたとお聞きしました。そこで、今回はコミュニケーションデザイナーのお二人に「GREEN SPOON」がどんな意図を持って制作されているのかをずばりお伺いしたく参りました!まずは、お二人の普段の業務について教えて下さい。

「GREEN SPOONとお客さまをつなぐコミュニケーションをより良くする」を目標に、WebサイトのUI(ユーザーインターフェース)設計から、商品に同梱する紙媒体やフライヤーまで媒体を問わず、企画から情報設計、表現まで一貫して担当しています。「どうしたらお客さまに喜んでもらえるか」を常に考えています。

コミュニケーションの相手によって大まかに業務領域を分けていますが、基本的には明確な分業はせず、2人で密に連携しながら業務を進めています。

お二人はデザインのアウトプットだけではなく、企画段階から携わっているのですね。

私が入社した頃は、プランナーがお客さまとのコミュニケーション戦略を立案して決めたアウトプットをデザイナーが形にする、分業型でした。

しかし、コミュニケーションやアウトプットの方向性が確定した状態からの制作では、出来上がったビジュアルを見て、初めて違和感に気づく事がありました。

その後、制作プロセスの見直しを行い「お客さまにどのように情報を届けるか」という体験を考える段階から携わるようになりました。現在は、デザイナーが各チームのプランナーと密に連携しながらデザイン制作をしています。

デザイナー職の場合、作業に専念されている方も少なくないですよね。当たり前のように、デザインの前段階のコミュニケーション戦略にお二人が課題や違和感を持たれている着眼点が凄いです!

私たちはコミュニケーション設計まで含めてデザインと捉えています。例えば、オフラインで初めてGREEN SPOONのことを知るお客さまと、定期ご利用中のお客さまとでは、商品に対する理解度もモチベーションも異なるので、届けるべき内容も届け方も変える必要があると考えます。


以前、某ホテルの朝食で「GREEN SPOON」を提供した際に、朝食会場入り口に設置するポスターを制作したことがありました。ポスターがあればお客さまに見てもらえると思ってしまいがちです。

しかし、お客さまが朝食のことを考えるのは当日の朝ではなく、チェックインの時なのではと想像し、フロントに小さなポップを合わせて設置することを提案しました。

制作したクリエイティブは「それだけでは解決しない」ことがあると思っています。ホテルの例も同様で、チラシやポスターだけではなく、チェックイン時にお客さまに一声かけてもらうなど、紙以外の解決策も十分にありえますよね。

コミュニケーションによって、最適なアウトプットは変わるので、お客さまが「GREEN SPOON」に出会うタイミングや時間軸によって、クリエイティブの表現を変えることを常に意識しています。

戦術を担っているからこそ、戦略の違和感に気づく場面も多いですよね。お二人がマーケティング思考を身につけるために普段から意識していることはありますか?

制作したクリエイティブを、必ずお客さまと同じ状態で確認するよう心がけています。お客さまと同じ視点で体験することで、作り手として見落としてしまっていた気づきを得ることができます。

また、私たち自身が生活の中で体験した、嬉しかったことや悲しかったことを言語化し解像度を上げることで、何が人の心を動かすのかをチームで深掘りしています。

池田さんの研究の成果を感じたクリエイティブがあれば教えて下さい!

ファミリーマートさんで販売したスムージーの商品棚の「ポップデザイン」です。実店舗での販売だけではなく、普段から定期購入いただいているお客さまとはモチベーションも異なります。「GREEN SPOON」を知らないお客さまにどのようなコミュニケーションをすればいいのかたくさん悩みました。

実際に、コンビニに並んだ時にお客さまが「どんな感情になるのか?」を体験するために、モニターに撮影した写真を表示させ、擬似のコンビニ棚を作って検証を重ねました。

モニターに撮影した写真を表示させた、自作の擬似のコンビニ棚

今回ファミリーマートさんで販売したスムージーの商品パッケージは食材写真ではなくイラストが使われているのが印象的でした。これは通販商品のスープやメインディッシュなどのシリーズに共通している要素ですが、どのような意図があるのでしょうか?

GREEN SPOONは創業当時からクリエイティブスタジオのチームと一緒に、思わず手に取りたくなるような遊び心のあるパッケージデザインを目指してきました。「たのしい食のセルフケア」を届けるために、「摂らなきゃいけない」野菜から「摂りたくなる」野菜に変えていきたいという想いが込められています。

画像引用元:初めてのコンビニポップデザイン奮闘記。小さな世界に詰め込んだ想い。

「GREEN SPOON」で野菜を摂る時間がお気に入りのファッションを選ぶように、たのしくてワクワクしたものであってほしいと思っています。

だから機能だけを前にしたパッケージデザインではなく、生活の中に馴染み冷凍庫を開けて商品を選んでいる時間さえもたのしくなるポップなイラストやカラーのデザインを採用しました。

