ブランディングを超越した成功の謎。日本酒業界の異端児「土田酒造」のユニークなファン作りとEコマースを始めた意外な起源に迫る

土田酒造
1907年(明治40年)創業の『誉國光』という銘柄で知られる100年以上も続く老舗の酒蔵。現在は、群馬県利根郡川場村に工場「酒蔵」を構える。江戸時代の製法を貫き、米・米麹・水・菌のみの材料でその他の添加物を一切使用せず、完全無添加の生酛(きもと)づくりによる日本酒の醸造を行う。

ものづくりへの深い探求。誰でもできるは、誰かやる

日本酒界の異端とも言われる「土田酒造」に伺える今日をとても楽しみにしていました!まずは、お二人の業務内容について教えて頂きたいです!

私は土田酒造をより多くの方に知ってもらうために、造ったお酒をどのようにお客さまに伝えるかを考える販売企画を行っています。日本酒業界一筋で勤続24年になります。

営業推進部 部長 小澤さん

私は酒造りの責任者「杜氏(とうじ)」を務めています。現場責任者ではありますが、普段の業務はお客さまへの営業や、試飲会など外部との情報交換や勉強会への出席の機会も多いです。

醸造部 杜氏 星野さん

日本酒の種類も多く、1つ1つの銘柄が特徴的な土田酒造さん。銘柄の多さや新商品のアイディアから商品化までの流れをお伺いしたいです。

店舗など販売側からあがってくる購入されたお客さまからの声と、製造側の好奇心が合わさって新しいものが生まれます。

製造側の好奇心は市場の声を無視したマニアックな要望も多く「面白いから造ってみる」こともよくあります。造った後で在庫が余った時に反省することもあるんですけどね(笑)

「面白いから造った」で生まれた銘柄はどれですか?

研究醸造というシリーズです。このシリーズは製造側のエゴをこれでもかと押し付けた結果、お客さまが困ってしまうくらいの日本酒です。

お客さまが困るほどの日本酒ですか…!?

日本酒造りの自由研究のようなイメージで造っています。日本酒造りの過程で生まれる様々な仮説を1つずつの日本酒にテーマとして造っているのですが、造り手の私たちも「誰が買うんだろう」と言いながら造ってます(笑)

研究醸造 Data15の商品詳細ページ

商品詳細ページに「アミノ酸のうまみ爆弾」というキャッチーなコピーが記載されていますが、あまり日本酒では使われない言葉の羅列ですね。

日本酒はよくワインと比べられることが多いのですが、ワインにはない日本酒の良さがアミノ酸なんです。アミノ酸が日本酒の魅力なのであれば、その魅力を最大限際立たせてみたらどうかと社長からも提案をもらった結果、アミノ酸だけが突出して高い精米90パーセントを酵母無添加で製造した甘くない日本酒ができました。

一方、昨今の日本酒業界ではアミノ酸はできるだけ低く、甘みがあり香り高い酒が高い評価を得るトレンドがあります。しかし、それだけが日本酒ではないし、飲む人に日本酒は”そういうもの”という認知が広がるのももったいないと思っていました。

例えば、いちごは甘いイメージがありますが、甘くないからいちごではないとはならないですよね。酸っぱいいちごがあってもいいし、大きさや形も様々ないちごが実際はあります。

商品詳細ページの説明文からも熱い想いが伝わってくるようです…!文章は小澤さんが考えられているのでしょうか。

はい、土田酒造のお酒には全て、お酒を造るに至ったストーリーがあります。自社商品であれば1時間は語れるくらいの熱量を持って販売しているので、オンラインショップの商品説明も推敲はしているのですが、どうしても長くなってしまいますね。

日本酒製造の裏側の話はとても興味深いです…!商品ページの説明も詳細な部分まで書かれていますが、Youtube動画でも訴求されているところにかなりの熱量を感じます…!

土田酒造で製造している全てのお酒の造り方、なぜ造ったのかは自信を持って答えられます。

昨今の売れる日本酒のトレンドはもちろん、わかっています。設備投資を考慮しても日本酒が売れ、手元にお金をつくることがどれだけ大事で大変なことかも理解しているつもりです。

しかし、トレンドを追って売れる日本酒を造るのは誰かがやる。だから、わたしたちがあえて造る必要はないと思っています。

業界に一石を投じる!?『アミノ酸のうま味爆弾』研究醸造Data15 土田酒造 商品解説動画

トレンドを追うのではなく、土田酒造”流”をつくる。

Youtubeチャンネルを拝見していたのですが、登録者数1600人に対して動画の視聴回数が1400回を超えていますね…!土田酒造は銘柄にファンがついてるのではなく、土田酒造という酒蔵にファンが付いているように見受けられます。実際、中の人から見た実感はいかがでしょうか?

