使うたびに自分を好きになる商品設計。食の感性を育む”健康”ブランドの「飽きさせない」宅食が全国のコンビニに並ぶまで

黒崎 廉さん(常務取締役COO)

ITサービスやAIの開発を行う株式会社ワンオブゼムにて事業開発PMを担当し、様々なWebサービスのグロース事業に従事。その後、2019年5月に代表の田邊、小池と共に株式会社Greenspoonを共同創業。 現在は事業責任者として顧客体験に紐づくサービス設計全体の売上管理、マーケティング領域全般を担当。

ビジョンと共感が生み出す、愛されるブランドができるまで

私の周辺にも愛用者が多い、食×D2Cの「GREEN SPOON」がなぜここまで愛されるブランドとして急成長をしつづけられているのかについて様々な角度から深堀りしていきます!本日はよろしくお願いします!!

よろしくお願いします!食×D2Cをサービスを展開していますが大前提、食をEコマースで届けること自体がまだまだ一般的ではないからこそ、思い描いていたことではありますが累計12万人の会員さまに愛用頂けていることは嬉しい限りです。

宅食というサービスもコロナ禍を経て、人々の生活に馴染んできている感覚を持ちます。

「GREEN SPOON」もコロナ禍の宅食市場の需要増加がサービス拡大のきっかけです。

在宅が増えたことで家での食事に課題を感じる方が増え、世間的にもWebで食べ物を買うことへの心理的抵抗も少なくなりました。その後、徐々に宅食の文化が醸成されたことは弊社事業としては追い風でしたね。

コロナも収束し、宅食市場の成長曲線も緩やかになる中で「GREEN SPOON」のサービスが伸び続けている理由はズバリなんだとお考えですか?

商品カテゴリーを拡大しているのが理由の1つと考えています。「GREEN SPOON」はスムージーから始まったサービスですが、現在ではスープやサラダ、メインディッシュのおかずまで商品カテゴリーを増やしています。

当たり前ですが、 スムージーを飲む人よりも、おかずを食べる人の方が圧倒的に多いですよね。少しづつ大きな市場にチャレンジして市場を広げてきたことが、事業拡大にも寄与しています。

市場を広げても、買ってくれる人がいないと事業拡大には直結しないですよね。スムージーから始まった人々が「GREEN SPOON」を買い続けてくれる理由はどこにあるのでしょう。

「GREEN SPOON」が機能的価値を全面に打ち出したブランドではないことが理由の1つです。

弊社創業時、最初に行ったのが「GREEN SPOON」というサービスよりもビジョンを作ることでした。その時のビジョンが「自分を好きでいつづけられる人生を。」です。このビジョンには自分を好きでいつづけられる人生を増やしたいという想いがあります。

だから機能としての食を求めている方ではなく、楽しい食のセルフケア習慣を作るというミッションにあるような、情緒的な価値にも共感してくれるお客さまが「GREEN SPOON」を選んでくれているのかなと思います。

想いに共感してくれているファンがいるからこそ、一貫したビジョンから展開される商品を手にとってもらえるということですね。

サービスに紐づく意思決定はすべてビジョンに即しています。そして、サービスの意思決定だけではなく、プロダクトやGREEN SPOONからのメッセージも全てが「自分を好きでいつづけられる人生を。」というビジョンに向かったものになっています

だから、それらの一貫性をお客さまが感じとって、共感してくれているのであれば嬉しいですね。

「自分を好きでいつづけられる人生」を実現するにあたって、衣食住という人生を成形する1つの柱である「食」を選択された理由はありますか?

創業メンバーの原体験において「食」への課題感が1番大きかったことがきっかけです。

20代をかなり忙しく働いていた私たちは、毎日コンビニのお弁当を食べる日々で食に気遣うことがほとんどなかったんです。私たちが課題を感じていて、かつ共感できないと事業も作れないと考え、「食」を選びました。

食品市場のEコマース率の低さや、市場の参入障壁の高さなどかなり大きなチャレンジだったと推測します。当時はどのようにお考えでしたか?

