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流通総額が300億円を突破。オンラインサービス事業注力の事業転換の裏側
『とらのあな』には日頃から大変お世話になっております……!改めて、事業内容をお伺いしてもよろしいでしょうか!
小売事業「とらのあな」を1996年に創業し、秋葉原に店舗を構えていました。その後2013年にユメノソラホールディングスを設立し「とらのあな」を運営する株式会社虎の穴、出版業やグッズ製造するツクルノモリ株式会社、結婚相談サービス「とら婚」を運営するとら婚株式会社など合計7社で構成されています。
2022年度のIRを拝見しました。オンラインサービス事業への積極的な注力の結果、1年で流通総額を50億円以上伸ばされていますね。これまでの実店舗販売から通信販売への大きなシフトチェンジの経緯をお伺いしたいです……!
1996年に通信販売をスタートしました。当時は通信販売雑誌「とら通」を発行しており、電話やFAXで注文を受けつけていました。FAXが鳴り止まない時期は、仕分けや在庫管理もリアルタイムで対応できずに在庫切れを起こしたり、物流も今ほど整備されていなかったので発送まで1か月以上かかってしまうなど、お客さまには多大なるご迷惑をおかけしていました。
その後、2008年に物流倉庫を千葉県市川市に移転し通信販売の強化に動きだしました。しかし、2012年頃までは売上高の7〜8割は店舗事業が占める状況でした。これは、通信販売の売上が上がらなかったわけではなく、徐々に高まる通信販売の売上高と相乗効果的に店舗事業の売上も上がっていた結果です。
しかし2012年以降、店舗の成長が鈍化し、単店舗規模だと売上高が前年度を割ってくるタイミングがありました。その時期から通信販売比率は上がっていきます。これはサービスの問題だけではなく、Amazonなど様々なEコマース会社の台頭の黎明期という外的要因も大きかったです。
まだ出店していない地域もある中、ユーザーのカバー率も足りていない課題はありました。しかし、店舗の売上高が鈍化していく状況は、今後の店舗強化よりも、通信販売強化の戦略に切り替えるには十分な要因でしたね。
その結果、売上の8割を占めていた店舗事業が2018年には6割にまで下がり、その分通信販売事業の売上比率が伸びてきていました。
IRを拝見する限り、コロナをきっかけにしたオンライン事業の成長の様にも見えますが、実はその前からオンライン強化には動かれていたということですね…!
そうですね。2019年頃はインバウンド需要も非常に大きく、秋葉原、難波や福岡を中心に前年比を上回る売上高を記録しており今後もインバウンドは増え続けると予測していました。そのため、多店舗展開よりも特定地域に絞った店舗事業に注力しつつ、通信販売をはじめ「Fantia」などのデジタルサービスへ投資を増やそうと動き始めた最中にコロナが本格化してきました。
それまでは、好調だった特定店舗も一気に売上を落とし、緊急事態宣言発令後は店舗を閉めざるを得なくなりました。当時は先行きの不透明感もあり一過性のものではなく中長期にわたる想定で事業全体の見直しを行い、通信販売の注力強化のターニングポイントになったのが2020年ですね。
結果的に、コロナは2年以上続きましたが、旗艦店だった秋葉原店舗を閉店したのは大きな決断だったのではないかと推測します…。
そうですね。秋葉原店は創業の地なので、思い入れも強かったです。しかし、コロナ禍において、店舗運営の継続に投資するよりも流通総額が前年比を大きく上回る成長率を誇る「Fantia」を始めとするオンライン事業に注力したほうが良いと考えました。また、事務的な話だと秋葉原店の定期借家契約が切れるタイミングも重なり、2022年に秋葉原の旗艦店を閉める判断に至りました。
2025年度には流通総額400億、サービスユーザー数1500万人達成を目標としてこれからもオンラインの勢いは止まらなさそうですね…!