『誉国光』という地酒銘柄を取り扱っていた頃は、土田酒造という認知よりも『誉国光』の知名度のほうが高かったです。一方現在は、土田酒造が好きな方はわたしたちがどのような日本酒を発売しようが興味を持ってくれると思います。

土田酒造が造りたいお酒を造ることで、それを理解してくれるお客さまに適正な値段で買ってもらう。そして「造り手がいかに面白く、楽しく造ってもらうか」が大事だと思っています。

わたしたちが大手の酒蔵さんと同じ土俵で勝負しても価格で勝てないのは目に見えています。だから、お客さまの求める土田酒造”流”のお酒を造る方が造り手も楽しく造れるんです

まさに、ランチェスターの弱者の戦略ですね…!銘柄ではなく、土田酒造を全面に打ち出すことに舵を取るに至った経緯をお伺いしたいです!

土田酒造が「チャレンジングなことをやる酒蔵」として都会向けを意識している一方、『誉国光』は地元向けという大まかな住み分けがあります。

しかし、最初から狙って住み分けをしていたかと言われるとそうではありません。土田ブランドでチャレンジする銘柄を出していたら、それを宣伝する機会が多かったので結果的に棲み分けができているだけです。

既存の延長線を超えていくチャレンジは、言葉以上に難しいイメージです。土田酒造としてなぜそのチャレンジができたと振り返られますか。

『誉国光』で培ってきた技術があってこそ、新しい挑戦ができたと思っています。ちょうど星野が杜氏を任され、社長の土田とタッグを組んで行くタイミングでもあったので、造る人が変わればお酒も変わります。結果として、今の土田酒造としてのブランディングに繋がったと思います。

星野さんはどのように感じられますか?

「社長がクレイジー」という一言につきると思います(笑)普通は行かないような道に我先に行くような人なので、純粋にすごいなと思っています。

わたしたちが思わず「本当いいの?」と聞き返してしまうようなことでも、「人がやってることをやってもつまんない」と背中を押してくれるので、わたし達も全力でそれに返さないと失礼になると思うのでやりきれていると思います。その風土は酒造りの現場だけではなく、売店や商品企画など全社的に感じます。

土田酒造が「日本酒業界の異端」と言われる所以が少しわかった気がします!

他の酒蔵であれば、絶対に販売しないような日本酒も売ると社長が言うので、売る側も必死ですよ!(笑)

造る側も手探りのチャレンジなので、失敗も多いですよね(笑)

どのような失敗だったのですか…?

土田酒造は、生酛(きもと)という現存する酒造りの技法の中で最も伝統的な技術で日本酒を製造しています。通常は日本酒造りの土台となる酒母(しゅぼ)からお酒を搾る前のもろみの段階で乳酸菌が動いてしまうと、お酒が酸っぱくなってしまうので乳酸菌を動かさないように仕込むのが一般的なんです。つまり、日本酒製造において乳酸菌は大敵といっても過言ではない。

しかし、乳酸菌を動かしたお酒を製造、販売しているのは土田酒造ぐらいじゃないかなと。

あれ…?動かしてはいけない乳酸菌をあえて動かしてお酒を造るんですか?

意図的に動かして製造してはいないのですが、添加物を一切使わない昔ながらの手法だとどれだけ気をつけていても乳酸菌が動いてしまうことがあるんです。日本酒造りも自然を相手にしているのと一緒なので。だから、社長と相談してGOサインがでたらそのまま日本酒として販売しています。

乳酸菌が動いてしまうことを業界では「乳酸菌汚染」と呼ぶのですが、他の蔵であればすべての日本酒を破棄して、蔵の中を殺菌、消毒するレベルの大事件ですよ。江戸時代であれば責任者の杜氏は首を括るレベルです。

そこまで深刻とは…!土田酒造を語る上で、独特な酒造りの手法は避けて通れませんよね。無添加にこだわる独自製法で、珍しいお酒の造り方をされているとか。

社長が杜氏を務めていた当時から添加物に対する”なんとなく”の違和感を感じていました。かくいう私も自分で造る酒に添加物を入れる瞬間が感覚的に、酒造りの中で最も心地が悪い時間でした。

その造り方が一般的ではあるのですが、入れなくても造れるのであれば入れない方法で造ってみようと思い立ち、試行錯誤を重ねながら少しずつ添加物を排除していき今の造り方にたどり着きました。

「造り手が楽しく造れる」という土田酒造を象徴するようなエピソードですね!無添加を突き詰めていった結果が生酛(きもと)という技術だったということですね!

