ホームページもカートもない!口コミのみで現役ライダーが作る餃子が年間数万個売れる大ヒットの理由とは?

渡辺 学さん
1997年にプロのモトクロス選手としてデビュー。2012年モトクロス選手を引退した後はエンデューロレースに転向し、歴代タイとなる5回のチャンピオンを獲得。現在も競技活動を続けながら、若手ライダーの指導やトレーニングに力を注ぐ傍ら、マナブ餃子として通販餃子の事業を開始。バイク業界では「食べるとタイムが1秒縮む」と知る人ぞ知る餃子と言われている。

二足の草鞋で始めた餃子。バイクの繋がりで拡大した販路

本日は、モトクロス選手が作る知る人ぞ知る「マナブ餃子」についてお伺いさせていただきたく、楽しみにして来ました……!茨城県土浦市の店舗と通販でしか購入できないとお伺いしました!

基本は私と直接連絡がとれる手段で注文を受け付けています。通販以外にも、土浦市周辺のラーメン屋さんや全国各地の居酒屋にも卸しており、「マナブ餃子」として売り出しているお店もあれば、ただの「餃子」として販売されているところなど様々ですね。

卸しもやっていらっしゃるのは、存じ上げなかったです…!どのように販路を拡大されていったのでしょう。

全てバイクの繋がりですね。マナブ餃子を始めた当初は、現役モトクロス選手が餃子屋になることに懐疑的な方が多かったんです。今まで料理もしたことのない私を知っている人からしたら、そう思われるのも当たり前ですよね(笑)

だから、モトクロスライダー時代にお世話になった方やスポンサーさんに餃子屋になる挨拶回りも兼ねて、形が悪いだけで味は変わらない練習で握った餃子を配って回ったんです。

そうしたら本格的に餃子を売るタイミングで、ライダーの友人がラーメン屋や居酒屋にマナブ餃子を紹介してくれて、業務販売の販路が拡大していきました。現在では毎月5000個ぐらいの餃子を卸しています。

もしかしたら、知らない間に「マナブ餃子」を食べているかもしれないんですね。今まで料理もされたことがないとおっしゃっていましたが、なぜ餃子屋さんを始めようと…?

ライダー引退後の進路は、業界繋がりで車やバイク屋で整備関係に就職する人が多いんです。私自身も例外ではなく、ライダーを辞めてから半年程は車屋で働いていました。

その頃、元々中華の料理人だった父から送ってもらった餃子で、選手時代に友人と餃子パーティーをしていたことを思い出したんです。私は小さい頃から当たり前に食べていた餃子ですが、餃子パーティーに参加した友人から、個別に餃子を送ってほしいという要望をもらっていたんです。

もし美味しいと言ってもらえて、ニーズがあるのであれば、商売になるかはわからないけど冷凍で全国配送もできる餃子屋をやってみようと始めたのがきっかけです。

餃子屋さんになろうと決めてから、どのように開業を進めていかれたのでしょうか。

難題は料理のできない私が餃子を作ることができるかということでした。何十年も料理人をやってきた父と何十年もバイクに乗ってきた私ではスタート地点が違いすぎる。

職人気質の父の作る餃子はすべての分量が感覚なんです。料理をしていない人なら共感してくれると思うのですが、レシピに書いてある「少々」とか「一つまみ」の記載があると「何グラム?」と困ることがありませんか。

だから、父が餃子を作る時のキャベツなどの材料の分量はもちろん、手に取った調味料を毎日グラム単位で測ってデータを取り続けたんです。

グラム単位で毎日データ収集…!?どのくらいの期間、試行錯誤されていたのでしょうか。

半年間ほど父の感覚をデータとして数値化し、一緒に試行錯誤をしていきました。1回で約600個の餃子を作るのですが、にんにく1グラム単位で調整するのですが、餃子600個に対しての1グラムなので、1つ当たりの餃子でみたら誤差ですよね(笑)

想像以上の緻密な作業……!