私達は20年以上分散投資型のビジネスモデルを行っています。店舗事業と通信販売事業に分散投資をかけるため片方の成長率が良かったとしても、使える原資は限られます。
通信販売はこれまでも投資したら、した分だけ伸びていた時期もあったと思います。しかし、これまでは90%以上の原資を店舗展開に割いていたため、Eコマースを専門とする他サイトと「とらのあな」を比較すると、まだまだできることは多いというのが正直な所見です。そのため今後は、他サイトでは当たり前にできているが「とらのあな」では出来ていないことを当たり前に出来るようにするところからオンライン事業や通信販売の地盤を固めていきます。
これまで店舗展開に割いていた原資をオンラインの販促やお客さま向けのサービスなどに投資できるようになるので、これから一気にEコマースを伸ばしていくフェーズまで来ていると思います。
クリエイターさんの新着メール通知の機能の実装はすごく助かっています…!僭越ながら、中の方々が開発を頑張って頂いてる雰囲気を長年利用させて頂いてるこの数年特に感じておりました。
ありがとうございます。それでもまだ、検索がしにくかったり、新規登録のUI(ユーザーインターフェイス)が分かりづらいなど多くの課題があると思っています。
また、Webサイトだけではなく配送の遅延についてもお客さまからのご指摘を頂戴しているので1つ1つを1日でも早く改善に努めていきます。過去の機能の改善により、ユーザー数も増えていく実感もあるので、リソースをかけることでその分のリターンも目に見えやすく投資の判断がしやすいというのも背景としてはありますね。
ユーザーさんから指摘をもらえるのはサイト運営側からするとありがたいですよね。オンラインに限らずですがユーザー体験が悪いとお客さんは何も言わずに去っていってしまう。なぜなら、2度と使わないサービスにわざわざフィードバックをする親切な人はいないですよね。だからこそ、サービスへのフィードバックで改修を繰り返す「とらのあな」と相関的に増えていくユーザー数の関係は特徴の1つと言えるのではないでしょうか…!
ありがたいことに「こういう機能ないですか?」などのお声を頂くことが多いです。サイト改修だけではなくコロナ禍では「とらのあなWEBオンリー」という場づくりもお客さまの声をきっかけに生まれたサービスです。
このサービスサイトもリリース当初は参加申し込みできるだけの機能しかついていませんでした。そこからイベント主催者から「こういう機能がほしい」「こういう機能があるとイベントが盛り上がる」など意見をいただきながら、3ヶ月に1度の頻度で新しい機能を実装していきました。
コロナ禍でコミックマーケット(通称コミケ)を始めとするイベントが開催できない状況が続き、クリエイターとしては作品を作っても見せる場所がなくもどかしい雰囲気がありましたね…。
少しコアなお話になるのですが、開催するイベントはアニメの最終回や映画が公開されるなどジャンルごとに盛り上がりに”旬”のようなものがあるんです。つまり、クリエイター側は盛り上がった”今”にイベントをやりたい気持はあるのに、できる場所がなかったのがコロナ禍でした。
ものづくりは情熱や勢いが大事です。それがコロナ禍で停滞していた雰囲気に危機感を感じていました。だから、業界全体で何かしら後押しできるサポートが出来るといいなと思っています。従来、リアルで提供されていたファン同士が集まれる場所がオンラインに移行し始め、ものづくりの火を絶やさないようにしようという雰囲気に後押しされ、クリエイターさんと一緒に始めたのが「とらのあなWEBオンリー」です。
利用者の意見は貴重ですよね。とはいいつつ、マーケターとしては取り入れる意見の取捨選択が大事だと思うのですが、どのようにバランスを取っているのでしょうか。
おっしゃる通り、弊社もカスタマーセンターで利用者さんの声を頂いています。頂いたお声はマーケターとエンジニアチームの中で離脱率などデータの裏付けを基に討議をし、サイトでのABテストで検証するようにしています。利用者からの声はもちろん大事なのですが、それだけを受けてそれを反映させるのが必ずしも良いわけではないという認識は社内にもありますね。
オンライン移行後、店舗に訪れていたユーザーの行動変化は?
店舗を閉めてオンラインのインターフェースを整えたことも含めて、ユーザーさんの行動にどのような変化がありましたか?
