
河端竜児(こうばたりゅうじ)さん(写真右)
明治大学を卒業後、2015年にKURAND株式会社に入社。2018年に取締役に就任し、EC事業責任者となる。2022年にはグループ会社の株式会社サケマーケット代表取締役にも就任。
稲田倭文帆(いなだしずほ)さん(写真左)
2024年4月に新卒入社。販売戦略チームで商品企画や、デザインのディレクション、ラベルの依頼や発注などを担当。
目次
お酒選びを「難しい」から「楽しい」に。KURANDが500種類以上のオリジナル商品をつくり続ける理由

KURANDは、全国200社以上の酒造メーカーと協力して、500種類を超えるオリジナルのお酒を販売しています。多い月で30種類以上の新商品を生み出すそのスピードと”酒ガチャ”というユニークな取り組みがデザイナーの私にとっても興味深いと思っていました!まずは、KURANDの事業についてお聞かせください。

「お酒の新しい価値をつくり、世界中のあらゆる人々の人生に、楽しさ、豊かさ、幸せを届ける。」という私たちのミッションを基に、日本一親しみやすく、賑わいのあるオンライン酒屋を目指しています。
「お酒が好きだけど、選び方がよくわからない」という方でも、気軽に楽しんでいただけるよう、親しみやすい商品づくりを心がけています。特に人気なのが「酒ガチャ」です。
日本酒、梅酒、果実酒をはじめ、リキュール、ワイン、焼酎、クラフトビール、プレミアムサワーベースまで、すべてクランド限定のオリジナル商品を揃えています。
お客さまの好みに合わせてお酒をランダムにお届けするこのサービスは、好きな種類のお酒を選べる「ランダム性」はもちろん、アレルギーがある方や苦手な味わいを避ける「カスタマイズ性」を兼ね備えています。さらには、商品にはレア度をつけることでガチャガチャを回しているような「ゲーム性」も楽しめる仕組みになっています。

オリジナル商品をつくるだけでも大変そうなのに、毎月30商品も開発されているのは驚きです。この驚異的なペースを保てる理由は何でしょうか?

私たちはメーカーとしての役割に加えて小売店としての役割もある、まさに総合格闘技のようなビジネス形態です。
メーカーであれば、少数の商品に注力して販売するのが一般的です。しかし、オンライン小売店でもあるクランドは、お客さまの多様なニーズに応える必要があります。そのため、幅広い商品と豊富な品揃えが欠かせません。
また、「酒ガチャ」のサービスの大きな魅力は、新しいお酒との出会いです。何度も利用していただくお客さまには、同じ商品が重複しないよう、常に新商品の開発に力を入れています。
そうすることで、「クランドに行けば、いつも新しい発見がある」という期待感が生まれ、お客さまが繰り返し訪れるきっかけになっているのです。

「生搾りモンブラン」のようなスイーツを楽しむお酒や、「理系兄弟」という遊び心のある商品名など、とても独創的ですね!商品企画で特に大切にしていることは?

商品の魅力が一目で伝わるデザインを心がけています。
お客さまがオンラインで情報を見てから興味関心を持っていただくまでの時間は本当にあっという間です。コンセプトがぼんやりしすぎても、逆に絞りすぎても面白みがなくなります。そのため、画面をスクロールしている中で、最初の2秒で目に留まるような最初の印象づくりが大事だと考えています。
そこで、自由な発想を大切にし、コンセプトに広がりを持たせながら商品をつくっていった結果、今では月に30種類もの商品を展開できるようになりました。

また、「マニアックだけど共感できる」商品づくりも意識しています。
例えば「理系兄弟」は、理系の方やその友人に響く商品を目指しました。同じように「ソースコード」も、エンジニアの方々に「これは面白い!」と感じていただけるよう工夫しています。

「2秒で心を掴む」第一印象から感動体験をつくるKURANDのユニークな商品ネーミング
「商品の魅力を一目で伝える」デザインについて、私なら「どのようなデザインにしようか」と悩んでしまいそうです…。商品の魅力を一目で伝えるために、具体的にどのようなデザインを意識されますか?

