ライブコマースが今、あらためて新たな販売チャネルとして注目されている3つの理由

藤瀬 公耀さん

京都大学法学部卒業後、大手人材系企業でマーケティング職、経営企画職として従事。その後国内コンサルティングファームへ転職し、大手・中小企業向けコンサルティング、その後新規事業の立ち上げ事業責任者を経験する。2022年に、ECコンサルを手掛ける株式会社いつもへ参画。その後M&Aを経て、いつも社の子会社となった日本最大級のライブコマースアプリを開発・運営する合同会社ピースユーの代表を務める。

これから日本でライブコマースが注目される理由

中国のイメージが強いライブコマースですが、日本でも2021年には約1000億円(推定)だった市場規模は2027年には6000億円弱までの拡大が予測されるほど注目されていることをご存知でしょうか。そこで今回はあらためて今、国内でライブコマースが注目されている背景から、なぜこれまで国内でライブコマースが他国と比較して市場の成熟が遅れているのかまで色々を勉強させて頂きたく参りました。よろしくお願いします!

よろしくお願いします!まず、日本と海外のライブコマースとの大きな違いはライブコマースのエコシステムが成立しているかどうかです。

エコシステムとは、多数の個人販売者が存在し、その周りにコミュニティが形成され、さらにそれらの個人を支援する企業が存在する構造を指します。これらの企業は、商品提供や物流支援などを行い、ライブコマースを前提とした文化を形成しています。

中国のエコシステムの特徴は、個人販売者を支援する企業の存在です。企業は、商品の提供から案件の紹介、商品データの作成、マネジメント、さらには物流支援まで、包括的なサポートを行っています。このような総合的なエコシステムが、中国のライブコマース市場を支えているのです。

それにより、中国のCtoCの個人取引市場は日本よりも大幅に発達しています。驚くべきことに、個人販売者の中には、1回のライブコマースの配信で数億円、時には数十億円規模の売上を上げるライバーもいるほどです。

2023年に60兆円以上と言われる中国のライブコマース市場規模を支えているエコシステムは壮大過ぎてイメージが湧きづらいですね…!改めて、日本のライブコマースの状況についてもお伺いできますか?

日本でライブコマースが注目され始めたのは、メルカリ社や楽天社などの企業が参入し始めた2018年頃です。しかし、その形態は、企業が主導するケースと、個人に完全に任せるケースの二極化が見られ、中国市場と状況は大きく異なります。

日本のライブコマースは、企業のスタッフが自社商品を紹介するような企業が主体として行うBtoC型で、やや広告的な要素の強い印象があります。

企業のスタッフが「中の人」として話題になることもありますよね!しかし、中国とライブコマースの成り立ちの文化が異なるのであれば、極論ですが、日本では今後もライブコマースは広がりづらいのではないかと思ってしまうのですが、藤瀬さんはどのようにお考えですか?

結論として、日本でも広まっていくと考えています。

中国でのライブコマースの急速な普及には、エコシステムの他に、Eコマース発展によるモール内での広告費の高騰や、それに伴う新規参入での売上の伸ばしづらさという課題もありました。

ライブコマースは視聴者が楽しく、販売者と直接コミュニケーションを取れることが魅力であり、購買決定において、人との繋がりは大きな要因です。そのような中、影響力のある個人による商品紹介が効果的な販売手段として、ライブコマースは新たなマーケティングチャネルとして注目をされました。

そして日本でも、同様の状況が見られつつあります。事実、弊社が提供するライブコマースプラットフォームへの営業や相談にこられた企業の内、約70%が取り組む意向を示しています。このことからも企業のライブコマースへの関心の高まりを感じます。

そして今後、ライブコマースを支えるインフラを提供する企業が増えることで、従来以上に個人が参入しやすい環境が整っていくと予想されます。こうした動きが加速することで、日本のライブコマース市場のありかたも大きく変わっていくのではないでしょうか。

これから日本でライブコマースが普及するであろう理由の1つは、エコシステムの普及ということですね。また、Eコマースの新たな販売チャネルとして企業からの期待が高まっていることも驚きです。企業はライブコマースのどのようなところに期待を見出しているのかもう少し詳しくお伺いしたいです!

