【Why!?Direct.2024イベントレポート】DAY2 公式セッション編

日本のD2C、ダイレクトビジネスに関わる方々が日本全国から集結する日本最大級のD2Cに特化した対面型リアルイベント「Why!?Direct. 2024」が、2024年2月15日(木)・16日(金)・17日(土)の3日間にわたり福岡県の福岡アイランドシティフォーラムで開催されました。

今回は「Why!?Direct. 2024」の公式セッションの中から、2024年2月16日(金)に開催された公式セッションをまとめたイベントレポートです。

世界最強の壁打ち 生き残れる10年後のキャリアを考える

このセッションでは、、企業の10倍成長のためのアドバイザー株式会社Moonshot 代表取締役社長 菅原 健一氏をモデレーターとし、ロサンゼルスで日系進出企業の米国展開マーケティングサポートなどを行う総合広告代理店 MIW Marketing & Consulting Group , Inc. CEO岩瀬 昌美氏と株式会社ユナイテッドアローズ 執行役員藤原 義昭氏が登壇されました。

希少で独自なポジションを築き上げ「好きなことを仕事に」してきたスピーカーにキャリア構築のポイントとこれからのキャリアに不安を感じている参加者のお悩み相談という世界最強級の壁打ちが行われました。

匿名質問ツールを活用して会場から質問を応募したこのセッションには想定以上の質問が集まりました。具体的な質問内容は記事では控えますが、マーケターとしての次のキャリアの悩みが多い印象でした。

お悩み相談前のセッション冒頭にて登壇者3名はキャリアに対して以下のような考えを語ります。

マーケターのキャリア相談で「MBAを取得した方が役に立ちますか」と質問をよくいただきます。私の回答は、資格を取得することに意味はなく、取得するまでの過程としてビジネスの型を知れることは非常に有意義であると考えています。

たとえば、減価償却の意味を理解していないマーケターも少なくないです。しかし、減価償却の意味がわかると、儲け方を理解できるようになります。マーケティング会議で新規獲得の施策について議論するのも大事ですが、経営目線は「結局、その施策を実施することでいくら儲かるの?」ということです。だからこそ、経営の話ができるようになるためにMBAを取得することでビジネスの基礎を持つことができることはとても有意義だと思います。

藤原さんは、マーケターが経営視点を持つことは「Must(必須)」ではないですが「More Better(より良い)」のキャリアアップに繋がると語りました。また、普段、アメリカで仕事をする岩瀬氏は以下のように続ける。

東洋人の女性で外国人というアメリカにおける当時のヒエラルキーにおいてマイノリティに私は位置していました。その時、「MBAを取得することでキャリア10年分を得ることができる」と言われたので自身のキャリアの可能性を広げる手段の1つとしてMBAを取得しました。

大事なことはMBAは手段であり、資格を取得することが目的ではないということ。かくいう私も、MBA取得後も同僚のアメリカ人が勉強をしたらその数倍の勉強をしたし、仕事もしました。ただ、MBAを取得することで自分の仕事の自信に繋がるのであれば取得する意味もあるのではないでしょうか。

セッションを通じて2名のスピーカーの方の共通点は「チャレンジに躊躇せず手を挙げる」ことでした。やったことがなくてもとりあえず手を挙げ、それからどうするのかを考えても遅くはないという。そして、最後にモデレーターの菅原氏は以下のようにセッションを締めます。

会場にいらっしゃるどの立場の方でも適応できる最短で肩書やキャリア、収入を上げる普遍的な法則があるとするなら、それは給料日に上司に「今月、私は役に立ちましたか?」と聞くことだと思います。

自分がもらったお金分の働きをしたのかを意識して働く機会は多くないと思います。しかし、その意識を持つだけで、転職というキャリアアップだけではなく社内に在籍しながらも上司からの自分の働きに対するフィードバックを得ることができ、上司との良い関係構築にも繋がり一石二鳥にも三鳥にもなるんです。