コロナ前は、仕事終わりに店舗に寄っていただいたユーザーさんも多く、リモート勤務などの変化で店舗に行くにも距離の問題や、外出が思うように出来なくなったことでEコマースで買い物することへの抵抗感は弊社サービスに限らず軽減された雰囲気を感じていました。
とはいえ、店舗を完全に閉めてEコマースに移行するのはお客さま目線でどうなんだろうという議論はありました。事実、店舗に来訪していただいていたお客さまでEコマースを併用されていた方は多くありませんでした。
しかし、コロナ禍でEコマースでしか作品の購入ができないことに加えて、作品を購入することでしかクリエイターを支援することができない状況がEコマースの利用機会を増やしていったのは間違いないですね。
従来Eコマースを利用されていなかった方も一度利用していただければその後も継続して利用頂けていたので、結果としてEコマースへの移行も加速度的に進みました。結果、Eコマースの新規顧客の登録者数も大幅に伸び、当社のオンライン注力の後押しにもなりました。
一度利用して頂いた方は継続利用してくれるとのことですが、その最初の一歩を踏み出してもらうために実施されていたことはありますか。
店舗利用のお客さまにはメールマガジンで新規作品の紹介や、SNSなどでサービス認知やクーポンの配布を行いオンライン登録を促すキャンペーンを定期的に実施しました。また、過去1年以上オンラインでの購入がない休眠顧客にはカムバックメールを送付もしました。
コロナ禍はイベントの中止や作品の販売や頒布する場がなくなったことで「とらのあな」というブランドを支援するというよりは、当社のサービスを介してクリエイターを支援するために利用していただいたお客さんが多かったので、私たちもその支援を円滑に行うことに注力していました。
とらのあな店舗では、店員さんが作品のポップを書いてくれているんです。それをきっかけに自分は存じ上げないクリエイターさんを知るきっかけになったと同時に、店員さんの熱量に圧倒される体験が店舗に行っていた理由の1つでした。本屋さんで書籍を購入していたのがAmazonに代替された書籍文化と同様に、自分が知らないクリエイターさんやジャンルとの偶発的な出会いは少なくなったと感じていました。
作品と出会う機会が減ると最終的にものづくりに関わる人口も減ってしまうことを危惧しています。なぜなら、買い手として作品を購入した体験をきっかけに自分も同人誌を作ってみたい気持ちや、イベントに出てみようというモチベーションにつながるケースが多いんです。
今までは店舗のポップだったものを、ダイレクトメールやTwitterで定期的に作品の紹介を発信しているのも、クリエイターさんの活動内容はもちろん、同人誌の文化を多くの人に知ってほしいという想いがあります。もちろん、日本だけではなく海外向けに翻訳して発信もしています。
Eコマースは知っている作家さんの新刊を狙って買う利便性は感じていました。一方でオフラインを通じて得ていた自分が知りたい同じジャンルの本を知る機会をどのように支援されていたのかをもう少し深掘ってお聞きしてみたいです。
オンライン事業に注力したと言っても、オフラインの場も重要性は理解しています。しかし、店舗自体を閉めている弊社は既存の書店にとらのあなコーナーを作っていただくインショップという形態を採用しており、池袋店は女性向けの店舗として今でも残しているんです。まずは池袋の1店舗だけですがオフラインでも今まで店舗で扱っていない作品に触れてもらう場やイベントができる見本誌展示を実施しています。
書店の売り上げが下がってきている情勢は皆さんも感じていると思いますが、地方の書店さんの実情はみなさんの感じているそれよりもかなり厳しいです。そこにインショップという形態という売り方を始めて函館、豊橋など21拠点(※2023年4月1日現在)まで出店の幅を広げています。
デジタル事業に注力すると言ってもデジタル「だけ」にする必要はなく、ユーザーとのリアルなコンタクトポイントは用意していくべきだと考えています。
バーコードがない!?目視と手作業で行う作品の物流整備
オンライン事業注力でやらなきゃいけないことがたくさんあったと思うんです。その中で一番苦労したことや難しかったところはどこでしたか。
店舗を閉めることで従業員の配置転換を余儀なくされました。従業員の多くはオンライン事業やとら婚など別サービスの事業に携わってもらうようにしました。しかし、エンジニアの採用は時期的な要因もあり人数は常に不足していました。