創業時は食の事業の大変さはほとんど考えていなかったです。しかし実際に事業を始めてみると、工場開拓や流通の仕組みづくり、商品開発などの食ビジネスの大変さに後から気づかされました(笑)

冷凍食品の裏側に記載されている原材料メーカーさんや工場を片っ端から調べたり、食品市場の知見のある方に話を聞きに行ったり、文字通り手探りの状況でした。

足で稼ぎながらの開拓は大変なことのほうが多かったと思います。当時を振り返って、自分たちの作りたいものと依頼先の工場のギャップはどのあたりにあったのでしょう。

工場側としては、1回に作る量が多ければ多いほど作業効率は上がります。だから、依頼するSKUは極力少なくするのが定石です。

しかし、我々は初めから25種類のパーソナルスムージーを作ろうとしていました。工場の立場からすると、利益が出るかも分からない商品のために工場のラインを空けるメリットは低いので、当たり前ですが「そんなラインはありません」と断られ続けていました。

幸いにも、1つ工場の方が私たちの企画を面白がってくれてなんとか製造できるようになったんですけど。

※ SKUとは…Stock Keeping Unit(ストック・キーピング・ユニット)の略。受発注・在庫管理を行うときの、最小の管理単位をいいます。

ファーストペンギン的な工場の存在が大きな転機だったんですね。無事工場が見つかり、晴れて製造できるようになりました。その後、商品を届けるにあたって想像と違った難しいポイントはありましたか?

お客さまに正しい状態で届けられるように出荷フローを整えるという当たり前のことがこんなにも大変なことだとは思わなかったです。

冷凍でお届けしている為、出荷の過程で溶けてしまう問題が大きな課題の1つでした。当たり前のことを当たり前に遂行することが最初はとても難しく、お客さまの手に届いた時にベストな状態で届けられるように商品の箱詰めの仕方を工夫したり、同梱物が濡れないように何度も配送テストを行いました。

また、配送の方にも冷凍食品と確実に気づいてもらえるように箱への印字を工夫をしたりなど、小さい配送トラブルを少しづつ改善していき現状、ある程度安定して配送できるようになりました。

商品開発からパッケージまで考えられた、飽きのこない商品体験とは

自分でやってみて初めて気づくほど、私たちが普段当たり前のように享受している日本の配達が高水準のクオリティであることの証明とも言えますね。素朴な疑問なのですが、わざわざ配送も大変な「冷凍」にしているのにはなにか理由がありますか?

我々が理想とする商品をお届けする場合に、冷凍が最適だと考えたからです。

「食」のビジネスで難しいポイントの1つが賞味期限です。冷凍にすることで、保存料を入れずとも賞味期限を伸ばすことができ、在庫破棄が抑えられます。お客さまにとっても、冷凍庫で長く保管できるので自分の好きなタイミングで食べることができます。そうすると外食が続いた時など、頼んだ分を余らせないように無理して食べなくてはいけない状況や気づいたら腐らせてしまっていた罪悪感もなくすことができます。

ただ、常温にすることで新しいお客様に届けられる可能性もあるので、冷凍にこだわっているわけではありません。

事実、今回ファミリーマートさんで販売したスムージーは冷凍ではありません。常温と冷凍のそれぞれに良い面はあるので、流通販路に合わせて最適なお届けの仕方を模索していきたいですね。

コンセプトの話がでてきたので、商品設計にコンセプトをどのように組み込んでいるのかについても詳しくお伺いしたいです。

「自分を好きでいつづけられる人生を。」を体現するためには、自分のことを大切にすることが最初の1歩と考えています。

過去の私がそうだったように、連日の食事で市販のお弁当を食べ続けるのって心理的に結構しんどいんですよね。味の問題以前に食事が惰性になるというか、自分のことを大切にできていない感覚というか。