実際に菅原氏の周りの20代に上記実験を行ったところ、20人中10人がキャリアや給料が向上したという。一方、残りの10人は、怖くて聞くことが出来なかった人たちだったとのこというので、一目瞭然の結果ですね。

一人ひとりのキャリアは「正解」もなければ「間違い」もありません。悩みのタネは尽きることはないですが、このセッションの壁打ちを通じて、働き続ける人だけが見ることのできる未来の景色に希望を見出した参加者も多かったのではないでしょうか。

「共創体験」からブランド価値を上げる、コミュニティマネジメント術

このセッションでは、ITのB2Bマーケティングで30年近いキャリアを持つパラレルマーケター小島 英揮氏をモデレーターとし、アビスパ福岡株式会社 執行役員 平田 剛久氏と株式会社ヤマップ 内海 良介氏が登壇されました。

「Why!?Direct. 2024」の各セッションで語られていた「コミュニティ」というキーワード。このセッションではブランドを作る際に、コミュニティをどのように活用していくのかというテーマでスピーカー2社が実施しているコミュニティマネジメントを解き明かしていきます。

ブランドはロゴなどの記号などではなく、体験で生まれる想起や購買行動につながるものとセッション冒頭でモデレーターの小島氏は語る。

そのため、事業者側はマーケティング施策を講じてお客様への認知や行動変化を促します。しかし、実際の購買行動はブランドのファンにより新たなファンが形成されていく、CtoCでの繋がりが持つ影響も大きいです。つまり、コミュニティの役割は発信者と受信者が出会うことで体験を形成することであり、それがブランド形成を加速させるとスピーカー2社は以下のように語る。

スポーツチームコミュニティはもともと熱量の高いファンが集まるコミュニティが特徴の1つです。そのため、熱量の高いコミュニティの中で自律分散型組織のDAO(Decentralized Autonomous Organization)という組織形態は色々なアイデアを形にしたり、課題を解決したり、よりプロセスエコノミー的に共創できる点がとても相性が良く、色々なプロジェクトがDAOから生まれてきています

コミュニティ運営は、ファンがチームの一員として参加している帰属意識をいかに高く持ってもらうかが大切です。そのため、コミュニティ拡張のために「イノベーションの共創」として、ファンもチームの一員とし、スポンサー企業などチーム運営に関わる様々なステークホルダーと共に事業を作ったり、地域課題の解決を行う取り組みを行っています。

コミュニティにおいて、声を上げないファンに意見はないのかと問われると、そうではないと平田氏は語ります。そこで、NFTツールを導入し、ファンがトークンを購入することで今までの想いを資産として確保し、チーム運営に参加してもらう取り組みを紹介していました。

ヤマップも、既に熱量の高いファンによりコミュニティが形成されました。

たとえば、企業主催のイベントにファンを招待するのが一般的だと思います。しかし当時知名度の低かったYAMAPは、熱量の高い少数のユーザーさんにより自発的に開催されたイベントに弊社代表が出向き、その会で頂いたユーザーさんの声をエンジニアにフィードバックすることで、プロダクトの価値を高め、ユーザーさんのコミュニティへの帰属意識がさらに高まったと感じています。

熱量の高いファンが集まるコミュニティという共通点をもちながらも、異なるやり方でコミュニティ運営を行うアビスパ福岡社とヤマップ社。その2社を比較した上で、コミュニティマーケティングを行う上で大事なポイントがあると小島氏は語る。

アビスパ福岡社もヤマップ社も別々のコミュニティ形成を行っているが以下の3つを満たしていることが共通点だと考えます。

・何をするコミュニティかを明確にする 例)応援をする

・コミュニティの安全性 例)ファン同士の信頼関係、心理的安全性

・外に声を届ける

「声を届ける」点について、フィードバックが組織に反映されていることをサポーターにしっかり伝える重要性を平田氏は以下のように語ります。

アビスパDAOでは半年で約1,000件以上のアイデアや意見がチームに届けられます。

もちろん、全ての声を反映することは難しいです。しかし、頂いた意見には緊急性と重要性で優先順位を付けて実施できるものから反映し、その結果をコミュニティにフィードバックを行っています。