虎の穴ラボというとらのあな関連サービスのシステム開発を専門に扱うエンジニア会社を設立して就業規則や雇用条件をエンジニアにとって最適な雇用環境を模索しながらルール整備を行いました。具体的にはフルリモート勤務や地方採用含めて早期に整備したおかげで当初は不足していた人材も中盤以降は採用も軌道に乗せることができました。
事業変化に伴い人材や業務内容に応じて会社はもちろん就業規則も変えていくことは当たり前のように感じますがかなりの労力だったのではないかと推測します…!ソフト面以外のハード面はいかがでしょうか。
物流整備は直近2年間で一番大変でしたね。当社は3PL(サードパーティー・ロジスティクス)のように他社物流に委託しておらず、千葉県市川市に5500坪の物流倉庫を構え、10万点以上の同人誌、同人作品を入荷から発送まで全ての物流業務を内製スタッフで対応しています。
(※)3PLとは…一般的に荷主に対して物流改革を提案し、包括して物流業務を受託し遂行すること
大変ありがたいことに私たちが想定した以上に作品をお預かりさせて頂いた事がありまして、先の入荷処理が詰まってしまったことで2022年の冬に物流が滞り大幅な遅延が発生した時期がありました。お客さまはもちろん、クリエイターの方にも非常にご不便をおかけしました。
オンライン事業としてはお客さまにサービスを提供するUI(ユーザーインターフェイス)のフロント部分だけではなく、物流などのハード面が半導体不足などの外的要因もあり従来のように機材を購入することも難しい時期でもありました。また、各社さん通販事業強化に伴い人材の確保もままならなかったんです。
コロナ禍は今までオンラインをしていなかった会社もオンライン事業への注力を余儀なくされ物も人も不足していましたよね。コントロールできない外的要因以外で改善のためにテコ入れしたのは具体的にどのあたりだったのでしょう。
1つ大きく変えたのは、通信販売のピッキング作業です。集荷した商品は倉庫に集めて箱に入れてお客さまへ送るのですが、その工程で発生するピッキング作業を効率化するためにデジタルピッキングを導入しました。
また、同人誌はバーコードがついていません。だから、作品1つ1つをデータベースと照合して何部入荷しているのかを目視で確認しています。
企業間のやり取りであれば納品書があり、入荷部数もすぐわかります。しかし、個人のお客さまから送られてくるので、1つ1つ納品された商品を調べて、検品をして在庫を確認するという工程が生じます。また、作品によってはおまけがついているので1つ1つ付け合わせを行います。おまけには作品のタイトルがついているわけではなく、イラストカードが1枚送られてきたりするだけだったりなので、どの作品のおまけなのかを目視で確認し、最終的に一つの商品としてバーコードをつけてやっと入荷処理が完了します。
その作業が10万点分発生するので、クリエイターさん、印刷会社双方がお客さまに早く作品を届けるために発送機材のチューニング、発送形態の変更、梱包資材の変更などKPIを1つ1つ見直しました。
具体的には、作品ごとのチェック項目から袋詰めの手作業も漫然と効率化するのではなく、1つ1つの工程を分解し、事前にお伝えいただく納期のスケジュール調整と合わせて精度をあげる努力をしています。
(※)ピッキングとは…伝票や指示書(ピッキングリスト)に沿って、商品を取り出す作業のこと
作品にバーコードがついていないことを今、言われて気づきました…!目視と手作業で成り立っていたとは…創作側からすると耳が痛いです……(笑)
画像認識の機械も導入していますが、最後は目視で作品タイトルごとに確認しています。もちろん、サークル様にもご協力頂いて、発送前に送付状を発行してバーコードを印字していただくと早く入荷できるというアナウンスさせて頂き、双方で効率化できるところは工夫しています。
私たちのような会社はすでに出来上がった「文化」にビジネスモデルを持ち込んだ、いわゆる後発なんですよ。だから「とらのあな」を介する販売行動で生じる、バーコード貼りやデータベースの管理はむしろ私たちの仕事だと思っています。私たちが代替することでより多くの作品の流通を促せて、クリエイターさんが作品の創作に注力していただけるのであればそれは本望です。
しかし、発送に関しては遅れが発生する可能性がゼロではないので、ご協力をお願いしていくような立場でやらせて頂けるとみんなが幸せになれるのではないかと考えています。
世界に誇れる、日本のクリエイターの文化とは
インタビューを通じて鮎澤さんの言葉1つ1つからクリエイターさんへのリスペクトを強く感じます…!
