【タマチャンショップ × ミウラタクヤ商店 対談レポート】大手ECと個人商店EC、異なるビジネスモデルから学ぶショップ運営の秘訣とは?

タマチャンショップ キャプテン兼代表取締役 田中 耕太郎さん

椎茸農家からスタートし、今では雑穀やナッツ、スーパーフード、お茶、そしてオリジナルの健康食品やコスメなど、「食」に関するさまざまな商品を扱っており、2024年に楽天出店20年目を迎える。これまで楽天ショップ・オブ・ザ・イヤー7度受賞、EC-JAPAN大賞、グルメ大賞、健康・ダイエット大賞など数々の賞を受賞。タマチャンショップがお届けしたいのは、『しあわせ食』。安心・安全で、おいしく栄養いっぱいの「食」を楽しみながら、みんなが笑顔になれる「しあわせ食」をテーマに、地元・九州はもちろん、全国各地から上質な食材を厳選し、独自に商品開発も行ない、日本や海外への挑戦をやめないベンチャー企業。


ミウラタクヤ商店 三浦 卓也さん

「社会の脂肪を減らす」をコンセプトにダイエット食品店「ミウラタクヤ商店」を運営。バターコーヒーや断食プロテインなどユニークな健康食品を販売。「痩せたい人にダイエットの成功を届ける」を信念に、商品を売るだけでなくお客様のダイエットの成果を出すことを支援する「日本一誠実な健康食品屋」を目指し、月商の70%はリピーター。 自身のshopifyを活用し、売上を急成長させた経験から日本唯一のshopify教育パートナーとして活動(現在は教育パートナー制度を廃止)。shopifyを活用した事業成長支援「EC家庭教師」を提供しながら、ひとりEC運営者が集まるオンラインサロン「ひとりEC研究所」を運営。

2024年7月12日(金)に宮崎県にてECマスターズクラブ主催の「地方発ブランドとスモールビジネスの成長を支える!今必要なEC戦略とブランディング手法」のイベントが開催されました。

「地方だからこそ活かせる!スモールビジネス成功のための秘訣とは?」をテーマに、楽天ショップ・オブ・ザ・イヤーを始め数々の賞を受賞する「タマチャンショップ」キャプテンの田中 耕太郎氏と、ユニークなダイエット食品で話題の「ミウラタクヤ商店」店長の三浦 卓也氏の2名をゲストスピーカーとしてお迎えしました。

地方企業やスモールビジネスのために、地方ならではの悩みや課題から、自社の強みをどのように事業成長につなげていくかまで赤裸々に行われた今回のセッション。地方発の中小企業やスタートアップの方はもちろん、すべてのEコマース事業者にとって有益な情報を一部抜粋してお届けします。

デジタルとリアルの融合。Eコマース運営は、効率化よりも人間関係の構築

楽天やAmazonなどの大型モールには、多くのショップが競合しています。このような環境で、いかにしてお客様に認知され、選ばれるか、は多くのEコマース事業者が直面する課題です。今回は、この課題に対するミウラタクヤ商店とタマチャンショップという2つの異なる組織形態で運営されているEコマース事業者の視点からそれぞれのアプローチを、探ってみましょう。

私がひとりEコマースを運営してきた経験から得た1つの結論は「お客様が商品を購入する理由の根底には、人間関係がある」ということです。

Eコマース事業者の方々をサポートする中で、よく「ネットショップは効率化のためのものではないか」や「お客様からの問い合わせを減らしたい」という相談を受けます。しかし、営業活動を過度に効率化すると、かえって売上が下がるケースも多々あります。私の考えでは、問い合わせこそが営業のチャンスなのです。したがって、ネットショップを含むデジタル空間を特別視せず、人間関係を構築する「場」として活用していくことが必要と私は考えています。

さらに、三浦さんはデジタルでの人間関係の構築について具体的に以下のように話します。

商品を知らない人が購入に至るまでには、まず「認知」から「興味喚起」までのプロセスが不可欠です。そのためには、積極的に顧客にアプローチし、注目を集める努力が必要です。

実店舗ビジネスでは、近隣へのチラシ配布や店頭での声掛けが一般的です。これと同様の取り組みを、InstagramのダイレクトメッセージやLINEの機能を活用してデジタル上でも実践することが重要です。