酒造りは属人的な部分がとても大きいのですが、生酛は蔵の技術としてマニュアル化することができるところもポイントです。専門的な話になるのですが日本酒市場でも全量を生酛で造っているお酒は珍しく、生酛という酒母の造り方も実は色々な変数があり、目には見えない微生物の世界は面白いです!!

星野さんが楽しんでいるのはとても伝わります(笑)

車やカメラも一緒だと思うのですが、どんな分野でも好きな人は自分で操作するマニュアルの方が楽しくなりませんか?生酛の製法もマニュアル感がすごく強いんです。

なるほど…わかりやすいッ!

完売するほどの人気銘柄は、実は”失敗作”だった!?

多くのチャレンジの裏には多くの失敗もあると思います。土田酒造では失敗を次に活かすためにどのようなアプローチをされるのでしょうか。

先程もお話しした「乳酸菌汚染」で大量の失敗作を造ってしまった時は、「イニシャルF」という失敗作のブランドにして発売しました。

イニシャルFの商品詳細ページ

えッ!?失敗作を発売するんですか…!?

失敗作ブランドは、造り手としては出したくなかったのが正直な気持ちでした。しかし、わたし達が失敗と思っている商品も世に出してみたら、不思議と売れるんですよ。

販売当初は酸味が強くて売れなかったのですが、時間の経過とともに熟成をして酸が丸くなってきたらなぜか売れ始めた出来事が大きな発見でした。

『イニシャルF』の「F」はFantasticの「F」なんですね!Fault(失敗)の「F」だと思いました(笑)

酒造りに失敗したことを腐造(ふぞう)と呼ぶのですが、その「F」とも言われます(笑)

乳酸菌汚染がでたら造り手として、全力で味の調整は行います。無添加縛りの中で、酸味が強かったら甘みを補いバランスを取りながら甘酸っぱい日本酒に仕上げて商品化をします。

一括りに酸味と言っても、酸味の質は異なります。尖った酸でも、ワインのような日本酒として商品化するためにあえて調整を加えない場合もあります。

失敗作を「失敗」と銘打つことで失敗ではなくしてしまう…。発想の転換がすごい…!

当時、約2万本の「イニシャルF」を「失敗しました」と堂々とラベリングして売る酒蔵は土田酒造ぐらいだと思います。だから、面白がってくれる方がわざわざ足を運んでくれる。

今まで出るはずのない失敗作が世に出たから、一周回って新しく感じられるのだと思います。今では、フレンチやイタリアンの料理人の方がペアリングに使ってくれるようになりました。

造り手として”失敗作”だと思っていたものが売れると分かったときはどのような感想を持たれましたか。

「こんな酒を造ってたらあの蔵は潰れる」とまで言われてもおかしくないほど、業界人であれば全員が100%破棄する失敗作の「イニシャルF」。

しかし、自分たちが勝手に失敗と思い込んでいただけで、買っていただけるお客さまがいる現実がとても不思議な感覚でした。自分がどれだけ業界に染まっていたのかを痛感したエピソードでした。

出る杭は打たれなくなるまで突き抜ける

「土田酒造」として認知が広がるきっかけはなんだったのでしょう。

麹米を日本酒の限界値99%まで使用した『Tsuchida99』という商品が、作家さんの目に止まり全国の食と暮らしを豊かにするメディア「dancyu」に取り上げて頂いたのがきっかけです。

Tsuchida99の商品詳細ページ

今までの取り組みがメディア露出に繋がり、「土田酒造」の認知拡大に寄与したということですね!

そうですね。メディア露出でSNSのフォロワー数も一気に増えました。最初は、奇抜なことやってる変な蔵ぐらいの認識しかされていなかったのですが、やっと土田酒造の取り組みを理解してくれる人が増えてきた実感はありましたね

日本酒など「文化」を司る業界ならではの難しさの中で、風向きが変わった感覚はございますか。

日本酒業界全体が変わってきている前提の元、街の酒屋も今までの売り方では生き残れないという自覚が強まってきています。だから、珍しい日本酒を全国から集めて他店との差別化を図るなど新しい取り組みを始める酒屋も増え、うちにお声がけ頂く機会も増えました。

土田酒造の取り組みは業界的には異常だと思います。だから、土田酒造という名前が名指しで語られることが多いのだと思います。

面白い酒蔵=土田酒造の第一想起ができているのはブランドとしてはとても強いですね!また、日本酒業界にとどまらず、様々な業界に認知は波及していますよね。先日は「UNITED ARROWS」とのコラボや、シン仮面ライダーのオフィシャル日本酒など、ゲーミング日本酒のクラウドファンディングは3時間で目標額100万円達成と話題になりました。

ありがたいことに最近はコラボ醸造も多くやらせていただいています。しかし、お取組みの全てはコラボ先からお声がけを頂いています。

わたし達の取り組みを発信し続けた結果、業界を超えた様々な所からお声がけいただける機会が増えたのはよかったです。最初は風当たりが強かったこともありましたが、100人いれば1人は面白いと思ってくれる人はいるもんですね!