そうすることで、コミュニティ内の「熱量」と「安全性」が合わさり、コミュニティが連鎖し、発展していくというエピソードが印象的でした。

また「モデレーター制度」を作り、DAOの中から選ばれた7名のスペシャリストが現在DAOのコミュニティ運営や発信において重要な役割を果たしてくださっていて、より自律分散型の組織になりつつあります。

会社のみでブランドを1から作るにはかなりの労力がかかります。だからこそ「共創」という共通体験でブランドやコミュニティづくりが加速していくのではないでしょうか。

さらに、セッション後半ではブランドやプロダクトのファンの熱量が高いことも大事としつつ、「社員(メンバー)をユーザー化」というキーワードのもと、社員(メンバー)の熱量がなによりも大事と語るヤマップ社 内海氏。

恐らく、当たり前過ぎてあまり語られないかもしれないのですが、会社のビジョンに共感してくれるメンバーで組織を構成することが大事だと考えています。そのため、ヤマップでは人事戦略に落とし込んで、様々な仕組みと制度を実行しています。

たとえば、福利厚生の1つに「社内登山」があります。これは、勤務時間中でもメンバー同士で登山ができる制度です。ユーザーよりもメンバーが1番のユーザーになるという方針のもと、アプリのUX改善だけではなく、実際に山に行くことでユーザーの気持ちをより深く理解するという目的で運用しています。

また、約2割の社員は居住地フリー制度を活用して山や自然の近くからリモートで勤務しています。居住地フリー制度は、採用においても全国から優秀な人材が集まるようになり、非常に大きなメリットをもたらしています。

ヤマップ社のメンバーは入社前からすでにヤマップへのロイヤリティが高い状態で入社するため、事業成長・組織強化をスピーディーに実現出来ているという。

採用でも組織づくりにおいても「共感」を大切にしており、その共感の質を高めるために、発信者が「感じてほしいことをきちんと発信すること」はもちろん、「ユーザーさんがどう感じてくれているかを的確に捉えること」も重視しているとのこと。そのすり合わせが質の高い「共感」に繋がると内海氏は語ります。共感の度合いがズレてしまうと、サービス満足度も下がるため、両者の重ね合わせを常に意識する事が大事とお話されていました。

採用の際も、候補者との「共感」を大事にすることで、良い組織づくりに繋がり、結果として良いサービスに繋がるというエピソードがヤマップ社のブランドコミュニティの強さなのではないでしょうか。

ブランドとコミュニティは切っても切り離せないほど関係が強く、その間にある「共感」がキーポイントになるという気づきを与えてくれたセッションでした。

大ヒット商品「SHIKARI BRIGHTENING WASH」「ラクビ プレミアム」開発の秘密に迫る!そこに再現性はあるのか!?

このセッションでは、創業メンバーとして化粧品通販ビジネスの立ち上げから年商100億円到達までを率いたビタブリッドジャパン 取締役 西守 穣氏をモデレーターとし、ヒット商品「ラクビ プレミアム」を販売する株式会社ニコリオ 野村 直樹氏とSNSで話題の「SHIKARI(シカリ)」を販売する株式会社長寿乃里 専務取締役 本山東英氏が登壇されました。

中小企業が大企業と同じように商品開発を行い、販売するのは規模的にも難しいです。しかし、中小企業には中小企業としての戦い方があると語る西守氏。今回は、中小企業ならではの戦い方で成功した2社を招いて「商品がヒットした理由」と「ヒット商品の再現性」について、セッションが行われました。ヒット商品を生み出す2社は登壇の機会が多くないこともあり、セッションの内容に多くのイベント参加者の関心が寄せられていました。