COMMERCe+で三浦さんを取材したこちらの記事でも人間関係の構築について詳しくお話し頂いています。今回のセミナーの内容と記事を合わせて読んでいただけるとより理解を深められるのではないでしょうか。一方で、タマチャンショップのアプローチもとても興味深いものでした。

これからの多様性の時代では、モノ・コト・人だけでなく、私たちの全ての活動が結びついて生まれる「物語が重要になると考えています。この物語は、これまでの私たちの苦労も成功もすべてを伝えることでお客様から共鳴が起こります。

具体的には、私たちの理念、願望、構想のすべてを、デザイン、顧客対応、商品開発を通じて具現化してきました。これによりタマチャンショップの独自性が形成され、結果的にブランディングにつながっています

タマチャンショップは、特別なことをしてきたとは考えていません。むしろ、友人関係を築くのと同じように誠実にショップ運営を行ってきたという自負があります。

優れた商品を提供することは当然の前提ですが、ビジネスにおいてお客様に継続的に商品を選んでいただくためには、私たちの想いや個性を様々な手段を用いて継続的に発信することで、お客様の共感を得られているのではないかと考えています。

田中さんは、良い面だけでなく時に弱さも見せることで、友人関係が親友へと深まっていくのと同じだと語ります。この考え方は、ミウラタクヤ商店と同様に、人間関係を重視するものです。運営形態は異なりますが、両者の根本的な部分に多くの共通点が見られました。

セミナーではさらに、タマチャンショップの人間関係構築のためのユニークな取り組みについても紹介されました。

タマチャンショップを楽天へ出店するにあたり、私たちは商品販売以前に、当店の理念や目指す方向性をお客様に理解していただく必要があると考え、コンセプトページを作成することにしました。

楽天などのモールでの買い物後に、お客様が「楽天で購入した」と認識するか、「タマチャンショップで購入した」と認識するかの違いが重要と考えたからです。

この認識の違いを生み出すため、商品販売よりもタマチャンショップ自体をお客様の記憶に残すことを優先しました。そこで、楽天ショップのトップページの最も目立つ位置にコンセプトページを配置しました。

最初に着手したのが、コンセプトページというのは面白いですね!コンセプトページのこだわりポイントについて、田中さんは以下のように続けます。

デジタル環境だからこそ、「土に触れているような質感」を意識したコンセプトページの制作に取り組みました。「田舎くさい」という表現がネガティブな印象に感じる方もいるかもしれませんが、私たちは故郷のような安全性と安心感を持つ「田舎」の強みを活かすことに注力しました。これにより、タマチャンショップの一貫した世界観を構築し、伝えることを目指したんです。

タマチャンショップは、楽天ショップから自社のオンラインショップまで、一貫した「タマチャンショップらしさ」を感じさせる統一された世界観を持っています。セミナーでは、タマチャンショップがこの「世界観」をいかに重視しているかを示す具体的なエピソードも紹介されました。

タマチャンショップは、オンラインショップに加え、九州を中心に7つの実店舗を展開しています。オンラインとオフラインの店舗デザインを統一するだけでなく、実店舗ならではの「商品を手に取れる」魅力も活かし、オムニチャネルを通じて一貫した「食の体験」を提供しています。この取り組みにおいても、ブランドの世界観統一を徹底しています。

ブランドの一貫性は細部にまで及び、梱包材や配送箱の「取扱注意」シールに至るまで、すべてオリジナルデザインで作成しています。

さらに、「しあわせ食を、九州から」というコンセプトを体現するため、年4回、約12ページの「食通新聞」を発行しています。この新聞では、新商品紹介に加え、商品の楽しみ方やタマチャンショップの行動理念を丁寧に伝えています。「食の楽しみ方」を提案するコンテンツとして機能し、顧客との絆を深める重要な役割を担っています。

顧客から選ばれる理由づくり。数字の向こうにいる「人」を考えるタマチャンショップとミウラタクヤ商店の顧客戦略

本セミナーでは、人間関係構築の重要性を再認識できただけでなく、即日実践可能な施策についても触れられました。タマチャンショップとミウラタクヤ商店が実践してきた人間関係構築のための施策や考え方を紹介します。

Eコマースは規模が拡大すると携わる人員も増えていきます。オンラインショップの売上が伸び始めてから加わったスタッフが、1件の注文を単なる数字として扱うようになっていることに危機感を覚えました。

実は、私自身もお客様をデータとしてしか見なくなり、1件の注文の背後にいるお客様を意識できなくなっていました。その結果、楽天オブ・ザ・イヤーを逃しただけでなく、売上も減少してしまいました。

