「ひとりEコマースだからこそ、ウェットなコミュニケーションを」Shopify認定教育パートナー・三浦卓也さんから学ぶ、ひとりEコマースの戦略論

三浦 卓也さん
広告代理店やEコマースの運営企業を経て、バターコーヒーなど健康食品の販売を手がけるミウラタクヤ商店を開設。日本で初めてShopify認定教育パートナーにも選ばれ、現在はEC家庭教師としても活動中。2022年3月に著書「ひとりEC 個人でも売上を大きく伸ばせるネットショップ運営術」を発売予定。

売上が伸びたきっかけは “Shopify” 

三浦さんはひとりでEコマースを運営されていますよね。かつて、ピーター・ドラッカーが「理想的に設計された組織とは、会議のない組織である」と記したように、私は、理想の組織はひとりであると考えています。今後は三浦さんのように、ひとりでEコマースを運営する方も増えてくるという、半ば確信のようなものもあり、ぜひお話を伺いたいと思っていました。本日はよろしくお願いします!

三浦 卓也さん

こちらこそよろしくお願いします!

いつ頃から、ひとりでEコマースを運営されているのでしょうか?

三浦 卓也さん

3年ほど前からですね。受託の仕事で貯めた資金をもとに始めました。

三浦 卓也さん

独立前には広告代理店やEコマースの会社など複数社を経験しました。そこで感じたのが、会社は拡大することのデメリットが大きいということ。家賃や人件費など、多額の固定費が必要になります。なので、自分が経営する際にはできるだけコンパクトにしたかったんです。人間関係の悩みもなくなるので、ぼくの場合はパフォーマンスも上がると思いました。

さまざまな経験をされたからこその決断だったんですね。

ミウラタクヤ商店の主力商品はバターコーヒーですよね。とくに人気No.1のチャコールバターコーヒーは累計600万杯分も売れているようですが、これは当初から販売していたのでしょうか?

引用:ミウラタクヤ商店

三浦 卓也さん

いいえ。もともとは自分が好きだったハンドメイド作品などを販売していました。しかし生産効率が悪く、売上を伸ばすのが難しかったんですよね……。

たしかに手作りの商品なので、在庫がなかったり、納期にも遅れが生じたりしそうです。

三浦 卓也さん

そうなんです。その点、健康食品は安定して生産が見込めました。また、もともと自分がダイエットを経験していたので、良いモノを作れる自信もあったんです。栄養成分だったり、ロジックなどをいろいろと調べたり、考えたりした中で、当時は海外でバターコーヒーが流行していたので「海外で流行しているものを日本向けに開発したら売れるのでは?」と思い、目をつけました。

その後はどのような流れで進んだのでしょうか?

三浦 卓也さん

ベンダーを通じてプロダクトを開発しました。最初はさまざまなモールを使って販売していましたが、Shopifyに出会ってからは自社Eコマースに注力をして、そこから売上が劇的に伸びたんです。

Shopifyで自社Eコマースに注力したのが成功要因だったんですね!

三浦 卓也さん

そうですね。Shopifyはプラグイン機能が充実していて、カスタマイズがしやすいんです。たとえばお客様は購入に至るまでの間に、ランディングページを見て、購入価格を見て、決済をして、購入完了ページを見て、メールが届くというフローをたどりますよね。Shopifyでは、この要所要所でのコミュニケーションを柔軟に変えられます。ここをうまく最適化した結果、リピーターが急増しました。

ぼくはネット上でShopifyを褒めまくります。なので、こんなことを言うと「Shopifyの教育パートナーだから良く言ってるんでしょ?」と言われることもありますが、実際はその逆です。もともとShopifyが好きで、ずっと昔から魅力を発信していました。

三浦さんはShopifyに関する発信をTwitter上でたくさんしていますよね!非常に勉強になるので、以前から拝見していました。

ファンが集まる秘訣は丁寧なコミュニケーション

LINE登録者数はついに2万人を超えましたね!ひとり運営で、ここまでファンを増やせるのは本当にすごいことだと思います。

顔を出して運営していますが、何か意図はあるのでしょうか?

三浦 卓也さん

顔を出せば信頼も得やすいじゃないですか。店主の人柄がにじみ出た方が常連さんも付きやすいですよね。ひとりECは小規模だからこそとれる戦略があって、顔出しも、ひとりで運営しているからこそとれる戦略だと思います。

とはいえ、必ずしも顔を出す必要はありません。たとえば顔を出さなくてもフォロワー数が多いYouTuberもいますからね。しっかりとコミュニケーションが取れていれば、お客様からの信頼も得られるはずです。

なるほど!Facebook広告のアイコンも三浦さんの顔だったので、思わず私もクリックしてしまいました(笑)ちなみに顧客とのやり取りはすべて三浦さんが対応していると伺いましたが、1日にどれぐらいの時間をかけているのでしょうか?

三浦 卓也さん

1日に2時間ぐらいですね。基本的には即レスで対応しています。自分がお客様の立場なら、返信が早いと感動しますよね。その感動は、やがてお店へのポジティブな印象に変わるので意識して対応しています。これも大手企業には真似できないことなので、ひとりEコマースならではの戦略です。

1日に2時間もかけているんですね……!