「つかってみんしゃいよかせっけん」でおなじみ「よかせっけん」は累計2,800万(2024年2月時点)の大ヒット商品。しかし、販売元の株式会社長寿乃里は従来、商品名に英語名の表記がNGな会社だったという。その会社でどのようにしてSNSで話題のZ世代に圧倒的認知を誇る「SHIKARI BRIGHTNING WASH」が生まれたのでしょうか。

弊社は「よかせっけん」を始めとし、長年多くの方にご愛用頂いておりますが、長い年月を経て平均年齢60歳を超える方がメインのお客様でした。そこで、今後の売上拡大と、海外のコスメブランドが将来的な競合になる可能性を加味して従来の商品にはない、また「よかせっけん」を超える商品を作る意気込みで、社長発信の新ブランドとして生まれました。

ヒット商品が生まれたきっかけは従来のヒット商品を越える強い決意。セッションの内容は「なぜその商品がヒットしたのか」の秘訣に迫っていきます。

一言で表すと「強い商品✕強い売り方」の方程式です。弊社は「3S(新規性・差別性・ストーリー)+E(エビデンス)」のフレームワークを活用して商品開発を行っています。この4つの要素の基準値をクリアできたもののみを商品化することで「強い商品」の開発の再現性に繋がっています。

また、たとえ良い商品を作っても、お客さまに価値を翻訳して届けることができないと売ることはできません。そのため、広告代理店とタッグを組んで販促を行うことができた点が「強い売り方」になりました。

広告代理店とタッグを組んだプロモーションにおける重要なポイントについて野村氏は以下のように語る。

商品を作ってから、売り方や広告訴求を考えるのではなく「強い商品✕強い売り方」を同時並行で考えたところがポイントです。

たとえば機能性表示食品の場合、商品の効果効能に関する論文を消費者庁に提出し、承認を受ける必要があります。論文をまとめる際に、広告でどのようなコピーで打ち出すかを考えながら、論文で使用する単語や書き方を考えていました

このお話を聞いた際に、正直な話「そこまでやるのか」と驚きましたが、ニコリオ社の社内に論文を読み、作成できるメンバーがいたということも1つの強みになると感じました。

論文の書き方など商品開発の初期段階から代理店とタッグを組んでいるニコリオ社。それは、売上にすぐに繋がる即効性のあるやり方ではないかもしれないが、他の商品にも横展開できる開発スキームにすることができれば「ヒット商品を生み出す再現性」につながると野村氏は語る。

一方、「SHIKARI BRIGHTNING WASH」は、Instagramでバズっているヒット商品。

Instagramで販促を行う他の企業曰く、「月初はSHIKARIのプロモーションで埋まっている」とインフルエンサーさんから断られるほど。

「SHIKARI BRIGHTNING WASH」の強みの1つに「ブラシを使った洗顔」があります。洗顔フォームに洗顔ネットをつけた商品が「よかせっけん」ですが、一般的には肌刺激で忌避され易い洗顔ブラシをわざわざ付けている商品が当時はなかったので、新しい価値を提供できていたと考えます。

洗顔ブラシも決して安いものではないのですが、社員の発案で当時のMakuakeに洗顔ブラシの出品が多かったことからもヒントをもらい付属品としてセット売りを行いました。

そして、「SHIKARI BRIGHTNING WASH」の強みは洗顔ブラシだけにとどまらない。

化粧水やクリームのように肌にとどまらずに、洗い流す「洗顔パック」というカテゴリーにおいて医薬部外品の効果効能も強みと考えています。

Instagramで商品を販売したいと考えている事業者の方であれば共感していただけると思いますが、商品によるビフォーアフターのインパクトの薄いベースメイクや洗顔の販促は難しいと言われています。そのため、「SHIKARI BRIGHTNING WASH」も洗い流す商品に医薬部外品という効果と、強い”画”という売り方から考えた「洗顔パック」として販促を行うマーケティングが上手くハマったのではないでしょうか。

登壇した2社に共通したのは、売り方を代理店に依存する体制の将来性を加味し、商品開発から売り方を考えるところまでを❝商品開発❞として捉えていた点ではないでしょうか。この流れは、インフルエンサーマーケティング全盛期と呼ばれていた際も同様の流れがあったように思います。