SNSやオンラインショップで商品を見ていただく機会が多いので、パッと見て魅力が伝わるようにラベルデザインは最も重視しています。
さらに、お客さまが実際に商品を受け取って箱を開けた時、ラベルの質感なども含めて「想像以上のお酒に出会えた!」と感じていただけるよう心がけています。品質にもこだわり、印刷会社と綿密に打ち合わせを重ね、複数のサンプルを比較して、本番のラベルを決めています。時間とコストの許す限り、最高のものをづくり上げたいです。

ラベルデザインのアイディアはどのように生み出していますか?

主に企画会議でのブレインストーミングです。お酒のイメージや要素から連想される言葉を次々と出していき、アイデアに繋げています。
例えば、「コーギーのおしり」という商品があります。この日本酒は「口当たりの優しい味わい」が特徴です。この「やわらかさ」や「優しさ」から連想を重ねていった結果、「コーギーのふわふわしたおしり」というアイディアにたどり着きました。

確かに「優しい味わい」と聞くよりは、「コーギーのおしり」から連想される柔らかさや、優しさのイメージが湧きやすいですね!他の商品の企画の裏側も気になります…!

「海月」という日本酒は、「お酒のターゲット層に最も響くのは何か」という視点から、決定しました。
もちろん、海の生き物から着想を得て、イルカやクジラなど、他の選択肢もある中で、それぞれの生き物について、ファン層の特徴やコミュニティの規模、検索トレンドなどを比較検討して最終的に海月に決まりました。このように、単に「面白そうだから」ではなく、データや市場の反応を見極めながら、商品のコンセプトを決めていきます。


商品のコンセプトが固まった後、どうすれば手に取っていただけるかファン層を深ぼっていくうちに、「水族館のクラゲ展示を覗き込むような」デザインが生まれました。
部屋を真っ暗にして、商品を下からライトで照らすと、より水族館の様子に近くなるのもポイントです。

「優しい味わい」と「犬のおしり」を連想したり、クラゲを水族館にいるように見せようというアイディアは今の私には思い浮かばなさそうです…。そんな独創的なアイディアは、どうやって思いつくのでしょうか?

日頃からアイディアの種を集めるように、アンテナを張ることが大切だと考えています。以前は自分の興味のある情報だけを集めていましたが、今は世の中のトレンドも意識的にチェックするようにしています。
また、友人たちに直接「どんなお酒があったら欲しい?」と聞くことで、思いもよらない発想が得られることがあり、とても参考になります。
ユーザーインタビューは週5回!?「このお酒が欲しかった!」を形にする数字の向こうにあるホンネ
KURANDが小売店として、ユーザーの多種多様なニーズをどのように商品に反映させているのか、デザイナーとしてとても気になります!もう少し詳しく教えて下さい!

多い時で週4〜5回の頻度でユーザーインタビューを実施しています。新規でご購入いただいたお客さまにご意見をいただくことが多いですが、コミュニティサイトを通じて既存のお客さまへ定期的にお話しを伺うこともあります。

ほぼ毎日、ユーザーインタビューですか…!他の企業に比べてもかなり頻度が高いと思いますが、そこまで頻繁にインタビューをする理由はなぜでしょうか?

一般的な場合、メーカーは商品を卸した時点でお客さまとの直接的な接点が途切れ、小売店は仕入れた商品を販売することで初めてお客さまとの接点を持つことができます。しかし、KURANDのビジネスの特徴は、メーカーと小売店の両方の機能を持つことで、商品の企画から販売まですべてを自社で行えることにあります。
そのため、「お客さまの声を直接聞いて、すぐに商品に反映できる」体制を作ることで強みを最大限活かすことができると考えています。
ユーザーインタビューでいただいた声をどのように活用されていますか?

