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モノが飽和した社会だからこそ、ブランディングが必要になる
本日はよろしくお願いします!昨年末にフィードフォースグループへの参画を果たし、株式会社フラクタはますます注目が集まっていますよね。改めて、事業内容を簡単にお伺いしたいです。
よろしくお願いします!フラクタは、ブランドの自走を支援するトータルブランディングパートナーです。マーケティングとブランディング、そしてテクノロジーとデザインの力で、クライアント企業をご支援しています。
具体的には、市場調査・ブランド戦略策定・コミュニケーション設計・デジタル人材の育成など。ブランドの立ち上げから実装、そして自走まで全面的にご支援をさせていただきます。
ありがとうございます。最近「ブランディング」という言葉をよく聞きますが、抽象的な概念なので、正直うまく理解できていません…。簡単にいうと、どのような意味なのでしょうか?
他者からどう思われるかを考えることがブランディングです。たとえば「頭が良い人だ」と思われたければ、色々努力をしますよね。ブランディングとはその行動の総和を指します。
なるほど!ブランディングはすべての企業が取り組むべきことなのでしょうか?
基本的にはどの企業も取り組むべきだと考えています。たとえば、これが20年以上も昔の話であれば、まだまだ経済が成長期だったので正直ブランディングがなくてもモノは売れました。しかし、今の時代はモノが溢れかえっていますよね?
ネットで商品名を調べただけでも数千種類と出てきますもんね。
そうなんですよ。しかも日本では買い手となる人口は減り続けているので、もはや何も考えずに陳列しただけでは売れない時代になりました。企業側から「私たちはこういうことを考えていて、こういうことをやっている」と積極的に発信することで、顧客から共感を得て商品を選んでもらう必要があります。
また、もっと長期的な目線でもブランディングは重要になります。たとえば、ブランドを背負う経営者が退任したときに、ブランドが成立しなくなるケースは少なくありません。しかし、ブランドが人ではなくプロダクト自体に神格化されたものになれば、たとえ中心人物が抜けても顧客から選ばれ続けます。そう考えると、事業の継続はブランディングにかかっていると言っても過言ではありません。
ブランディングは目先の売上のためではなく、もっと長期的な目線で取り組むべきことなのですね。
「ウチのプロダクト(商品)には語れるストーリーがない」と悩んだら
ブランディングはプロダクトと密接に関わってくると思います。そう考えると、既にプロダクトがある場合に取り組むのは難しく、プロダクト開発の段階から取り組まなくてならないと思いますが、実際どうでしょうか?
たしかにプロダクトの材質・デザイン・耐久性など、ひとつひとつがブランディングに関わるので、プロダクト開発の段階からブランディングに取り組んだ方が効率的だと思います。
しかし、では「ブランドを定めてからプロダクトを作るべきか?」と問われれば、必ずしもそうではありません。初期からブランディングを行うことによる弊害もあります。
弊害ですか…!?
モノづくりへの投資が減ってしまうことです。ブランドよりも先にプロダクトを作る場合は、職人さんが一心不乱になって作りますよね。一方で、あらかじめブランドを定めて予算配分をきっちり考えると、冷静になってしまうので、必然的にモノづくりへかけるお金や時間が制限されてしまいます。そうするとプロダクトのレベルが下がってしまう。これではブランディングをしても、なかなか売れませんよね。
なので、プロダクトを作った後にブランディングをする流れでも全然問題ないと思います。
なるほど。やはりプロダクトの質が高いことが大前提ということですね!一方で、ブランディングには商品にまつわるブランドストーリーが重要な印象です。語れるストーリーがない場合にはどうしたら良いのでしょうか…?
この質問はフラクタでもよくいただくものです。弊社の場合はまずクライアントと勉強会を開くのですが、その場で「本当にストーリーはないのでしょうか?」と確認します。すると、いろいろと話を進めていくうちに、だいたい出てくるんですよね。
たとえば以前、とある和菓子屋が「うちは歴史はあるけどストーリーがない」と悩んでいました。まずこの時点で「ストーリーあるじゃん!」と思いませんか?