餃子に使うキャベツも季節ごとに変わる味に応じて分量を変えています。同じキャベツを仕入れていても、雨上がりに収穫されたキャベツと晴れの日のキャベツとでは水分を含む重さが異なります。そのため、時期によって都度分量を変えてデータに基づいて毎回同じ味になるように調整しています。

本当に欲しいものであれば、送料は課題にならない

多くの通販事業者にとって大きな課題の1つが「送料」だと思います。全国から注文が入るマナブ餃子ではどのように設定されていますか。

マナブ餃子の送料は注文個数に応じて北海道も沖縄も全国一律の送料でやります!とこの前言っちゃったんですよね(笑)

言っちゃった…って(笑)

正直、配送業者さんにお支払いしている送料は関東でも、沖縄でも、全てバラバラの金額なんです。以前、沖縄に300個納品した際は、送料だけで3,000円程でした。1個50円の餃子なので、送料で赤字なんですよね(笑)

赤字覚悟で、全国一律送料にしたのはなぜでしょう…?

シンプルにお客さんも私自身もわかりやすいからです。Facebookで送料の投稿をした後、沖縄の方から「沖縄も一律料金ですか?」とコメントを頂いたのですが、離島のお客さんは送料をネックに感じないのかもしれないですね。実際、沖縄や北海道からの注文は多いので。

しかし、沖縄から300個の餃子を注文すると餃子の金額は2,000円程でも、送料は3,700円かかるので1,000円以上は赤字なんです。ただ、マナブ餃子を知ってわざわざ注文してくれているし、毎日沖縄に納品をしないといけないわけではないので、餃子換算10個分ぐらいの損失ならまあいいかなと(笑)

餃子換算…(笑)トータルの売上で黒字になれば良いですよね!運送会社との法人契約で割引があるとか…?

「法人契約しているから送料安くなるでしょ」と思われることもあるのですが、正直数百単位の個数で運送会社との法人契約は結べないんですよ。

現在、佐川急便とヤマト運輸を契約していますが、昨今の送料値上げの波を受けてどちらも送料が大きく変わることはないです。だから、代引きを希望されるお客さんには代引き手数料が安い運送会社を選んだり、即日で送ってほしいというお客さんには営業所がすぐそこにあるヤマト運輸を選ぶなどの使い分けをしています。

特別に厨房にお邪魔させて頂きました

ちなみに、沖縄の300個納品は、お一人の注文……の数ではないですよね?

お一人ですよ!数百単位での注文は当たり前にあります。多い場合は1回で1,000個の注文もありました!

年末年始やお歳暮のシーズンが繁忙期なのですが、1人の注文で10箇所に100個ずつ郵送で合計1,000個のご注文を頂くこともあるので、年末は1万個以上の餃子をひたすらに作り続けています。

想像していた注文数よりも桁が2つほど多かったです…!

店舗での販売は近所の人が「今日食べる分」だけを買って帰るので、売れても1日に100個ほどです。

一方、発送の注文は1つから可能ですが、少なくとも50個以上で注文される方が多いです。20個入り1,000円分を1,200円の送料はどうしても割高になってしまうので。しかし、送料が多少割高になっても「家の冷凍庫に入らない」と奥さんに怒られたから30個単位で注文してくださる常連さんもいらっしゃいます。

店前の看板。店舗ではお持ち帰りのみ可能。

それこそ、本当のファンという感じがしますね…!

ありがたいことに。餃子は自分の味を作ることができるので、新車のバイクや車を売るのとは一味違いますよね。だからこそ、味にハマってくれたお客さんは買い続けてくれるし、ハマらなければ買ってくれないという構図も単純明快です。味があるものは、そこでしか食べれないし、欲しいと思ってくれたら送料がかかっても買ってくれる人がいるんです。
一方、店舗販売においては地域商売なので商圏が広がらない側面はあるのですが、餃子であれば冷凍で発送が可能なので、地域商売を超えた商いができるのです。

1日100個売れても売上4,000円の創業期から現在まで

現役ライダーでもある渡辺さんが餃子屋さんとの二足の草鞋をどのように両立されているのかが気になります…!1週間の動きを伺っても…?