オンラインショップのシステム周りの継続的な改善に活用しています。アップデートの大小はあれど、これまで改修した項目は100個を超えています。
例えば、酒ガチャでは「日本酒が苦手」「苦手な味が当たったら不安」という声から、お酒のジャンルを1本ごとに選べる機能や、苦手な原料を除外できる機能を追加しました。
このような「選べるガチャ」の要素により、これまで購入を躊躇していた方にもご利用いただけるようになりました。

ユーザーインタビューなど「見える声」の一方で、表には出づらい「見えにくい声」を拾い上げるための工夫があれば教えて下さい!

定性的なデータを重視する一方で、定量データの分析も行っています。売上数値や購入者の性別比率はもちろん、一度購入された方が同じ商品を再び選ぶのか、それとも新しい商品に挑戦されるのかといった傾向などお客さまの購買行動も細かく見るようにしています。
具体的には、商品レビューはもちろん、「お酒の記録」というお客さまご自身のみが見ることができるメモ機能も参考にしています。この機能は、お客さまが自分用にお酒の感想をレビューには反映せずに残すことができます。またお酒の好みを顔文字で表現することで、カジュアルに使っていただきやすい仕様にしました。


また、クランドで販売しているお酒は「クラフト酒(しゅ)」と定義され、味わいが毎年少しずつ変化していく様子も楽しめるようになっています。そのため、販売時の購買データとお客さまの声の両方を活かしながら、商品の改善を重ねています。
(※)クラフト酒…オンライン酒屋「クランド」で販売するお酒の総称です。小規模生産でつくられた、個性溢れた新しいお酒のジャンルをクラフト酒(しゅ)と呼ぶ。

商品企画から販売まで一貫して行うKURANDだからこそできる強みですね!私はこれまで、クランドでお買い物をする際の「思いがけない出会い」を、単なる偶然だと感じていました。しかし今回お話を伺って、その背景には細かいデータやお客さまの声を商品に反映させる商品企画など様々な要素があり、実は計算され尽くした必然だったのではないかと思ってきました…!

ユーザーインタビューを重ねるごとに、ただのビールも、ビールとして提供するだけでは手に取ってもらいにくいことがわかってきました。そのため、ストーリーやデザインに工夫を凝らすことを普段の商品開発でも大事にしています。
お酒は昔からコミュニケーションを円滑にするツールとして親しまれていますが、最近では、お酒を飲む場面が単なる飲み会にとどまらず、商品の背景やストーリーを伝えることで、会話が始まるきっかけになると考えています。
たとえば、プレゼントしたお酒について「こんなストーリーがあるんだ」と共有し合うことで、人とのつながりが深まるきっかけになったりもします。
こうした「お酒を通じた体験」をブランドとして伝えられるのは素晴らしいことだと感じます。いわゆる「飲みニケーション」の多様性が広がる中で、その背景やストーリーを意識した商品づくりがより大切になっているのではないでしょうか。
インタビューを通して、デザイナーの私も、ユーザーの声をただ聞くだけではなく、ニーズがどこにあるのか意識しながらデザインに反映していきたいと思いました!本日は貴重なお時間をいただきありがとうございました!
編集後記
メディアで若者のアルコール離れが囁かれる中、20代・30代の男女問わず愛されるKURAND。
記事では泣く泣く省いた部分ですが、「アルコール離れ」について伺った際「アルコール離れというより、飲む機会が多様化しているのではないでしょうか。乾杯は必ずしもビールでなくてもいいし、ノンアルコールでもいい。KURANDとしては、お酒の多様性をもっと提供していきたいと考えています」と熱く語られている姿が印象的でした。
「どうすればお客様に新たなお酒の価値を届けられるのか」を真剣に考え抜く姿勢と情熱は、取材を通してひしひしと伝わってきました。この“お客様ファースト”の考え方こそ、KURANDが多くの若者に支持される理由なのだと実感しました。1ユーザーとして、これからもKURANDの新しい商品を楽しみにしています!
文 :磯村 愛弥
編集:杉山 美和
写真:関 大二郎