たしかにそうですね(笑)
しかも職人さん曰く「あんこは外注するのが一般的だけど、うちは0から作っているんだよ」と。これも立派なストーリーですよね。
ストーリーがないと悩んでいる企業は、自分たちが何気なくやっていることに目を向けてみると、ヒントが見つかるかもしれません。
ブランディングは継続が命。担当者の情熱にかかっている
ブランディングの効果は数字で表すのが難しそうですよね。自社で取り組みたい場合は、どのようにして周囲を説得すれば良いのでしょうか?
そもそもブランディング(branding)は “ing” なので、現在進行形として継続して行うことです。それにも関わらず、すぐに効果が出る特効薬だと勘違いしている人もたくさんいます。たとえば「ブランディングをしたら来週の売上が100倍になる」みたいなことは、あり得ないじゃないですか。
なので、まずは長期的な絵を描きましょう。たとえば、クラシコムさんが運営する「北欧、暮らしの道具店」がうまくいっているのは、単純に動画を使ってマーケティングしたからではありません。ずっとブランディングを繰り返してきたからです。周囲を説得したいなら、そういった他社の事例も踏まえて説明できると良いですね。
しかし、すべてを数字で説明するのは難しいので、最終的には担当者の情熱で押し切るしかありません。
どんな仕事も最後は情熱ですよね!とはいえ、実際に取り組む際にはなかなかタスクが多くなる印象ですが、優先的に取り組むべきことはなんでしょうか?
やらないことを決める、ですね。「社長に言われたからこれもやらなくては…」「でも、これも上司からやれと言われている…」このような状況になると、すごく辛いですよね。とくに顧客とのタッチポイントが増えている現代では、ブランディングは総力戦になります。まずはやらないことを決めて、目の前のタスクをひとつひとつこなすことが重要です。
やらないことを決めるのもなかなか難しそうですが…。
4象限で決めるのがおすすめです。「やれば顧客が喜び、効果が高いもの」「やれば顧客は喜ぶが、効果は低いもの」などなど、洗い出してみると「やっても顧客の喜びは小さいし、効果も低いもの」が結構出てくるんですよね。
たとえばエクセルに受注データを入力する作業など。必要だと思って盲目的に作業していたけど、じつは不要だったみたいなパターンがEコマースを運営しているとよくあります。作業そのものをなくしたり、もしくは自動化ツールを使ったりなど、できるだけ工数は削減していきたいですね。
なるほど、優先度を定めて業務に取り組むべきということですね!
ブランディングに取り組むなかで、ときには難しい選択を迫られる場面があると思います。たとえば「ブランドのルールからは少し外れるけど、この広告バナーを出せば売上が伸びそう…!」など。売上拡大とブランド維持のバランスに迷った場合はどう判断したら良いでしょうか?
自分たちが守っているのは本当にブランドなのか?を一度冷静に考えてみてください。ブランドのルールを盲目的に守ってはいないでしょうか。
たとえば、ブランドのルールから少し外れたクリエイティブを配信して、それを見たユーザーが「この表現は不快だ」となるのであれば、たしかにNGにするべきです。しかし「ちょっと売りに出てるな」程度であれば許容範囲だと思います。
ブランディングもビジネスなので、事業として継続できるかが重要です。そのためにも、ときには柔軟な姿勢が必要になります。実際にはその広告バナーの見せ方次第な部分はありますけどね。
モール依存を脱却するべきか?すべては目的次第で決めるべき
最近は各社で「脱モール依存」の動きも見られます。自社Eコマースに移行することを河野さんはどう思われますか?
正直、自社Eコマースに幻想を抱いている人が多い印象です。「手数料が引かれるのが嫌だ」という理由で移行して、うまくいった事例をあまり見たことがありません。自分たちで集客を行うのは、なかなか大変なんですよね。
そうなんですね…。たしかにモールの場合は出店すれば集客もしてくれるし、信頼も担保してくれるので売る側からしたら楽ですよね。
そうですね。「ユーザーがモールをよく使うから」という理由で、いっそのことモール販売に振り切るのもひとつの選択肢だと思います。いずれにせよ、モールにも自社Eコマースにもメリット・デメリットがあるので、それぞれ把握したうえで必ず目的を持って判断するべきです。
仮にモールを撤退して自社Eコマースに移行する場合、何か注意点はありますか?