日本におけるライブコマースの認識は、インフルエンサーマーケティングに非常に近いと思います。もともとインフルエンサーマーケティングもライブコマースも、ソーシャルコマースの中の1つの手段です。

ソーシャルコマースの中でも、インフルエンサーマーケティングは、企業から提供された商品を紹介する投稿をしてもらうのが一般的です。一方ライブコマースは、自身が販売主体としての責任を持ちながら基本的に成果報酬型で商品を販売しています。

つまり、販売者が本当に良いと思う商品を紹介するため、より誠実で信頼性の高い販売方法という点が、インフルエンサーマーケティングやステルスマーケティングとは根本的にアプローチが異なります。そして、「販売主体として個人の責任」と「自身が良いと判断した商品の紹介」という要素が、ライブコマースの本質であり、一般的なインフルエンサーマーケティングとの大きな違いです。

企業から依頼されて商品を紹介するのではなく、販売者自身が良いと思った商品を紹介する前提があるからこそ、視聴者も販売者を信頼し、信頼の積み重ねがファンを生むんですね。

そうですね。日本でライブコマースとインフルエンサーマーケティングの違いが意識しづらいのは「良い商品を取り扱いたい」という販売者へのインセンティブの循環の前提がないからだと考えます。

ライブコマースは成果報酬型のため、売れない限りは、販売者への費用は発生しません。そのため、他の販売者もより良い商品を取り扱いたいというインセンティブが働きやすくなります。

ライブコマース事業を通じて、まずはちゃんと私たちがビジネスモデルとして確立していくことで少しずつライブコマースの認識も変えていきたいですね。

「Peace You Live」で活躍されている販売者(ライバー)の方はどのような経歴の方が多いのでしょうか?

大規模なフォロワーを持つ有名インフルエンサーよりは、いわゆるマイクロインフルエンサーとして活躍されていた方や、ライブコマースを副業的に取り組んでいる方など様々な経歴の方がいらっしゃいます。

例えば、地域に根ざした店舗を持つ事業者が、ライブコマースを活用して売上を伸ばしたり、主婦の方が私物を販売することもあります。

販売者の私物も販売できるんですね!想像以上に、販売や購入のハードルが低いことにびっくりです。ライブ配信サービスの投げ銭機能のような応援の気持ちで購入される方もいらっしゃるのでしょうか。

投げ銭アプリでは、視聴者がお金を払っている対価が見えにくいという側面があるように感じます。そのため、配信者自身が商品であり、最終的には自分の身1つで勝負しなくてはいけないところに辛さを感じる配信者の方もいるようです。そのため実は、投げ銭アプリからライブコマースに移行した販売者の方も多くいらっしゃいます。

なぜならライブコマースの場合、お金をいただいている対価としてからなず「商品」があります。また、売り方や、取り扱う商品を選ぶこともできるため、なぜ視聴者からお金をいただいているのかの理由が明確で、持続的にやりがいを感じやすいと感じる方が多いようです。

なるほど!たまに、ショート動画でベルトコンベアのように1秒にも満たない商品紹介をしている中国のライブコマースの映像を見かけることもあります。それを見て、「人はなぜライブコマースで物を買うのか」にとても興味を持っていたのですが、藤瀬さんはどのように考えられていますか?