土日は試合で郊外に出ているので、平日に餃子を仕込むルーティンが出来ています。餃子を作る際も、カットした材料をその日のうちには握らないんです。カットした材料は一晩寝かせて、握った餃子もなじませるためにもう一晩寝かせているので1つの餃子を作るのに合計3日かかります。

だから、前日に仕込んだ材料を次の日に握って、冷凍庫に保管します。その間に、次の日に握る餃子の種を仕込むの繰り返しですね。

バイクのレースで週末の帰りが遅くなった時は食材を寝かすことが出来ないので、月曜日は食材を寝かさなくてもいい焼売を作っています。

なるほど!そこで焼売が登場するのですね!マナブ餃子は餃子はもちろん、焼売が美味しいという口コミが気になっていました。

焼売だけを注文される方もいらっしゃいますよ!現状は、餃子の注文に追加で焼売も注文される方が多く、焼売の注文は全体の注文の1割ほどです。だから、1週間のサイクルの隙間を見つけて週に1回焼売を作るだけで現状の注文量はまかなえています。

ふるまっていただいた焼売。今までの焼売の概念が変わった。

マナブ餃子は創業約10年ですよね…!創業当初から今の仕込みのサイクルを確立されていたわけではないですよね。

開業当初は売れても1日100個ぐらいだったので今ほど餃子は作っていなかったです。加えて、10年前は餃子1個40円で売っていたので、100個売れても4,000円の売上しか立っていなかった。しかし、本業のバイクがあったのですぐに辞める必要もなかったんですよね。

キャリアチェンジのタイミングでもあったわけですね…!

そうですね。モトクロスの選手を引退し、エンデューロ(※)に転向したタイミングで、練習時間の合間に餃子を作っていました。

だから、速く握って数をこなすというよりは、丁寧にゆっくり握りながら1週間に1000個つくる練習量でした。今では、ありがたいことに1日1,000〜2,000個握って発送しないと間に合わないくらいまで注文数が増えました。

(※)エンデューロとは…全長数十㎞にも及ぶ自然の地形を生かしたダートコースを舞台に、ライダーの技術と体力と気力を競う種目

開業当初は1日100個売れる程というお話でしたが、1日1,000個作るに至るまでに注文数が大幅に増えたターニングポイントはいつ頃だったのでしょう?

一気に注文数が増えたというよりは、年末やお歳暮、お中元の注文数が年々増えていき今につながっています。

お中元やお歳暮は毎年同じ人が同じところに送りますよね。今となっては、どのような繋がりでマナブ餃子を知ってくれているのかを把握できないくらいまで広がっているのですが、人からの紹介でマナブ餃子を知ってくれた繋がりで広がっていると感じています。

最近はInstagramから新規で注文を頂く機会も増えましたが、基本は知り合い経由でショートメールや電話から注文をもらいます

なるほど…!数珠つなぎで増えているのですね。

お歳暮の注文は11月頃に頂くのですが、12月にも同じ住所から注文が入っていることがあったんです。

おそらく、お歳暮をきっかけにマナブ餃子を知って頂きた方が個人で注文して頂いたのですが、12月にお歳暮で違う人からも餃子が届くので注文が被ってしまったんですよ。だから、電話で「もうすぐ、お歳暮で餃子届きそうですけど注文どうしますか?」と連絡を入れて個人の注文分を早めに送り、お歳暮の時期とずらしたり、発送のスケジュールを組んだりもしましたね(笑)

ほっこりエピソードですね(笑)

利便性による見えない機会損失も。あえてアナログに注文を受け続ける理由

ここまでお話を伺ってきて、渡辺さんのおおらかさが餃子の売り方から顧客対応に至るまで様々なカタチで垣間見えます。渡辺さんの現在のマインドやスタンスはいつ頃から持たれているのでしょうか。

バイクのレースはガツガツしているんですが、普段はガツガツしてる性格ではないんですよ。

今でこそ自分と直接面識のない方が購入していただく場面が増えましたが、もともとは知り合いの間で始まっているのが大きいかもしれないです。

結局は、どこかで知り合いに繋がってる人なんだろうなと。だから、お客さんと一緒に楽しんでる感じが強いですね。

Facebookのメッセンジャーやショートメールで注文を受付けているのも、注文をしているよりは身内に連絡しているのに近い感覚がありますよね。

お客さんの立場だと、ホームページを作って、クレジット払いに対応したり、問い合わせフォームから注文できる方が楽だし、注文数も増えると思うんです。
ただ、それが簡単っていう人と同じぐらい、めんどくさいと感じる人もいるんですよね。そういう人はショートメールで「いつも通り送って」と注文されたりもします。