三浦 卓也さん

そうです。Eコマースの業務は1日に6時間ほどですが、そのうち5時間をLINE・メルマガ・広告など、お客様とのコミュニケーションに当てています。その代わり、発送処理などのオペレーション業務は可能な限り自動化していますね。

最近はバターコーヒーを販売する競合も増えていますが “お客様目線” ではどこにも負けたくないんです。そもそも、世の中にある多くの健康食品会社はコミュニケーションがドライすぎるんですよね。機械的でお客様目線ではありません。なので、健康食品業界のなかでウエットなコミュニケーションを取るのは、じつはブルーオーシャンだったりします。

たしかにそうですね。健康食品業界に限らず、Eコマース全体で定型文のドライなコミュニケーションが蔓延していると感じます。

三浦 卓也さん

オンラインとオフラインを無意識に分けてしまう企業が多いんですかね。非常に勿体ないことだと思います。とくに最近ではオンラインでもリアル店舗ぐらいの体感を与えないと、なかなか購入やリピートにはつながりません。むしろ顔が見えないEコマースだからこそ、泥臭く濃密なコミュニケーションが必要だと感じます。

ミウラタクヤ商店ではLINEに注力していると伺いました。顧客と濃密なコミュニケーションをとるなかで、何か印象的だったエピソードはありますか?

三浦 卓也さん

お客様から懸賞旅行をプレゼントされたことがあります。あとは土日にLINEの返事をしていたら「仕事ばかりしてないで子どもと遊んであげなさい」と言われたこともありますね(笑)

ひとりでEコマースを運営していると「病気や事故になったらどうしよう」と不安になることもありますが、今の感じだと、病気になったことを報告したら、むしろ激励のメッセージが飛んでくるかもしれません……!

本当にすごいですね.…..! もはや「お店と顧客」という関係ではなく、一種の「コミュニティ」ですね。

三浦 卓也さん

ありがとうございます。ぼくは、お客様はお店の鏡であると考えています。たとえば低価格を売りにすると「もっと安くできないのか」と価格を求められてしまいますよね。また、過激な表現で効果や効能を訴求すると「効かないじゃないか」と言われてしまいます。

一方で、うちのお客様からはそのような声は上がってきません。むしろ「ダイエットがんばります!」という連絡が来ます。これは、ぼくが「ダイエットは頑張るものだ」と積極的に発信をしているので、そこに共感した人だけが購入している証です。お客様との関係性は、お店側が日頃からどのようなコミュニケーションを取っているのか、露骨に表れてくる部分だと思います。

プロダクト(商品)と自分の接客に自信があるからこそ広告を打つ

ミウラタクヤ商店はWeb広告にも注力していますよね。ひとりでEコマースを始める場合に広告配信は必要だと思いますか?

三浦 卓也さん

はい。とくに最初はデータ収集のために行うべきだと思います。広告を配信することで、実際に需要があるのか確認できますし、クリエイティブを複数用意することで「どの表現が反応が良いのか?」も把握できます。SEOやSNSは顧客へのリーチに時間がかかりますが、広告は瞬時に幅広いユーザーにリーチできますからね。

あと、ぼくの場合はプロダクトと接客に自信があるからこそ広告を打っています。プロダクトはぼくの接客とワンセットです。意外に思われがちですが、ダイエット商品は「社会の脂肪を減らして健康な人を増やす」という社会的意義も大きいので、変な伝え方でなければ、世の中に広めない理由がありません。

かつて、パナソニックの創設者・松下幸之助氏が「いい商品は、その存在を広く社会に伝えなければならない。そのための広告である。」と言っていましたが、それと同じ考えですね!

三浦 卓也さん

光栄です……!

じつは広告側でもいろいろと試行錯誤をしているんです。たとえば、最近は広告の遷移先をランディングページから商品ページに変えて配信をしています。あくまで肌感ですが、近年ではお客様が購入に至るまでの判断時間が短くなっているんですよね。なので、遷移先ページの情報量を減らして、できるだけお客様にストレスをかけないような試みをしています。

ランディングページの情報量が多いのは日本だけで、海外ではすぐに購入画面に遷移するのが一般的です。とくに情報過多な世の中なので、長文を読ませるのはハードルが高いですよね。

三浦 卓也さん

そうですよね。とくにここ数年では、広告のコミュニケーションが “2次元” から “3次元” に変わっています。言い換えると、ブランディングが重要な時代になりました。ランディングページだけで顧客を説得するのは難しいので、すべてのタッチポイントで情報を発信して、信頼を得つづける必要があると感じます。

ブランディングが重要な時代というのは激しく同意です。一方で、広告で集客数が急増するとオペレーションが崩れる懸念はありませんか? ひとりEコマースですとその辺のさじ加減が難しいのかなと思いまして。