バズっているショート動画はライブコマースの実態ではないと思っています。ライブコマースには「人の魅力」と「商品の魅力」の両方が存在する前提で、優先順位は「人の魅力」が先にくることが多いです。まず、配信者の人間性や魅力に惹かれ、その上で商品の良さが購買につながるイメージが近いと思います。しかし、どんなに魅力的な人物でも、商品が良くなければ売れないという現実もあります。

重要なのは、配信者に対する「信頼」です。この信頼は、単なる人気や親しみやすさではなく、良い商品を紹介する能力、購入者のことを考えて商品を選定する姿勢、価格交渉力などの「商売人としての信頼性」を指します。

視聴者は、自分たちのことを考えて行動してくれる配信者を信頼し、その結果として商品を購入します。このような信頼関係は、投げ銭文化とは異なる、ライブコマース特有の要素ではないでしょうか。

まとめ:これから日本でライブコマースが注目される3つの理由

  1. エコシステムの普及
  2. 企業からライブコマースへの関心の高まり
  3. 企業とライバー、プラットフォーム3方良しの好循環

販売商品は占いから不動産まで!?商店街のようなコミュニティで人と人とがつながるライブコマースの魅力

ここまで、ライブコマースのイメージが変わったと同時に、ビジネス理解が深まるお話の数々をありがとうございます!ここからは、日本でのライブコマースの活用について具体的にお伺いさせてください。

ライブコマースでの購入体験の良さは、物を買う過程での人と人とのコミュニケーションにあります。

通常は、オンラインショップで商品を購入しても、ありがとうメールが届くくらいですよね。しかしライブコマースでは、購入時に販売者が画面越しに喜んだり、届いた商品に手書きの手紙が同梱されていたり、人と人との「温かみ」を感じる購入体験に付加価値があります。

オフラインとオンラインでの購入体験の良いところを合わせ持っているということですね!

そうなんです。さらに面白いのが、常連の視聴者同士でコミュニティができていて、ライブ配信が始まると、『今日○○さん来ないな』とか『ごめん、お風呂入ってた』などコメントのやり取りがあるんです。ライブ配信に視聴者一人ひとりの居場所があり、販売者から購入することで直接、購入者の感謝の言葉が届く。その様子を、私は商店街に近いメディアだと考えています。

商店街という表現はユニークな表現ですね!ライブ配信と一括りに言っても、ゲーム実況のような配信者と視聴者との1対1の関係が無数にあるのではなく、ライブコマースは配信者と視聴者が1対nの関係でありながら、nが一種の村を形成しているのですね。配信するプラットフォームが違うと配信者と視聴者の関係性が全く違う点がとても面白いです!

ライブコマースは商品を中心として、その周りに視聴者がいて、商品を売っている販売者がいる構図です。SNS等で発信者に対して不特定多数が見ている構図よりは、視聴者と販売者の目線が近いです。
また、販売者に対する尊敬や親しみやすさがあるのもライブコマース特有で、効率を求める世の中で、どこか非効率なところがライブコマースの良さだと思います。

「効率を求める中での非効率」という表現は秀逸ですね。過去実績から、ライブコマースで売れやすい商品の傾向などあれば教えて下さい!

厳密な基準はないですが、ライブコマースの購入者の多くは女性なので、ファッション関係の商品、例えばコスメやアパレル等が多いです。

その中でも、説明することで商品の良さがより伝わりやすいものがいいと思います。例えば、コスメなら使い方や組み合わせ方、アパレルなら着用シーンなど、ライブ配信で商品詳細が伝わりやすいものが向いています。

コスメやアパレル以外に「意外に売れる商品」はありますか?

衝動買いしやすい商品ですね。例えばお菓子や生肉などライブ配信を見ながら衝動的に購入するされる方が多いです。

賞味期限がある食品の場合、賞味期限に余裕のあるものしか小売りに卸せないこともあります。しかし、その場で売れるライブコマースであれば、賞味期限が近くて卸すことができない食品もすぐに売ることができます。

在庫問題だけではなく、食品ロス削減の面でもライブコマースと食品は非常に相性が良いですね!