ヒット商品の再現性について、パッケージなどの売り方も、市場調査のデータよりもネイティブ世代に任せた方が早い成果に繋がると考える企業も多く、商品責任者のポジションへの若手社員を抜擢する企業も増えています。

メーカー・D2C企業が参加者の7割を超える「Why!?Direct. 2024」会場において、自社商品と組織体制をセッションで紹介されたフレームワークに当てはめて振り返る参加企業も多かったのではないでしょうか。

社会課題解決×ダイレクト 九州のチャレンジャーにとって”Why!? Direct” とは?

このセッションでは、株式会社博報堂ケトル チーフプロデューサー 日野昌暢氏をモデレーターとし、九州のローカルな魅力を引き出し世界に発信し続ける九州アイランドの村岡浩司氏、日本のアパレルのものづくりの現場の課題に向き合い続けるファクトリエを運営するライフスタイルアクセント株式会社 代表取締役 山田敏夫氏と社会起業を生み出すプラットフォームを作り上げ輪を広げ続けるボーダレス・ジャパンの田口一成氏の3名が登壇されました。

様々な社会課題を企業の成長と共に解決に導く3社は今、何に悩み、何に違和感を覚え、どんな未来を作ろうとしているのか。インターネットの普及以前、全てのことが人と人を介して成り立つ❝ダイレクト❞だったことを起点として様々な問題提起が行われました。

たとえば、お客さまと向き合う従来の❝ダイレクト❞を便利にした結果、お客さまの顔が見えなくなった手法としてのダイレクトマーケティングではなく、数字を追ったダイレクトマーケティングの「数値が達成された先にあるものとは?」について、ライフスタイルアクセント株式会社の山田氏は以下のように語る。

❝ダイレクト❞をマーケティングに置き換えた時に「会社よりも工場のLTVを上げること」を大事にしています。独自性のある価値の高い商品を作るだけではなく、❝ダイレクト❞に取引することで、工場からお客さまに直接届けることができ、その結果工場の利益も増えます。そのため、会社のLTVの意味は「長く続けること」ですね。

今回の登壇を機に、改めて「なんのための❝ダイレクト❞なのか」を考えました。その結果、昔は全てのやり取りが❝ダイレクト❞だったからこそ、受け手の喜びや悲しみが想像できる良さがありました。だから、私も工場の状態を想像できるように自ら工場に出向きます。

インターネットの発展で、売る人と買う人だけを繋げていた❝ダイレクト❞が、売る人の奥にいる工場まで繋がることで温かみのあるインターネットのあり方になるのではないでしょうか。

一方、ボーダレス・ジャパンの田口氏は社会課題における❝ダイレクト❞について、社会を悪くするために、悪さをしている人はいないという前提で、以下のように語る。

たとえば、分業を突き詰め、効率を追求した結果、誰がどのような想いで作ったものなのかが分からなくなってしまうこともあると思います。

しかしこれも、彼らに悪気があるわけではなく、事業の利益率を高め、給料を払い、雇用を生み出す目的で仕入れ交渉など、一生懸命仕事をしているだけなんですよね。しかし、この積み重ねが作り手への負担や下請け発注などに繋がっているという事実をまずは知ることから始めませんか。

また、昨今では「パーパス疲れ」や「ソーシャルビジネス疲れ」と言われていることに対し、違和感を抱く田口氏は以下のように続けます。

私は「ソーシャルビジネス」という肩書があまり好きではありませんでした。なぜなら、この会場にいる方全員が社会をより良くしたいと思い、働いているはずなんです。ソーシャルビジネスがビジネスに対するアンチテーゼでありたいわけではなく、盲目的に数字を追いかけた結果を知っているからこそ「ソーシャルビジネス」という言葉を使っていただけなんです。