行きつけのお店の「いつもの」というやつですね…!おっしゃる通り、利便性と引き換えに情報を抜かれることへ不安を感じる層も忘れてはいけないですよね。

難しいところですよね。クレジット払いにしたらお客さんの決済手数料の負担も増えるので、それなら代引きの方が安いのかなとも思います。

現状は電話で注文をもらうことも多く、1度電話でご注文いただいたお客さんの電話番号を「名前と住所」で登録するようにしています。そうすることで、電話を頂いた時点で携帯の画面に名前と住所が表示されるので、注文の際にお客さんから住所を言われる前に「○○県○○市に送りますね」とその場で伝えることができるんです。

なるほど!郵便番号を入力したら番地まで自動入力できるフォーム機能はよく見かけますが、そもそも住所入力をする手間を感じる時があります。前回の住所に送る場合も会員登録をしないといけなかったり…無意識的に面倒を感じている場面が多いかもしれないと今のお話で気づきました!

その場で住所を伝える方がお客さんも常連感に加えて、覚えててくれた嬉しさがあると思うんですよ。

日頃からAmazonに慣れすぎてしまい、決済もすべてクレジット払いのみだったので、フォーム入力による利便性に慣れすぎてしまっていたんだなと自戒しています…。

びっくりすると思われますが、ある日突然お客さんから「お金振り込んだから」とだけ連絡を頂くこともあるんです。常連さんなので、振り込んだ金額を確認して、送料を差し引いた金額分の餃子を送るんですよ。

ある時は、知らない番号から電話があり餃子の注文かと思ったら開口一番で「そちらの餃子は美味しいのか」と言われたお客さんもいました(笑)私は「美味しいと思って作ってるんですけど、好みがあるので分かりません」と伝えたんですが、10年間も商売を続けていると色々なお客さんがいらっしゃいますよ(笑)

人情味あふれるエピソードですね!オペレーションの便利さが、冷たさを感じる場面もあるというのは個人的な気づきの1つです…!

それは間違いないないですね。しかし、属人的だからこそ、発送不備などヒヤッとすることもありますよ。

以前、バイクの大会で地方に出ていた時にお客さんから「餃子はいつ届くんだ!」とお怒りのLINEがきたことがあったんです。その連絡を頂いた時、ちょうど大会中だったのですが、急いで送り状の番号を確認して発送会社に問い合わせをしました。

それは気が気ではないですね…!

確認したら該当の餃子は発送済みになってるんです。発送済みだと私からはそれ以上調べる術がないんです。しかし、お客さんから運送会社に問い合わせをするのも時間がかかると思ったので「発送済みになっているのですが、まだ届いていないのであれば再送しましょうか」とお客さんに電話をしました。

発送ミスではないのに、もう1つ同じ物を送ったんですか?

どこか別のところに届けられてしまった可能性もあるので、お客さんから改めて運送会社に問い合わせするよりも再送した方が早く手元に届けられるかなと。結局、お客さんが自分で調べてみると言って再送はしなかったのです。

そのお客さんのその後が気になります…!

後日、ご連絡を頂いて「もう食べてなくなってただけだった」と謝られました。商品自体はちゃんと届いていたのですが、注文したお客さんが食べる前に奥さんとお子さんが全部食べちゃったらしいんですよ(笑)

奥さんとお子さんに食べられて、胃袋に届かなかった餃子

オチが最高すぎます…(笑)家には届いたけど、お父さんの胃袋までは届かなかったんですね。

そうなんです(笑)人間である以上、ヒューマンエラーのトラブルが起きてしまうのはしょうがないことだと思うんです。しかし、その中でもなるべく人為的ミスをなくせるようにミスが起きない工夫をしたいと考えています。

例えば、自分で送り状を書いたタイミングで、発送前でもお客さんには問い合わせ番号を連絡するようにしています。そうすると、お客さん自身で荷物の追跡ができるようになるのと同時に、問い合わせ番号が来ていないことで私が注文の連絡を忘れている可能性にお客さん側でも気づくことができるんです。

週末は大会で遠征していたり毎日、バタバタしているのでいまだに迷惑をかけてしまうこともありますが、お客さんにも支えられながら何とかやっています。

口コミのみでどうして人気餃子に…?そこには秀逸なPR施策が!