ものづくりの話題では海外でもよく語られるのですが、日本ほどの創作数は海外でもなかなか類を見ません。
海外のコミコン(コミック・ブック・コンベンション)などのイベントは企業が中心なんです。ユーザー側は何万人もファンがいても個人クリエイターは1,000人規模なんですよ。
それがどのくらいの規模感かというと、「とらのあな」は年間10万点以上の商品流通があるので日本のクリエイター数が海外と比較して段違いに多いことがわかっていただけると思います。個人クリエイターが創作して、発表してファンに直接届ける土壌ができている日本の文化はやはり、素晴らしい文化なんですよ!
※コミコンとは…コミック・ブックやその文化に焦点を当てたイベントで、コミック・ブックファンが集まり、クリエイターや専門家と、そしてお互いに交流する場
徐々に緩和されてきたとはいえ、依然として気軽に海外に行って公演ができる世の中にはまだなっていません。中国や台湾のSNSプラットフォームで配信をして海外との繋がりを持たれているクリエイターさんも増えてきている印象です。
そうですね。SNSのおかげで海外の発信媒体で活動されている方はプロ含めてかなり増えてきています。渡航が徐々に緩和されたとはいえ全ての方が海外に行けるわけではありません。そのため、日本のクリエイターの方を国内だけではなく海外に向けて認知して頂くお手伝いができたら嬉しいですね。
海外向け事業の今後の展望はございますか。
ユメノソラの代表の吉田は2000年代初頭から、アメリカや台湾、中国のイベントやJapan Expoへの出展を続けてきました。そのおかげもあり、とらのあなブランドを海外のお客さまにも認知してもらえているのかなと思います。
そのため国内での「Fantia」事業の伸びも、とらのあな事業と連携を深めていくことでグローバル化を進めていきたいです。
某YouTuberが動画配信プラットフォームからコンテンツを他の媒体に移行している話をしていました。媒体の一極化のリスク分散に加えて、Fantiaの方が利益率が高いというのを聞いてファンとしてもクリエイターさんにダイレクトに支援が届くほうが嬉しいと思ったのですが、サービス側としてこのような意見についてはどのように考えていますか。
元来クリエイターを支援するという立場で始まったサービスなので、クリエイターさんへの利益配分は意識しています。
ビジネスの構造上、物を介すと配送に伴う人件費などの物流コストがかかりますよね。私たちもビジネスを継続していく上では最低限の利益を維持していかなければ立ち行かないので計算はしています。しかし、クリエイターに正当な利益をお戻ししていこうという想いでサービスも立ち上げているのでそのように言っていただけるのは運営冥利につきますね。
これからも日本の文化を支えていっていただきたいです!今後の展望も楽しみにしています!
私たちのビジネスはある意味、流通革命だと思っています。なぜなら、従来であれば出版社を通さないと書店に本は並ばないんです。そして、作家さんに直接利益が入るわけではないですよね。一方で、同人誌は自分で書いたものが直接ファンに届けることができるんです。
加えて、私たちに販売委託でご利用いただけるという環境づくりがファンとクリエイターさんをつなげます。そうすることで、ファンの方から未来のクリエイターが生まれるきっかけづくりに繋がり、回りまわって私たちの委託に繋がるサイクルは今後も大事にしていきたいです。
編集後記
鮎澤さんが新卒で入社された20年以上前は1,000人ほどだった個人クリエイターさんも現在は7~8万人まで増えているとのこと。この数字からも文化の醸成を感じます。
イベントでの頒布がメインの中、委託販売という概念が浸透していなかった当時からここまでの流通額になった背景には、鮎澤さんを始め社員一人ひとりの方が個人クリエイターさんとのやり取りを通じて培われてきた作家さんへのリスペクトと感謝の文化がありました。
昨今では、好きな作品や作家さんを推して、知ってもらいたいとする各々の「好き」を前面に推しだすことに対する寛容な雰囲気の変化を感じる場面も増えたと感じる方も少なくないのではないでしょう。しかし、それは新たに出現したものではなく、一人ひとりの奥底にずっと眠っていただけの普遍の文化の片鱗なのではないでしょうか。
文:杉山 美和
写真提供:株式会社虎の穴