三浦 卓也さん

今のところないですね。発送処理は1日に1回まとめてやるので、10件やっても100件やっても変わりません。受注処理も1日に30分〜1時間ぐらいで終わりますからね。

ただし、どのような人が購入したのかは確認したいので、あえて手動で行っている部分もあります。名前を覚えると、たとえばLINEで連絡をいただいたときに「先日は◯◯を購入いただき、ありがとうございました!」と、気の利いたことを言えるじゃないですか。お客様が喜ぶことであれば、あえて手間をかけても良いのかなと思います。

三浦さんは限られた時間を本当にうまく使っていますよね。

三浦 卓也さん

ひとりで運営しているからこそ、何をすればお客様が喜ぶのか、売上につながるのかを意識しながら取り組んでいます。たとえばミウラタクヤ商店では、メルマガは売上へのインパクトが大きい施策です。なので月に15本〜20本ほど、作成には時間を要しますが配信を続けています。

一方で、サイト分析はあまりしません。Eコマースの規模感にもよりますが、たとえば月に数百万円ほどの売上規模であれば、データが少ないので有意な情報は得られないんですよね。そもそも分析する時間があるぐらいなら、他の集客施策を試したいです。リアル店舗を想像してみてください。お店のレイアウトを細かく考えるよりも、外に出て「◯◯を売ってますよー!」と宣伝したほうが売上につながるじゃないですか。

たしかにその通りですね! Google アナリティクスなどの分析ツールを眺めていると、ついつい仕事をした気分になりがちです。まずはやらないことを決めて、重要なことにエネルギーを割くのが良いということですね!

ひとりEコマースに必要なのは「すべての責任をとる覚悟」

ひとりでEコマースを運営をするうえで、欠かせないものがあれば伺いたいです。

三浦 卓也さん

すべての責任をとる覚悟です。たとえばWeb広告の運用を広告代理店にお願いして、成果が悪化したとします。その際に「なんでこんなに悪くなったんだ!」と怒っても、根本的な解決にはなりませんよね。たとえ成果が悪くても、結局は自分が管理しなかったことが原因です。

三浦 卓也さん

そもそも自分がわからないことを他人に委ねてもうまくいかないことの方が多いので、すべてを自分がコントロールする気概を持つことが重要だと思います。

「ひとりEコマース」と聞くと、安易に憧れを抱く人もいると思いますが、自分ひとりで責任を持つという厳しい側面もあるということですね。

最後に、三浦さんが目指す今後のゴールを教えてください。

三浦 卓也さん

お客様と生涯を共にすることです。たとえば街にある商店は、店主が生涯を終えるまで開店しているところが多いですよね。それと同じイメージです。とくに健康に関わるものを販売しているので、お客様もずっと利用できるんですよね。できるだけお客様と長い時間を過ごしたいと考えています。

ステキですね!ちなみに健康食品以外での事業展開は考えていますか?

三浦 卓也さん

将来的には食品関連の雑貨を増やす予定です。ただし、あくまで今販売している商品をもっと使いやすくするための位置づけですね。ぼくはダイエットについて詳しく勉強をしてきたので、それがECサイト運営における強みだと自負しています。なので、まったく別の領域に進出することはあまり考えていません。強みという自分の資産を使うことができなくなりますからね。「お客様の健康への目線をひとつ上げること」が、ぼくの社会的意義なので、そこは忠実に取り組んでいきたいと思います。

一方で、海外展開は視野に入れています。ダイエットという概念は世界共通なので、確実に市場はあるはずです。なによりもプロダクトと自分の接客を活用することで、お客様とのコミュニティを作るスキームに自信があるので、海外でも戦える自信があります。実際に去年からシンガポールへの進出を目指して動き始めているところです。人口はおよそ600万人ほどの小さな国ですが、そのうち1%の人に買ってもらえば6万人になります。顧客単価を踏まえると売上も十分に見込めるんですよね。また、シンガポールは親日国家と言われていてますし、じつは肥満が社会的な課題にもなっています。その社会的な健康課題を解決することにチャレンジするため、シンガポールを選んでいます。

これから海外進出にも挑戦しますが、今いるお客様が最も大事なので、しっかりと大切にしつつ、徐々にその輪を広げていきたいと思います!

今後も楽しみに動向を追わせていただきます!今度発売される書籍「ひとりEC 個人でも売上を大きく伸ばせるネットショップ運営術」も拝見させていただきますね。三浦さん本日はありがとうございました!

編集後記

取材を通して、三浦さんが人情に溢れた経営をしているとしみじみと感じました。

Webの仕事をしていると、ついついパソコンばかりを見つめてしまいがちです。「数値が上がった、下がった、それはなぜか?」など。もちろん、数値から何かしらのヒントは得られるかもしれません。しかしそこに答えはなく、私たちが本当に見るべきなのは顧客であると、三浦さんの話を伺って改めて気づかされました。

みなさんもぜひ、一度パソコンから離れて「本当に顧客が喜ぶことは何だろうか?」と考えてみてはいかがでしょうか。この記事が何かのきっかけになれば幸いです。

インタビュー:阿部 圭司/松本 涼花/安藤 和/下出 翔太
文:下出 翔太
編集:阿部 圭司
デザイン:仙波 勇太
写真:三浦さん提供

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