プライシングも、ライブ配信限定の価格設定が可能なため、値引きによるブランド価値を毀損せずに販売促進ができます。そのため、ブランド戦略の観点でも企業にとっては大きなメリットと言えます。これを評価するブランドも増えていて、結果的に扱える商品の幅も広がっています。

なるほど!ライブコマースで扱える商品やサービスの幅がここまで多岐に渡るとは思っていなかったです!

ライブ配信の視聴者全員がターゲットになる日用品も多く取り扱っていますが、無形商材の販売も可能です。プロに相談乗ってもらえる権利やスキルシェア系の相性も良いですね。私が個人的に印象に残っているのは、「エアコンのクリーニングチケット」です。

なるほど…その路線もありなんですね!夏に入る前に販売したらすごく需要がありそうですね!ここまで様々な商品が売れるのであれば、逆に売れづらい商品もあるのでしょうか?

高価格帯の商品を大量に販売するには少し工夫が必要です。ライブコマースはその場での意思決定が求められるので、ある程度お財布の紐を頑張って緩めて買うような価格帯のものは工夫が必要です。

ただ、ライブコマースだからこそ良い商品であればしっかりライブで説明できるので、視聴者が商品の良さを理解してくれれば、高額なものでも頻繁に購入いただいています。

商品の魅力や希少性、あるいはライブ配信でのプレゼンテーション力次第では、高額商品でも十分に売ることができるということですね!様々な企業が注目するライブコマースが今後さらに拡大していく上でのこれからの課題についてお伺いさせてください!

大きく3つの課題があると考えています。まず1つ目は、プラットフォームとしての機能を充実させていくと同時に、広告投資の効率化などにも取り組んでいく予定です。プラットフォームの成長が、事業の成長に直結するので目下の重要な課題として取り組んでいます。

2つ目は、販売者(ライバー)の数を増やしていくことです。ライブコマースを始めようとしても、何を準備すればいいのか、どんな商品を売ればいいのかなどまだまだインターネットにおちている情報は十分とは言えません。この障壁を取り除くことで、少しでも販売者の人数が増えたら嬉しいです。

3つ目は、ライバーのための包括的なインフラ整備です。販売者が物を売るにあたって必要なインフラを企業として整えていく必要があると考えています。商品の提供、商品データや発注データの処理、物流など、あらゆる面でサポートできるようにしたいですね。

前述の通り、中国では既に出来上がっているエコシステムを日本でも作り上げることができれば、市場の参入障壁は下がり、市場全体の拡大を図ることができると考えています。

海外の豊富な事例という前例があるからこそ、遠くない未来に日本でもライブコマースが普及している未来が見えますね!最後に、日本におけるライブコマースの展望を藤瀬さんはどのように見られていますか?

Eコマースの観点では、「人から物を買う」という購買体験の重要性がますます大きくなると予測しています。

近年、「モノ消費」よりも「コト消費」、つまり物そのものよりも体験に価値を見出す傾向が強まっているのは皆さんも感じていると思います。

そして、ライブコマースがまさにこの体験価値を体現していると考えています。つまり、単なる商品情報だけでなく、販売者の人柄や信頼性、リアルタイムのコミュニケーションなど「人が発信した情報から購買の意思決定がなされる」というプロセスが購買決定に大きな影響を与えるようになっていくのではないでしょうか。

編集後記

従来のライブコマースのイメージが180度変わると同時に、販売チャネルとしての可能性を改めて実感した今回のインタビュー。

単なる商品販売の手段を超えて、人と人とのつながりを生み出し、新たなコミュニティを形成する場としての側面を持つライブコマース。従来のEコマースにはない、リアルタイムのコミュニケーションや購入者への直接的な感謝の表現など、人間味あふれる取引の姿勢が印象的でした。この「人間味」こそが、ライブコマースの最大の特徴であり、強みではないでしょうか。

単なるトレンドではなく、テクノロジーの進化と人間味のある取引の融合が、新たな購入体験の文化を生み出す可能性を強く感じた取材でした。

文 :杉山 美和
写真:杉山 美和、関 大二郎

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