広報の小澤さんは周囲からの認知の変化を最も体感されているのではないでしょうか。

そうですね。地酒の『誉国光』だけを販売していた当時は卸先に頭を下げて酒を置いてもらい、棚を増やしていく営業がメインでした。

それが現在は関係性が変わり、酒屋とも対等にお付き合いができるようになりました。だから、無理に売り込むこともないし、酒屋からお声がけを頂く機会も増えました。

また、メディアへの露出が増えたことでゲーミング日本酒のように「お酒を造ってほしい」という依頼も増えました。その結果、わたしたちだけの発信だけではなく、ファンや卸し先の酒屋が土田酒造の酒を宣伝してくれているようなサイクルが生まれています

オンラインショップのきっかけは化粧品販売…!?

土田酒造はオンラインショップもやられていますよね。製造元の酒蔵自らオンラインショップをやられていることに目新しさを感じていました。卸し先との関係性の変化が影響しているのでしょうか。

いえ、オンラインショップは10数年前からやっています。しかし、オンラインショップを構えた最初のきっかけは酒ではなく化粧品でした。

土田酒造で製造、販売しているお酒の化粧品を店舗で購入されたお客さまのリピート購入のご要望を頂いていたのですが、オンラインショップを持っていなかった当時は、ハガキで注文する仕組みでした。

その後のインターネットの普及で、化粧品をリピート購入するお客さまに対応するためにオンラインショップを始めました。

なるほど…!オンラインショップのきっかけがお酒を売るためではなく、化粧品販売だったのはユニークですね。

卸し先との関係性があるので表立って直販をしているということは言いづらいですね。見方によっては卸し先の売上げを奪っているようにも見えなくない。だからオンラインショップは、地元ではなく県外から日帰りツアーで訪れていただいた方へお酒に触れてもらう入り口としての位置づけで運営しています

そのような棲み分けがあったとは…!

実は観光で土田酒造へ来られる方は、普段お酒を飲まれていない方が多いです。普段はお酒飲まない方でも飲めるお酒や、ご主人の晩酌のお土産にお酒を求められる方が多いですね。

だから、普段はお酒を飲まれない方向けに、アルコール度数の低いお酒や、リキュールなどでお酒に触れ合ってもらう場所になればいいと思っています。それで気に入っていただけたら、オンラインショップや地元の酒屋で買ってもらえばいいかなと。

普段お酒を飲んでいない方が、観光ツアーでお酒に触れるきっかけになっているというのは発見です…!Twitterで土田酒造を検索すると、日本酒はもちろんですが化粧品商品「こうじの恵」の口コミも見かけます。

化粧品をリピートで購入していただいているお客さまはずっと使っていただいていますね!

日本酒の化粧品を販売している企業さんも今でこそ増えましたが、販売当時は珍しかったのではないですか?

そうですね。販売当初はお酒そのものを「肌に塗る用の美容酒」として販売していました。化粧水代わりに使って頂く商品が当時はとても人気でリピート購入が多かったです。

市場のニーズを感じたので本格的に化粧品として改良して「こうじの恵」という基礎化粧品シリーズを作りました。

「こうじの恵」トライアルセットの商品詳細ページ

オンラインショップの売上は化粧品とお酒とでどのくらいの割合でしょうか?

1:9でお酒のほうが圧倒的に多いです。しかし、日本酒1本柱だけでは厳しい場面もあるので、それをカバーするためにも化粧品など新しい商品も取り扱っていかなければいけないと思っています。

オンラインショップと店舗で、売れ筋のお酒の違いはありますか。

オンラインショップを始めた当初は、店舗で試飲して気に入っていただけたお酒をオンラインでお買い求め頂くことが多く、店舗とオンラインショップとで売れ筋の商品に違いはありませんでした。

しかし、土田酒造の認知が広がってからは、オンラインショップではマニアックなお酒やこだわったお酒がよく売れるようになりました。その結果、店舗とオンラインショップの売れ筋の商品は真逆の現象が起きています

真逆というと…?