そのため、GREEN SPOONは惰性にならないように、素材をそのままお届けして、それに調理を加えて食べていただくような商品設計になっています。お皿に移してレンジで温めるだけですが、そのひと手間を加えて、自分のお気に入りのお皿で食べていただく。そういう情緒的な行為1つ1つで「食べる」という行為そのものの感覚が変わると思うんです。

確かに…!栄養不足も気になりますよね。ただ、それ以上に自分に余裕がなかったり、ご自愛できていないという小さな罪悪感を感じて「自分を好きでいつづけられる」という状況とは程遠くなってしまう気がします。

まさに、お客さまからもGREEN SPOONを食べると自分に良いことをしている気持ちになれるという感想をいただくことが多いです。

そのため「GREEN SPOON」では届いた素材をレンジで調理をし、出来立てを食べてもらう体験を大事にした商品設計にしています。

料理は出来立てが美味しいからこそ、出来合いのものを温め直すのではなく、一番美味しい瞬間に食べていただきたいですよね。

「丁寧な暮らし」には憧れるけど、いきなり自分の生活をガラッと変えるのは物理的にも大変ですよね。だから、「GREEN SPOON」を食べることは「現状からの脱出」と「丁寧な暮らし」のちょうど中間のグラデーションになっているのかもしれないと思いました。そして、グラデーションがあるからこそ、できなかったことの嫌悪感を感じることも少なく、自分を好きでい続けられるのかなと思いました。

確かに、そういう考えもありますね。

「GREEN SPOON」を買われる方は、大なり小なり食生活に課題を感じています。だから、「GREEN SPOON」を買う行動が自分を好きでい続けるためのアクションになれるよう、自分にいいことしている感覚をもってもらうためのサービス設計を大事にしなければいけないと思っています。

サービスを好きでい続けてもらうために、御社が意識しているポイントがあればぜひ、聞かせてください!

「お客様に楽しんでいただく」ことを意識しています。例えば、「GREEN SPOON」では毎月新商品を出していますが、毎月テーマを決めて、それに合わせたキービジュアルを用意するなど、新商品発売を楽しんでいただけるようにお届けしています

また、冷凍庫から「GREEN SPOON」を選ぶ時も、ただ選ぶだけではなく、自分の生活にときめきを感じてもらえるように商品パッケージのイラスト1つ1つにもこだわっています。

パッケージが可愛くて選ぶ時にときめきを感じますね!機能面だけを打ち出していると、商品選択や、ユーザーのひと手間の行動すらも省きたくなるものなのかなと思いました。一方、「GREEN SPOON」のビジョンを基にしたサービス設計や商品体験のこだわりが一般的な通販の課題解決のプロセスと一線を画すのかなとこれまでのお話を伺って感じました。

購入動線をとにかく短くしたり、お客様への連絡を控えたりするなど業界の様々な課題解決のテクニックはありつつも、本質的には、お客様の生活にとって大事なものである状態を作ることです。

結局、物は届きます。だからこそ、その体験はより良くしたいというだけでなにか特別なことをしている感覚はないんですけどね。

効果効能を求めるだけでは、課題が改善すれば使い続ける理由はなくなります。しかし、「GREEN SPOON」は機能面を超える理由があるから選ばれ続けられているということですね。

もちろん、機能面は当たり前に達成しなければいけない基準と考えています。なぜなら、消費者は情緒面だけでは買わないと思っているので、機能が整っている前提でこれまでの話ができるのかなと。

例えば、「GREEN SPOON」が一食1,000カロリーだったら誰も買わないと思うんです。なぜなら、自宅で健康でヘルシーなご飯を簡単に食べたいというユーザー大前提の心理からは逸脱してはいけないし、そのニーズを満たす機能面の基準は必須だからです。