過去にメディアに取り上げられたことはなく、現在の認知は口コミのみで広がっていったものなのでしょうか…?

メディアで取り上げられたことはないです。週末のエンデューロの大会会場で私が餃子を焼いて配っていたりするぐらいです。

ご自身でレースも出て、餃子も焼いているんですか!?

主催者から呼ばれている大会は表彰式後に急いで200個ぐらい焼いて会場のお客さんに配ることもあります。みんなが楽しんでくれればいいかなという想いで。

なんと……無料で配っているんですか?

はい、無料ですね。結局、美味しいと思った人が次の注文をしてくれるので200個の餃子を無料で配っても、レース終わりには2,000個の新規の注文になっているんですよ。

もちろん、毎回レース会場で焼いて配っているわけではないです。出店料を払う必要のある大会もあるのですが、出店料まで払って餃子を焼こうとは思っていないです。それは、他に出店している店舗さんにも失礼だし、仮に出店料5万円の場合、200個の餃子を無料で配ると赤字が確定するので。

誰も嫌な思いをしない構造が秀逸すぎます…!

年間約4回軽井沢でレースがあるのですが、レース前の夜には、ビールサーバーを借りて餃子と一緒にビールも無料で配っています。

前夜祭ですね…!

モトクロスの大会では一般的にホテルに泊まることが多いのですが、エンデューロは大会前夜に皆で宴会をやることが多く、大会会場にハイエースできてキャンプをしたり、車中泊をしながら過ごすのが一般的なんです。

というのも、大会会場が長野県や新潟県のスキー場なので、近くに食べる場所がないことも多いんです。だから、みんなで夜に集まってバーベキューをやる時に餃子を買ってくれるんですよ。

選手が500〜700人いると、選手の奥さんやお子さん含めて1,000人規模のレースになるので、多い時は約1,000個の餃子を車の冷凍庫に詰んで持っていきます。

1,000個の餃子を積む車の前で、お子さんと一緒に。

そんなコミュニティがあるんですね…存じ上げなかったです!そう考えると、餃子ってなかなか秀逸ですよね。おそらくチャーハンやラーメンではここまでにはならなかったのかなと思ったり…!

そうですね、ラーメンの場合は冷凍で持っていくにもかさばるし、その場で調理する必要が出てきます。子供が2人の時は私が餃子を焼いている間に奥さんが面倒をみるなど役割分担をしながら、餃子をその場で焼いていた頃もありました。実際、焼いた方がお客さんは集まりやすいし、1,000個の餃子がすぐにはけてしまうほど好評だったんです。

しかし、3人目が生まれて、犬も3匹飼っているので、奥さんと2人で手分けして子どもを見ながら餃子を焼くのは流石に無理がでてきました。最近では、冷凍のまま売って、お客さん自身で焼いてもらうようにしています。

同封されている焼き方の指南書

餃子を注文すると、焼き方を丁寧に説明している紙も同封されていますよね!

料理のできない私が焼くことができれば、誰でも美味しく焼けるのではないかという想いから作りました。「そんなこと、言われずともわかるよ」と思う人もいるかもしれなのですが、私が餃子を焼く時に不安に思ったことを書きとめた内容が誰かの役に立てば良いなと思っています。

「マナブ餃子」が値上げをしない理由とは

今後の拡販やEコマースの展開についてはどのようにお考えですか。

他のEコマースのショップ展開は今後も考えていないです。もちろん、多くの方に手に取っていただきやすいように、今よりも簡単に買える仕組みという点では検討の余地は十分にあると考えています。

