ヘアケアからスキンケアへ「パーソナライズ×D2C」の先駆者が語る1to1のデジタルプラットフォームの戦略に迫る

株式会社Sparty

パーソナライズヘアケアブランド「MEDULLA」を運営する株式会社Sparty。パーソナライズを軸として「88 by MEDULLA」「ALLUDEM」「Material Journey」などの商品を展開しています。商材単位のパーソナライズから プログラムのパーソナライズへ拡張をすることでよりお客様の個性を価値化することができるのではないかと考え、スマートフォンやタブレット端末等を用いて1to1でお客さまとコミュニケーションを取れる「CLUB MEDULLA」を2024年3月をローンチする。

デジタルマーケティング部 主任
坂口 光さま(写真中央)

デジタルマーケティング部
石川 涼太さま(写真左)

デジタルマーケティング部
橋口 和樹さま(写真右)

業界の常識では考えられない!?パーソナライズへの想いと実現する仕組み

パーソナライズシャンプー&リペア「MEDULLA」を始め、一貫してパーソナライズに重きをおいたサービス展開をされている貴社について改めて、教えてください!

代表の深山が創業にあたりサービスを検討していた際に、奥さんがたくさんのシャンプーを使っていることで「シャンプー難民」というニーズがあることを知ったそうです。

加えて、当時アメリカでもパーソナライズシャンプーが売れていた背景もあり、ダメージレベルや髪の太さなど日本人の髪質に合わせたシャンプーの開発を行おうと創業したのが弊社です。

そのため、創業当初はパーソナライズがやりたかったわけではなく、こだわりのシャンプーを作る過程でパーソナライズに至たりました。その後、2018年に販売したパーソナライズシャンプー「MEDULLA」は日本で最初※のパーソナライズシャンプーとして、D2Cにパーソナライズ市場を開拓していきました。

※2021年12月 TPCマーケティングリサーチ㈱調べ ユーザーの髪質や悩みに合わせてパーソナライズで製品を提供

1つの商品を多くの人に買ってもらう単品通販のセオリーから逆行するパーソナライズの先駆者である「MEDULLA」の珍しさは今でも記憶に残っています。

広告運用を担当している私も当初は、診断コンテンツを挟むパーソナライズの導線は、購入までの導線が長くなり、離脱に繋がるリスクを危惧していました。

通販業界のセオリーを基にすると、極力LPから購入までの導線は短く、そしてフォームの入力も最小限にしてしまいたくなりますよね。

しかし、当初危惧していたフォーム離脱もそこまで影響はありませんでした。むしろ、その人に合った商品をお届けできるパーソナライズならではのメリットと考えています。

お客さまに最適な商品を届けるためには、セオリーから外れていたとしてもパーソナライズフォームを用意することにしました。

私は前職でマス広告のPR領域に携わっており、D2Cでのパーソナライズが当時どれほど珍しいのかを意識せずに入社しました。しかし、別の業界にいても数あるD2Cサービスの中で商品よりもサービスを提供している会社というところに真新しさと同時にビジネス的な面白みを感じた記憶があります。

別業界から見た「MEDULLA」は面白い視点ですね。一方、パーソナライズならではの苦労した部分のエピソードがあれば教えて下さい!

梱包やフルフィルメントの部分は創業当時から仕組み化を徹底しており、独自システムを構築し自動化しており、梱包や配送ミスは最小限に抑えられています。

仕組みの部分は物流やテック周りも通販業界の常識では考えられないことをやり続けている会社だと思います。

「通販業界の常識では考えられない」ことですか…?具体的にお伺いしたいです。

たとえば、「MEDULLA」はボトル1本ずつにユーザーの名前を印字しています。このシステムも印刷機を購入し、ボトル1本ごとに名前を印字するシステムを0から構築しています。言葉で言うと簡単に聞こえますが、印刷技術事業を立ち上げるほどの規模感だったと記憶しています。

限界まで仕組み化をする一方で、全てを機械に任せるのは難しいのも事実です。そのため、印字するデータの照合や商品と髪質診断の結果が記載しているヘアカルテの同梱は人の目で最終確認をしています。

梱包だけでも大変なのに、ボトルへの印字まで…かなりのこだわりですね。

ボトルへの印字の部分はもちろん、リブランディングしたボトルやチューブのグラデーションの装飾も実は難しい技術なんです。

基本的に印字は平面に対して行います。ボトルは高さが一定なのでまだ印字はし易いのですが、問題はチューブへの印字です。

チューブは横に置くとどうしても傾斜になってしまうので、印字する際は平面になるように先端を手動で持ち上げながら印字しています。

印字機に乗せるときに手動で微調整してるんですか?