店舗ではライトなお酒がよく売れるんです。一方、オンラインショップではニッチでマニアックな商品がよく売れます。だから、メルマガ会員には杜氏のテイスティングコメントや、おつまみとのペアリングでの晩酌の様子などマニアック心くすぐるような訴求をしたりしています。

売れ筋商品からメルマガ施策への反映の導線が素晴らしいですね…!

メルマガでコメントを求められる場合は会社ではなく、個人の意見として使ってほしいと伝えています。会社としてはお燗をお勧めしてるけど、個人的には常温で飲むことも多く、それはそれで美味いんだよとか、ペアリングではこれが合うとか。

そのほうが星野さんの人柄が垣間見えるので、お客さんとしては、むしろ嬉しいのではないかとも思いました!

代表の土田や、杜氏の星野を筆頭に、メルマガ1つにも必ず「誰の言葉なのか」がわかるように名前を出してることが特徴の1つです。メルマガや動画でも文章に魂を込めているので、必ず最後に自分の名前を書いてもらうようにしています。

Eコマースでの購買体験で意識されていることはありますか?

サイト運営を全て自社で行うことですね。商品企画からバナー作成まで、自社で内製化しています。だから、専門的にやられている方から見ると手作り感を感じるところもサイトにはあると思います。しかし、素人感が多少あってもいいかなと思っています

Eコマースの運営は通信販売の担当が担当しているのですが、お酒のことは杜氏に監修を依頼したり会社全体で協力して運営しています。

自由な酒造りだからこそ、飲む人も自由に日本酒を楽しんでもらいたい

最後に、土田酒造の展望をお伺いしたいです…!

既に始めているのですが、将来は米作りもしていきたいです。お酒造りに携わる者として米のことを知っていかないといけない使命感をずっと持っていたので。

米の育ち方もお酒の味に影響すると考えていて肥料を使わない自然栽培で育てた米のほうが、無添加の造りのお酒とも相性いいと思っているので、酒造りをこれからも突き詰めていきたいです。

お米作りから自社で一貫して行うようになるのですね…!

全て自社で賄うのは現実的に厳しいと思っています。地元の農家さんにご協力頂きながら地場産業として循環する仕組み作りができたら理想ですね。

ありがとうございます!小澤さんはいかがでしょうか。

若い世代を中心に日本酒は小難しいイメージを持たれている方も多いと思います。しかし、土田酒造は自由な酒造りが売りなので、飲む人にも自由に日本酒を楽しんでもらいたいというのを伝えたいです。

例えば、日本酒は冷蔵庫で冷やして、お刺身と食べるイメージが強いと思うんです。しかし和食だけではなく、エスニック料理や洋食とペアリングしても良い。牛乳やジュースと割って飲んでも、氷を入れてもいいんです。様々な場面で日本酒に触れてもらう機会が増えたら嬉しいですね。

日本酒は日本文化の1つでもあるので、どんどん盛り上がっていきたいですよね!

日本文化の側面がある以上、国からの後押しがある業界でもある。しかし、国からの支援があるということは売上が落ちてるという危機感の現れだと思っています。日本酒に限らず、お酒を飲む人が減っているので、日本酒業界として盛り上げていかないといけない危機感は常に持っています。

だから、どのような形でも良いので日本酒に触れる入口に土田酒造がなれたら嬉しいですね!

編集後記

なぜ、土田酒造は銘柄ではなく、酒蔵にファンが募るのか。その疑問を解消すべく向かった取材は、土田酒造ができることをなぜ周囲はできないのかという疑問に変わった。

高度経済成長以降、”良い”ものを作っても必ずしも売れるとは限らない現代。「やりたいことをやる」というシンプルにも聞こえる事柄を突き通すことで構築される土田酒造ブランド。しかし、ブランドを形成している当の本人はなにも意識してないというから驚き。だからこそ、行動にブレがない一貫した芯の強さと、己を飽きさせない絶え間ない好奇心を継続できる仕組みが垣間見えたインタビューでした。

「外からどう見られているのかを意識していないのでブランディングはよくわからないけど、美味しい酒を作りたいんですよね?」と語る杜氏の星野さん。

土田酒造の元には生酛製法を学ぶべく同業者への研修依頼も絶えないと聞く。そして、その依頼は全て受けて、製法やデータはもちろん、失敗談も全て開示しているという。

その理由をお伺いしたところ、数字通りに造れば酒はできても、水や菌など造る場所に依存する酒作りは同じ味にはならないと語る星野さんと小澤さんは日本酒造り素人でも本当に好きなんだということが伝わる感覚に痺れました。

日本酒好きの一人として、とても興味深いお話をお伺いできました!貴重なお時間ありがとうございました!!!

文:杉山 美和
写真:杉山 美和/齋藤 彩可

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