数字を見ることも重要ですが、お客様にどのように商品を使って喜んでいただくかを考えるバランスが非常に大切だと痛感しました。

ミウラタクヤ商店でもあるお客様から直接DMで『最近の対応が素っ気なくないですか?』というご指摘をいただいたことが接客を通じてお客様との距離を縮めようと思ったきっかけでしたね。

ミウラタクヤ商店のお客様との距離感の近さに関するエピソードは、会場を驚かせました。一方で、密なコミュニケーションによる疲弊の可能性について質問が出され、三浦さんは次のように回答しました。

ニッチ市場を狙う場合、全てを行うのではなく『何をしないか』を明確にし、お客様と『No』と言える関係性を構築することが重要です。

例えば、ミウラタクヤ商店ではオンラインショップでよくある『配送時間帯指定』を受け付けていません。ひとりEコマースでは『やること』と『やらないこと』を明確にし、限られたリソースを有効活用する必要があります。

個人商店だからこそ、全ての対応に納得感を得られるよう心がけており、問い合わせは24時間受け付けています。ただし、睡眠時間もあるため、即時返信できない場合は『寝ていて返信が遅くなりました』と素直に伝えることも人間らしさだと考えています。

一方で、タマチャンショップはSNSの活用について以下のように述べます。

SNSの活用には明確な目的意識を持っています。例えば、Instagramでは『食の楽しみ方』を既存顧客向けに発信し、お客様の生活に密接に接しているLINEではセール情報やリマインダー機能を提供しています。その一方で、タマチャンショップを知らない新規顧客への認知にはTikTokを活用しています。

SNSコミュニケーションを重視するミウラタクヤ商店の具体的なTipsと施策について、三浦さんは次のように説明しました。

現代のEコマースには『選ばれる理由づくり』が不可欠です。

Shopifyなどで誰でも簡単にオンラインショップを開設でき、OEM(Original Equipment Manufacturing)で商品製造も容易になった今、商品の価値が埋もれやすくなっています。

お客様が求めているのは単なる商品ではなく、商品を通じた体験や課題解決です。そのため、オンラインショップは独自性を打ち出し、選ばれる理由を明確に示す必要があります。

マーケティング以前に、DMを通じた人間関係構築がEコマースの売上向上に効果的です。

重要な3つのポイントは:

  • LINEでの会話を盛り上げる
  • Instagramの投稿に注力する
  • DMを積極的に活用する

上記3つを頑張る理由について、三浦さんは以下のように続けます。

商品が購入される理由は『人(誰から買うか)・モノ(商品の機能)・コト(訴求軸)』の掛け算です。ミウラタクヤ商店の場合、『人』である私自身が大きな購買理由となっています。そして、この『人』の要素を育てやすいのがDMです。

例えば、宮崎県の酒屋で焼酎を購入する際、自分で選ぶよりも、店員がおすすめを提案したり、宮崎県が焼酎製造量日本一という豆知識を添えてくれる方が、購買体験は向上します。そして、この接客体験をオンラインで実現できるのがDMなのです。

『SNSをただ行う』のではなく、SNSを入口としてDMにつなげることを強く推奨します。

口コミマーケティングの威力。食のコミュニティ『タマリバ』の運営から見えてきたものとは

楽天ショップへの出店をきっかけに拡大を続けるタマチャンショップ。2024年に楽天出店20周年を迎える同社の成長の背景には、確固たるブランディング戦略がありました。

自社の存在意義をブランドとして確立し、それをお客様と共有することが重要だと考えています。

ブランディング確立のために、クリエイティブで使用する色のカラーチャートからフォントまで、細かなルールを決めました。そして、お客様にタマチャンショップとして認識していただけるまで、数年間そのルールを徹底しました。すると、徐々に『タマチャンショップらしさ』が認知され始めたのです。そのため、トレンドや新しいことへの誘惑を我慢しながら、一貫性を保つことに注力しました。

タマチャンショップは食品会社として環境への配慮を大前提とし、Z世代の購買意識の変化も意識していると田中さんは語ります。社会的意義を持つ企業経営において、自社の利益だけでなく、顧客の購入体験が社会貢献につながることをどう伝えるか。そこにもタマチャンショップならではのブランディング手法がありました。