「これでいいや」という消極的選択ではなく、「今日はどれにしようかな」と商品を選ぶ楽しみが感じられそうなパッケージですよね。

ありがとうございます!ただ、コンビニに通うお客さまは、日々のルーティンとして店舗に訪れたり、買う商品をすでに決めているケースも多いです。いつもは別の商品を手に取る方に「GREEN SPOON」のスムージーをわざわざ選んでもらうためには、どのようなコミュニケーションが必要か考えることがとても難しかったです。

コンビニ棚の場合、スムージーの両脇には他社商品のパッケージと一緒に陳列されます。加えて、金額も決して低価格ではありません。その中で、手に取ってもらい、購入していただくためには、お客さまに対して「GREEN SPOON」のスムージーの機能価値をしっかりと伝える必要があると考えました。

おっしゃるとおり、他社商品と並ぶとパッケージだけでは「ちゃんと野菜やフルーツが摂れるのかな…?」という気持ちになるかもしれません。

そうですよね。そのため私たちは、「パッケージの延長」として、ポップを活用、遠くから見て気になった人が、近づいた時に「飲んでみよう!」と思えるように、商品の味を想像できて、機能が伝わるコミュニケーションにしました。

画像引用元:初めてのコンビニポップデザイン奮闘記。小さな世界に詰め込んだ想い。

野菜や果物、液面のビジュアルとコピーを使用することで、食感のたのしさと野菜やフルーツがたくさん摂れることが瞬時に伝わるデザインを目指しました。

「クリエイティブをパッケージ単体で考えずに、ポップを含めてデザインする」のは目から鱗でした!デザイナーとしての個人的な悩みなのですが…手を動かすことに集中しすぎて近視眼的になってしまうことがあります。制作中に目的を見失わないために気をつけていることはありますか?

個人的には、意識的に論理と感覚を切り替えることが多いです。作り手として意図を持って制作し、お客さまと同じ立場で感覚的にレビューしています。


例えば、Webサイトのワイヤーフレームを作るときにも、各セクションごとでお客様に「伝えたいこと」や「なってほしい感情」を言語化しています。そうすることで、制作の過程で目的を見失いそうになった時に、いつでも立ち戻って確認できるメモを配置しています。

立ち戻れる場所を作るのはとても良い方法ですね!早速私も実践してみます!

自分たちが本当にいいと思えるまで、お客さまにお届けしないことも私たちの特徴かもしれません。
例えば、現在のブランドサイトは、完成間近の締切2週間前のタイミングで、改めて情報設計を見直し、デザインを改修したこともありました。

画像引用元:「Green Spoon」公式サイトより

締切2週間前!?かなり思い切った決断ですね…!

伝えたいことの軸がぶれると、最終的なアウトプットにも違和感が出てしまいます

そのため、各セクションで伝えたいわくわく感やどんな気持ちにしてもらいたいかなど「なに」を「お客さまに」に「どのように伝えるか」という根底の部分はもちろん、ニュアンス部分まで言語化の整理とチームでの対話を重ねました

顧客視点の徹底とチームの掛け算から生まれる、妥協のないクリエイティブ

顧客視点での検証の徹底が「GREEN SPOON」のクリエイティブを生み出すんですね!「GREEN SPOON」のクリエイティブはオンラインだけではなく、同梱物などのパンフレットに至るまでこだわりを感じています。たとえば、フードの写真はフードコーディネーターの方が携わられているのか、というほど美味しそうに撮られていますよね。

既存のお客さまに届く同梱物のパンフレットは、パッケージデザインとは少し違い、美味しそうな商品写真が主役になるデザインを意識しています。既にGREEN SPOONを注文してくださっているお客さまへ届くものなので、次回はこれを食べてみたいな、と思ってもらえるようなものを届けたいと思っています。

また、広告でも商品イメージをメインに使用していますが、動画を積極的に活用しています。オンライン上でも実物のイメージやサイズ感が伝わりやすく、「どんな商品なのか」を直感的に感じてもらえるのではと考えています。

公式サイトを拝見しました。シズル感たっぷりの美味しそうなフード写真が目を引きます。ぶっちゃけ、どのような意図で企画から撮影までをやられているのか、撮影の裏側についてもお伺いしたいです!

商品写真の撮影はクリエイティブスタジオ含めた社外のチームにご協力いただいています。私たちが言語化した商品1つ1つのイメージをアートディレクターにお伝えし、どのようなアウトプットにするか、表現の提案をしていただいています。

写真をよく見ると、メニューごとにお皿やカトラリー、下に敷いてある布もすべて異なりますよね!

お客さまに「似ている商品が出た」と思われてしまえば、それは「食べたくなる新商品」とは言えません。食器や小物類を変えることで、メニュー一覧で見た時、全ての商品に個性を感じられるように撮影しています。

画像引用元:公式サイトAll Products より

以前、飲み物の撮影をした際に、美味しそうに見せることが想像以上に難しかった経験があります。食べ物や飲み物を美味しく撮影するコツがあれば教えて下さい…!