顧客とのコミュニケーションを丁寧に行ってください。以前モールから撤退して自社Eコマースに移行するクライアントがいましたが、私たちは5年ほどかけて顧客のケアを行いました。モール専用のポイントを使いたい人が一定数いたので、顧客のことを考えると時間をかける必要があったんですよね。
5年もかけたんですか…!
それでも昔に比べたらスムーズになりました。今はオンライン上で顧客とコミュニケーションが取りやすくなったので、極論ですけど、たとえばSNSを使って「Amazonから撤退したら怒りますか?」など質問しても良さそうです(笑)
ほとんどの企業はSNSで「新商品が出ました!」とか、一歩通行な宣伝ばかりしていますけど、もっと双方向なコミュニケーションをとっても良いと思います。
たしかにそうですね…!SNSにもそれぞれ文化はありますが、しっかりと理解したうえで活用すれば問題なさそうです。
事業のスケールだけが正解ではない
改めて、河野さんにとってブランディングとはどのようなものでしょうか?
経営そのものであると考えています。ブランディングと聞くとモノに焦点が当たりがちですが、ヒト・モノ・カネのすべてを考えなくてはいけません。常にすべての行動をモニタリングして、定性的・定量的な目標を定めて長期的な絵を描く。まさしく経営そのものです。
経営者である河野さんならではの言葉ですね!
最近はブランディングに本腰を入れて取り組む企業が増えているとお伺いしましたが、今後は何か変化が起きそうでしょうか?
グローバル展開を見据えて、ブランディングに取り組む事例が増えそうです。たとえば、韓国のアイドルやドラマは海外に売りに出すことを前提に作られています。彼らは国土も小さく人口も少ないので、自分たちの限界を理解して最初からグローバル展開を見据えているんですよね。
これから日本の人口減少は一気に進むので、同じ流れになるのではないでしょうか。もちろん、しばらくは国内需要だけでもビジネスは成立すると思いますが、とはいえ多くの経営者は事業のスケールを考えているので、必然と海外に目が向いてくるでしょう。
しかし、スケールだけが正解ではありません。僕個人としては、自分たちのなかで適切な規模で割り切れるならば国内需要だけで良いと思います。
ビジネスは継続性が大事なので、無理にスケールを目指す必要はないですよね。売上がそこまで大きくなくても中にいる人たちの幸福度が高い企業は意外とあるので、それもひとつの在り方だと思います。
本当にその通りです。会社の規模を拡大するには人件費や広告費など、それなりにエネルギーやコストがかかります。しかし多くの企業はスケールし続けられるほどのパワーを持ち合わせていません。それにも関わらず「スケールし続けなくてはならない」という資本主義の呪いにかかっています。
もちろんスケールを否定するわけではありません。しかし、スケールせずに一定規模で折り合いをつける選択肢もあって良いのではないかと思います。改めて、自分たちがどう在りたいかを考えてみるのが良さそうですね!
非常に考えさせられるお話でした。河野さん本日はありがとうございました!
編集後記
ブランディングが「他者からどう思われるかを考えること」であれば、まずは自分たちが何者であるかを把握しなければなりません。また、売上のスケールを目指すのか、一定規模で折り合いをつけるのか、これも自分たちが何を目指しているのかによって変わります。
今回の取材を通して、商売を続けるにはまず自分たちが “どう在りたいのか” を確認することが重要だと感じました。Eコマースを運営していると、どうしても目先の売上を追うのに精一杯になる場面があります。しかし、そこで一度箸を休めて、みなさんも自分たちが “どう在りたいのか” を改めて考えてみてはいかがでしょうか。
インタビュー:阿部 圭司/高梨 和歌子/仙波 勇太/下出 翔太
文:下出 翔太
編集:阿部 圭司/高梨 和歌子
写真:阿部 圭司