当社ではコミュニティサイト『タマリバ』を運営しています。食に関心のあるユーザーと楽しく交流しながら、新しい発見や商品開発を行う『タマリバ』は、立ち上げから約1年半でレシピ投稿や発信が8,000件以上に達し、まるで1つの村のようにお客様同士のつながりが活性化しています。

タマリバでは、商品開発だけでなく、オンライン座談会や食を楽しむオフ会『サンタプロジェクト』など、食に関する総合的な活動を通じて、タマチャンショップというブランドを積み上げてきたと考えています。

ブランディングやコミュニティ運営は直接的な売上に結びつきにくく、優先順位が下がりがちですが、マーケティングの観点からも商品のクロスセルが自然発生しており、マーケティングの本質は口コミではないかとタマリバの運営を通じて感じています。そのため、Eコマース事業者の方々には、小規模からでもお客様同士のつながりの場を作ることをお勧めします。

田中さんのセッションを受けて、三浦さんから500種類以上あるタマチャンショップの商品点数と、SKU増加による管理コストのバランスについて質問が投げかけられました。

数年前から徐々に商品点数の見直しを行っています。例えば、売れてはいるものの、ロット数が足りない場合は商品を削除する判断もしています。工場在庫を2.5ヶ月以上保有しない仕組みを導入することで、管理工数を削減しています。

また、商品価格設定も類似商品や市場調査を踏まえ、最も高く売れることを目指しています。モールでの販売は手数料も発生するため、会社の利益確保は妥協しません。価格を上げる際は、どこまでの付加価値をつけられるかが重要なので、商品ごとのポテンシャルを探っています。

商品数の増加は管理コストだけでなく、膨大なクリエイティブ制作も必要となります。タマチャンショップの世界観を維持しつつ、効率的にクリエイティブを生産する工夫について、会場から質問がありました。

バナーデザインやサイズ展開はテンプレートのベースを作成し、チームで共有することでクリエイティブ制作を効率化しています。また、ブランディングと同様にクリエイティブ作成時のガイドラインを設けることで、デザインの幅が適切に絞られ、誰が作成しても一定のクオリティと共通した世界観のバナーが実現できていると思います。

サイトやバナーで使用する写真は、宮崎在住のカメラマンに一括で依頼し、月1回、全商品の撮影を行っています。以前は撮影を内製化していた時期もありましたが、プロの仕事との差を感じて断念しました(笑)

セッションの最後には、「OH!オサカーナ」「エノキーニョ」など、ユニークな商品名が並ぶタマチャンショップのネーミング会議の裏側も紹介されました。

当社の商品名を決める際は、『商品がご家庭でどのように呼ばれるか』まで想像して名付けています。『OH!オサカーナ』の場合も、『おさかなスナック食べる?』ではなく『OH!オサカーナ、食べる?』と家族が笑顔になれるよう、社員とダジャレ合戦をしながら商品名を考えていました。

最近では映画のタイトルも長くなる傾向がありますね。簡潔で分かりやすく伝えることも大切ですが、時にはユーモアを交えながら、情緒的で心に残る商品名を意識しています。

会場では、二人の話に熱心に耳を傾け、メモを取る参加者が多く見られました。今回のセッションでは、商品管理の効率化、クリエイティブ制作の工夫、ユニークな商品ネーミングなど、多角的なアプローチでブランド価値を向上させる2人の具体例を交えたお話が印象的でした!

編集後記

今回のセミナーは、大規模な都内のカンファレンスではなく、地方の事業者を対象としたものでした。「タマチャンショップ」キャプテンの田中耕太郎氏と「ミウラタクヤ商店」店長の三浦卓也氏は、両者とも自ら実践し、試行錯誤を重ねてきた実力者です。彼らの話は美辞麗句ではなく、泥臭くも愚直にお客様と向き合ってきた経験に基づいた内容が多く語られていた印象でした。

具体的な売上向上の方法論はもちろん、その必要性を裏付ける経験談も交えた彼らの話に、参加者は「そこまでやるのか」と驚きの声を上げていました。しかし、参加者の方々も間違った方法で取り組んでいたわけでも、努力が足りなかったわけでもありません。「努力の方向」を少し変えるだけで、顧客とのより良い関係を築けるという気づきを得た参加者も多かったのではないでしょうか。

今回は地方の事業者向けのリアルイベントでしたが、セミナーでの対談内容は、地方発のEコマース事業者に限らず、多くのEコマース事業者に広く適用できる価値あるものだと思いました!

文 :杉山 美和
写真:杉山 美和、関 大二郎

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