そうなんです。全てのチューブにきれいなグラデーションを印字するために、1つ1つチューブを傾けて微調整しています。これだけはどうしても機械化しきれないんです。

印字の大変さを知ると、なぜわざわざチューブ型にしたのかが気になります…!

印字の手間よりも、サービスを通じて「ときめき」というキーワードはこだわりのポイントの1つです。並べたときの見た目の可愛さや、使いやすさを加味してチューブ型にしています。

現在ではヘアケア業界以外にも「パーソナライズ×D2C」のサービスが増えましたよね。貴社ではパーソナライズ市場の競合が増えてくる現状をどのように捉えられているのでしょう。

現状も、パーソナライズが当たり前の選択肢にはなっていないと思います。だから市場にプレイヤーが増えることで市場が広がることは、パーソナライズという手段が認知されていくこととしてポジティブに捉えています。

むしろ、市場が成熟していく中で弊社がパーソナライズの第一想起としてあり続けることにコミットしたいと考えています。

第一想起として認知され続けるために具体的に実施されていることはありますか?

過去「MEDULLA」は、良い香りのシャンプーとして認知が広がった時期がありました。その結果、一時的に売上が上がりましたが「香りが良い」という十人十色の価値観において第一想起を獲得するのは難しいと考えました

そのため現在は、「パーソナライズシャンプーといえばメデュラ」という地位を確立していくことを意識しています。そのためにパーソナライズの良さを、どのように伝えるかはもちろん、言葉作りやクリエイティブ制作、PR施策をこのチームで日頃から考えています。

クリエイティブでは「本物感」を大事にしていています。

従来は広告代理店に撮影してもらった写真素材を広告で配信したりもしていました。しかしクリエイティブ素材も弊社が納得したものを出していきたいと思い、ブランドリニューアル後は月1回以上の頻度で撮影しているほどクリエイティブにはこだわっています。

御社はインフルエンサーマーケティングも実施されていますが、UGCの観点とブランドの世界観のバランスはどのように取られていますか?

UGCならではの生っぽい感じも大事ですよね。一方で、ブランドの世界観で守るべきところは守っているつもりです。だから、こうやってほしいといよりは、やらないことを決めるようにしています。

インフルエンサーさんへの依頼は、最低限「MEDULLA」のブランドレギュレーションはありますが、クールなイメージよりは、多幸感を意識してほしいなどブランドの世界観を伝えるようにしています。

言葉で伝えるよりは、視覚的に笑顔が多いモデルさんを積極的に使っていくなど、女性誌などでイメージボードを作成してイメージ共有をしていますね。

会社のスタンスによって、最低限のレギュレーションだけ定めてクリエイターさんにお任せする場合と、世界観を含め制作を依頼する場合とでやり方は様々ですよね。御社が、今のやり方にたどり着いた背景などあればお伺いしたいです。

弊社でも過去は、クリエイティブはブランディング目的とダイレクトレスポンス目的とでトンマナは分けてもよいと思っていた時期もありました。

しかし現在は、広告の目的関係なくブランドらしさは表現したほうが最終的に獲得にも繋がると思っています。

ブランディングとダイレクトレスポンスでクリエイティブ表現を変えているブランドが多いイメージだったので、とても興味深い視点です…!

弊社もブランドサイトと広告の遷移先のLPはもちろん、ブランドムービーとインフルエンサーさんのUGC動画で使っている言葉やトンマナは変えています。

ただ、「MEDULLA」をずっと使い続けてくれているお客さまは、商品の機能を好きになってくれているというよりは、「MEDULLA」らしさを好きでいてくれていると思っています。

だから、「ブランドらしさ」や「多幸感」というブランドの世界観や色使いは広告の目的とは関係なく表現は統一する方がユーザーへのコミュニケーションの一貫性も生まれるのではないでしょうか。

セオリーを打ち破る。「洗い流す」ヘアケアブランドが「顔にとどまる」スキンケアを展開した理由

個人的に、D2Cのパーソナライズヘアケアブランド「MEDULLA」がお客さまと直接つながる為の1to1プラットフォーム「CLUB MEDULLA」をローンチされたプレスリリースには驚きました。なぜD2Cのヘアケアブランドがスキンケアを含めたトータル美容を提供することになったのかをズバリお伺いしたいです!