難しいですよね…!私たちもスタイリストさんに相談しながら、コップの種類や盛り方を変えたり、グラスにどこまで注いだら美味しそうに見えるかを検証しながら撮影をしています。

またスムージーを撮影した時は、商品がすぐに溶けないよう、撮影部屋の温度をかなり下げて撮影をしていました。

そのような試行錯誤を繰り返す中でも、クリエイティブ全体に統一感があり、1つ1つの完成度の高さに同じデザイナーとして感服しています。クリエイティブガイドラインなど詳細に定められているのでしょうか?

実は、細かいデザインガイドラインは存在しません。ブランドカラーの規定はありますが、全ての制作物に反映させているわけではありません。

そうなんですか!?あえて定めていない理由はありますか?

ガイドラインを細かく決めすぎると、制作物の表現の自由度が狭くなってしまうと思っています。

例えば、定期注文をしてくださっているお客さま向けのクリエイティブは、ガイドラインに忠実な世界観をベースにしながらも、新しいワクワクを届けられるよう遊び心のある表現を心がけています。


一方、初めてGREEN SPOONに出会うお客さまに対しては、そもそも私たちが何者であるかを伝える機能的な情報も必要なので、ガイドラインにはない表現を採用することもあります。

お客さまとの関係性と「GREEN SPOON」の人格を考えた時にこのタイミングではどういう表情をするか、を考えながら表現を決めているようなイメージです。

「GREEN SPOON」の人格、というのは面白い表現ですね!表現の自由度が高い中で、お二人が大切にしている考え方があれば教えてください。

お客さまに喜んでもらえるためには何ができるかを常に考えています。その上で、私たち自身の心が揺さぶられているかどうかも大事にしています。

自分自身の「感動」がお客さまへの最高の顧客体験に繋がるということですね。

「自分を好きでいつづけられる人生を。」という弊社のビジョンにも通じますが、自分たちが本当にいいと信じられるサービスだからこそお客さまに喜んでいただけるものを届けられると思っています。

ここまでの話をお伺いし、デザイナーチームだけで完結せずに、外部パートナーや社内チームとの連携を密に取りながら、制作を進めていく姿勢が感じられました。

最終的なアウトプットの責任は私たちが負いますが、「ものづくりをデザイナーだけのものにしない」という姿勢はクリエイティブチームに浸透しています。

ものづくりの醍醐味は、チームの掛け算だと思っています。デザイナーだけの思考にとらわれずに、各メンバーの視点から抽象的なアイデアを広げたり具体化を繰り返すことで、伝えたいことやそのために必要な要素の解像度が上がります。

様々なチームとスムーズな連携をするために、デザインチームとして普段から取り組んでいることはありますか?

お互いの共通言語を持てるようにしています。

例えば、各デザインプロジェクトごとにPinterestでムードボードを作って、チームで共有しています。デザインに行き詰まった時に、目指すべきゴールや、過不足の要素が可視化されるので、お互いにフィードバックの質があがります。

ムードボードは作りっぱなしになっており、十分に活用ができていなかったので早速私も取り入れたいと思います!最後に、クリエイティブに携わる数々のメンバーの中で、お二人が目指していきた理想像があれば教えて下さい!

肩書きや媒体にはあまりこだわらず、純粋に「どうしたらお客さまに喜んでもらえるか」に意志を持って向き合っていきたいと思っています。

ブランドとお客さまのどちらかからの一方通行で考えるのではなく双方向で考える。コミュニケーションによって、お客さまがどのような影響を受けて行動に移すのか。そして、どのような気持ちになるのかを1番に考えられるチームでありたいです。

「GREEN SPOON」のクリエイティブを牽引していくお二人は非常に心強い存在ですね。顧客視点を徹底しチームを巻き込みながら制作に向き合う姿勢は、事業に携わる多くの人々にとっても見習うべきことが多かったのではないでしょうか。貴重なお話をありがとうございました!

編集後記

弊社でも度々話題になっていた「GREEN SPOON」のクリエイティブ。インタビューにあたり「ずっと素敵だなと思って、注目していたんです」とお伝えしたところ、目を輝かせながら「本当ですか!?社外からそういったお声を聞く機会が少ないのですごく嬉しいです!」と喜ばれていたことが印象的でした。

中でも、私が最も印象に残ったのが「ものづくりをデザイナーだけのものにしない」という言葉でした。広告に携わるデザイナーとして、ディレクションやクライアントワークに携わる立場ですが、今回の取材を通じて、デザイナーだけに留まらずに他のチームを巻きこみながら多角的に物事を見ていくことの重要性を改めて感じました。


また、「味や成分にもこだわっていて、すごく美味しいんです!」と、ブランドに誇りを持ち、「良いものを届けたい」という真っ直ぐな思いがあること、そしてお二人がクリエイティブ制作を心から楽しんでいることが伝わります。


「お客さまのためになることなら妥協しない」という一本筋の通った軸がブレないからこそ、自由度が高く柔軟な制作体制でも方向性を見失わず、お客さまにとって高い価値のある体験を生み出すことができるのではないでしょうか。

文 :内藤 香
編集:杉山 美和
写真:齋藤 彩可、GREEN SPOONさま提供

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