あまり表では言っていないですが、「GREEN SPOON」の商品はカロリーやタンパク質から脂質まで成分の基準を設けており、商品クオリティは他サービスにも負けないくらい力を入れている部分でもあります。

Eコマースを飛び出した「GREEN SPOON」の新たな挑戦

これまでのお話を踏まえて今回、全国のファミリーマートでのスムージーの販売に至ったきっかけを教えて下さい。

市場規模66兆円以上の巨大な食品業界ですが、コロナ禍で市場が拡大したといってもEコマース率はわずか約4%です。(2022年時点)つまり、残り96%はオフラインで買っている実情において、Eコマースにとどまる理由はないと考えています。

日常生活で「GREEN SPOON」に触れる機会を作る目的でファミリーマートさんとのプロジェクトは数年前から動き始めていた待望の企画でした。

待望の企画の背景についてもお伺いできますか?

健康意識の高い幅広い層に訴求していきたいというファミリーマートさんのニーズと「GREEN SPOON」のメインユーザーがマッチしたのが今回の企画の背景です。

そのため、ファミリーマートさんとの取り組みは「GREEN SPOON」に触れる機会を増やすことと同時に、世間からの認知率を上げるチャンスと考えています。

両者の課題がマッチしたからといって、全国のコンビニの棚に置けるかというと、そんなに簡単なことではないですよね…?

おっしゃるとおり、コンビニ側も店舗にお客さんの来店を促したいし、商品を追加することは棚に置いている既存の商品を置き換えることになります。つまり、コンビニに陳列している数多くの商品の中から選ばれる必要があるので棚においてもらうだけでも一苦労です。

ましてや、新興ベンチャーがいきなり営業して「棚においてください」と言って置いてもらえる世界でもありません。仮に置いてもらえることになっても、卸の製造数の規模感も桁違いです。

ですが、棚に置いてもらえることになったときのインパクトは大きいです。だから、Eコマースでサプライチェーンの強化や販売実績づくりを頑張った結果、今回のチャンスを掴むことができたと考えています。

まずは、自分の主戦場でしっかりと結果を出す。その上での新たなチャレンジということですね。実際の反響はいかがですか?

まだ定量的にその効果を測るのは難しいです。しかし、販売チャネルごとに「GREEN SPOON」を求めるお客さんも違うので、Eコマースの商品をそのままコンビニに置いてもらえる価格帯がまったく異なるので売れないでしょうね。

商品価格だけではなく、「GREEN SPOON」のビジョンをオフラインでも感じてもらえるかというのも引き続き模索していかなければならないです。

だから、販売チャネルに合わせた商品を私たちのも企画しながら「GREEN SPOON」の認知を広げていきたいですね。

※2024年5月8日(水)~2024年5月21日(火)の期間限定で渋谷スクランブルスクエア にオープンしたポップアップストアにて撮影

編集後記

さまざまなマーケティング施策で成功事例として取り上げられることも多い「GREEN SPOON」。サービス開始から4年目にもかかわらず、累計会員数は15万人を突破し、急速な成長を続けています。Eコマースを越えて、リテール店舗でのサービス拡大にはどのような背景があるのか。そして、この急成長の裏側には、「やりたい」一念だけでは実現できない壁や小売業の店頭に商品を並べることの大変さがあったはずだが、その苦労の過程はあまり語られることは多くありませんでした。

そこで、全国のコンビニ展開に至るまでの背景や困難を乗り越えた軌跡に迫った今回のインタビュー。数多あるD2Cサービスの中から「GREEN SPOON」が選ばれ続ける理由には、機能面での課題を乗り越え、ビジョンを軸に据えたサービス設計がありました。そこには、単なる宅食サービスを超えた、生活者一人ひとりの”心の満たされ方”への気づきがあった。食を通して自分自身を大切にする。そんな当たり前のことをあえて意識化させる商品設計には、全てのEコマースの方も共通する考え方なのではないでしょうか。

文 :杉山 美和
写真:齋藤 彩可

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