「MEDULLA」はパーソナライズを通じてお客さまとの繋がりを大事にしてきたサービスです。そのため、ヘアケアでもスキンケアでも本質は変わらないです。

「MEDULLA」ローンチから6年間で商品数も増えたことで、商品単位でお客さまとのコミュニケーションが分断されてしまう課題がありました。

そのため、一気通貫でお客さまとコミュニケーションが取れるプラットフォームとして「CLUB MEDULLA」をローンチしました。

スキンケアブランドがヘアケアブランドを展開することはありますが、「洗い流す」ヘアケアが「顔にとどまる」スキンケアに展開することは珍しくないですか?

「シャンプーのブランドのスキンケアを使いたいか」と問われると答えに戸惑うように、一般的にサービスの横展開は難しいと言われますよね。

弊社も「MEDULLA」のブランドを好きになって頂いた延長線で、スキンケアも使っていただきたい理想はあるのですが、ハードルは高いと思っています。

だから「MEDULLA」の場合は、髪質診断などのパーソナライズ診断に基づいた美容理論のプログラムとカウンセリングを通じて生まれた信頼感で使っていただいているお客さまが多いです。

単なるサービスの横展開というわけではなかったのですね。「CLUB MEDULLA」ローンチに際してのこだわりポイントはありますか?

使ってくれるお客さまを増やし、いかに長く使い続けてもらうかが大事という大前提はあります。その上で、「CLUB MEDULLA」で私たちが提供したいのは❝個性の価値化❞です。

「個性の価値」ですか…?

パーソナライズの根本には「その人らしさを生かす」という思想があります。

現在までありがたいことに多くの人に「MEDULLA」を愛用して頂き、パーソナライズビューティプログラムとして「CLUB MEDULLA」をローンチすることができました。

今後は「CLUB MEDULLA」で、お客さまの個性の価値化を1つ1つカタチに出来るようにしたいです。

そのうえで、髪質診断のデータは貴社ならではの大きな強みであり、特徴ですよね。現在「CLUB MEDULLA」を立ち上げて数ヶ月が経ちました。新たな気づきや変化はありましたか?

ありがたいことに想定以上のカウンセリング予約を頂いています。これまでの髪質診断のデータを基に「パーソナライズシャンプーでこんなにたくさんのことができる」というのを知ってもらうための手段として1to1プラットフォームを活用していきたいです。

将来的には、美容に関わる多くの悩みを解決できるプラットフォームにしていくことでお客さまに価値を感じて頂きたいと思っています。

髪質診断は、累計約50万回分のパーソナライズデータにもなるそうですね。これらのデータはどのようにサービスに活用されているのでしょう?

「MEDULLA」は購入前の髪質診断とは別に、シャンプー使用後に再度髪質診断をしてもらいます。そこで、購入後の再診断やフィードバック率という指標をCRMでは見ています。

そこでは、フィードバック率が高ければ高いほどLTVも比例して高くなるデータがでています。

再診断を重ねることで自分の髪質にあった処方に近づいていくから、必然的にお客さまのロイヤリティも高まるということですね。「CLUB MEDULLA」のローンチはLTVにどのように寄与してきそうでしょうか?

リリースされたばかりの「CLUB MEDULLA」は、すぐに結果が出るものとは思っていませんが、1年後のLTVに寄与してくるのではないかと考えています。

髪質診断のフィードバック率の高いお客さまのLTVも、少し高いという数値ではなく2〜3倍以上の大きな違いがあるほど明確な数値として出ています。そのため今後、「CLUB MEDULLA」を介してコミュニケーション頻度を増やすことで、お客さま満足度にも繋がることを期待しています。

編集後記

これまで、様々な業界の通説(セオリー)を打ち破ってきた「MEDULLA」。インタビューを通して、ヘアケア業界の先駆者として歩んできた軌跡と、パーソナライズへのこだわりの強さを改めて実感することができました。

外から見ると一見、なぜD2Cの「MEDULLA」が1to1のデジタルプラットホーム?という疑問も、創業からの想いである”その人らしさを大切にする”という思想が、商品開発やマーケティングの姿勢に通じていることを、「求められているものを作っているから幸せ」と坂口さんがインタビュー中にポロッとこぼした一言からも垣間見ることができました。

同時に、単なるパーソナライズにとどまらず、お客様との1to1のつながりを大切にし、美容を通して自分らしさを発揮できる場を提供しようという強い意志も垣間見えた「CLUB MEDULLA」のこれからの展開にも注目したい。

文 :杉山 美和
写真:関 大二郎

トップにもどる