しかし、社会を良くしたいという同じ気持ちにもかかわらず「ソーシャル」という場所を作ったせいで、社会的観点が分断してしまっているのではないかという疑問が出てきたんです。だからこそこれから先、何が必要になっていくのかと考えた時に私は「希望」だと思いました。

社会課題はたくさんあるけど、多くの人が社会課題を語りすぎて日本が社会課題しかない国に感じてしまうことはありませんか。しかし、実際はそうではなく日本も世界もより良い国になれるはずとして、「どのような希望」を作っているのかで対話をする必要があると力説されていました。

大小もなければ、ローカルもグローバルも関係なく、みんなで希望を作っていくという考え方でこれから取り組んでいきたいですよね。

インターネットで簡単に何でもできるようになった時代だからこそ、かけた手間はインターネットを通じても伝わると信じているし、それがインターネットの温度感と語る山田氏。そして、なんのために各々の技術を使うのかという「Why」の重要性を最後の言葉として残した田口氏。このセッションを通じて「Why!? Direct.」の主催者への想いを交えた素敵なセッションでした。

編集後記

2日間にわたり開催されたセッションを通じて「推し」「ファン」が1つのキーワードになった今回の「Why!? Direct. 2024」。

成功事例のトレースやツールや手段の「How」だけではなく、それらの手段が顧客や自社ブランドに「どのような価値を生み出すのか」や、ブランドとして顧客に「どのような価値を提供できるのか」の「Why」を起点に考える視点がこのイベントの本質的な問いだったように思います。

そして、これまでの2日間を良い意味で打ち壊すほどの衝撃を多くの人に与えたであろうDAY 2のクロージングキーノートを記しておきたいと思う。

「成功」を求めることは悪いことではないと説く一方で「あなたにとっての成功とは?」という問いかけから始まったキーノートは、ライブ配信アプリ「17LIVE(イチナナ)」の元CEOで現在は自称、さまようボウズ 小野龍光氏が登壇された。

ビジネスでは数字で評価されることが多い社会において、数字を追い求めた先に「成功」はあるのだろうかという疑問から始まったクロージングキーノートはこれまでのセッションを通じての学びの本質を改めて見つめ直すきっかけになった参加者も多いのではないでしょうか。

かつては人を幸せにしたいという想いからビジネスを行っていたが、次第に、数字を膨らませることが目的になっていたことに気づいたと小野龍光氏は語る。そのため、社内の打ち合わせでも、社員の悩みを聞くよりも数字でしか会話ができておらず文字通り「人」を「亡」で「忙しい」毎日が自分にとっての「苦しみ」だったという。

また、経済成長という名の下に捨てることを前提に作られるプロダクトにより、人間が地球環境を破壊し続けている実態を目にした時に、「人のため」と思っていたことが結局は「自分のため」の欲でしかなかった。またその結果、戦争や貧困、格差など自らの外に対しての苦しみに意図せずとも貢献してしまっていたのではないかと語る小野龍光氏。

しかし、ビジネスは綺麗事ばかりではありません。だからこそ、事業の数字を増やすことでその苦しみを埋めつつ、また苦しみ続ける日々で自らを保てなくなり、一度全てのことをリセットしてインドに旅立ち、そこで佐々井秀嶺氏という人生を変える出会いを果たす。

今回のキーノートで紹介されたインドでの実態や経験の数々の全てをここに残すことができないことが悔やまれますが、最後に小野龍光氏は以下のようにまとめます。

「自分の人生は自分しか生きることは出来ない、他人の人生を生きることは出来ない」というブッタの教えを引用しながら、帰属している法人やSNS上の羨ましい他人の人生を生きるのではなく、私たちが一個人としてどのような生き方を目指していきたいのかを考えていきましょう。本イベントのD2Cの文脈で考えるのであれば、「誰」に「何を」届けたいのかを日頃から問いかけながら、この話がみなさんが考える切っ掛けになれば幸いだと締めくくった。キーノートはそれまでの静けさから、一気に盛大な拍手へと変わりました。

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文 :杉山 美和
写真:杉山 美和、Why!?Direct.様提供

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