しかし、お金をかけてEコマースのショップに新規出店をするよりは全国発送している業務販売を優先的に届けたいと考えています。マナブ餃子を卸している店舗は餃子がなくなると商売ができなくなってしまいます。

だから、在庫切れの連絡を頂いたらすぐに配達できるように在庫も常備しています。私が地方の大会に行き、すぐに対応することが難しい時は、事前に在庫切れにならないようにあらかじめ連絡を取るなど店舗との連携を図るなどの工夫はしています。

「多くの人に手に取ってもらう」ことが目的であれば、そのための手段は色々ありますよね。

そうですね。Eコマースへの出店も餃子の利益率が高ければ選択肢としては考えてもよいと思います。システムを導入して便利にすることも、利益を確保することも両方大事です。

しかし、スーパーで200円10個入りの餃子が売ってる時代で、わざわざマナブ餃子を買ってくれる人に対して、餃子を100円に値上げをして大手Eコマースに出店することは手段と目的が逆転してしまうと感じるので、そうはしたくない想いが強いですね。

システム代だけではなく、原材料の小麦の高騰もあり利益率的に値上げは不可避なのでは?とも思うのですが、いかがでしょうか。

原材料だけではなく、運送会社の送料も値上げをすると言われています。しかし、送料一律を宣言してしまったこともあり、正直あまり儲かってはいないです(笑)

おそらく、リピートのお客さんは値上げを伝えても受け入れてはくれると思うんです。しかし、5年前に親父の代から40円で販売していた餃子を50円に値上げしました。10円の値上げと思うかもしれないですが、個人的に相当大きい変化だったんですよね。

巷には、1個数百円の餃子もたくさんあります。しかし、自分の中での味と価格のバランスが難しいところですよね。値上げするのは簡単だし、値上げにより100件の注文が50件になっても売上は伸びると思います。しかし、値上げにはホームページを作るなどのきっかけと理由が必要と考えています。

加えて現在、餃子だけで生計を立てているわけではなく、バイクが仕事になっているのですぐすぐ値上げをしなくても何とか成り立っています。

どこまでも真摯な姿勢に感動を覚えます!今後のマナブ餃子の展望を教えてください!

現状は1つ1つ手作りで作っている餃子も機械を導入するなどして将来的には数を作れるようにしていきたいと思っています。そうすることで、1つの注文で1,000個単位が動く業務販売も広めて、飲食店さんの利益も増える仕組み作りも考えています。また、個人のお客さんに対しても1つ当たりの単価を抑えられる可能性もあるので、味と料金の良い塩梅のバランスを模索していきたいですね!

編集後記

「ホームページを持たず、注文はMessengerまたは電話のみのとても美味しいと噂の餃子通販」という謎だらけだった今回の取材。店主の渡辺さんとそのご家族に出迎えていただいた取材は終始、おおらかな渡辺さんの性格を体現したようなほのぼのとした笑いの絶えない取材でした。

取材を通じて、渡辺さんの中に当たり前にあるGIVEの精神はどこからくるのか。渡辺さんは、モトクロス選手としてバイクのタイヤからユニフォームまでスポンサーから与えてもらう恵まれた環境だったと語る。

恵まれた環境の中でも、渡辺さんはスポンサー企業との関係を一方的なサポートの享受とは考えていなかった。スポンサー企業の売上げに繋げられるように自らで出来ることはやるという考えのもと、スポンサー企業の商品在庫を実費で買い取り代理販売もされているというから驚き。スポンサー企業からの協賛で掲載されたロゴを見て、誰がどこで買ってくれるかと考えたと語る渡辺さん。

ライダーとしての人生が中心にあるからこそ、当たり前に与えられている環境におごらず、自らGIVEをする渡辺さんのリターン思考の強さは、渡辺さんご自身がそれをGIVEの精神と考えておらず、無意識下で「当たり前」に行われていること。それこそが、最大の強みだと私は感じました。

プロダクトとして餃子が美味しいことはもちろん、渡辺さんの人望が消費者として「広めたくなる」ニーズをくすぐられるのではないでしょうか。

素敵なインタビューの機会をありがとうございました!!!

文:杉山 美和
写真:杉山 美和/齋藤 彩可

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