【Why!?Direct.2024イベントレポート】DAY1 オープニングキーノート編 「推されるブランド」になるために

日本のD2C、ダイレクトビジネスに関わる方々が日本全国から集結する日本最大級のD2Cに特化した対面型リアルイベント「Why!?Direct. 2024」が、2024年2月15日(木)・16日(金)・17日(土)の3日間にわたり福岡県の福岡アイランドシティフォーラムで開催されました。

今回は「Why!?Direct. 2024」の公式セッションを中心にイベントレポートをお届けします。本記事は、2024年2月15日(木)に開催されたオープニングキーノート「Brand Adobocate「推されるブランド」になるために」のイベントレポートです。

このセッションは、KonMari ~人生がときめく片づけの魔法として世界的に有名な近藤麻理恵さんこと“こんまり”さんの夫であり、ご自身の会社Takumi.Incでプロデューサーとしても活躍する川原 卓巳氏と、企業の10倍成長のためのアドバイザー業を行うMoonshot Inc. CEOの菅原 健一氏の2名を招き、「推されるブランドになるためには」をテーマにトークセッションが実施されました。

「推し」が1つのキーワードになる「Why!?Direct. 2024」において、イベント参加者のその後の聴講の姿勢を決めると言っても過言ではないオープニングセッションでお二人は何を語るのでしょうか。

このセッションは単なる「推し活」の話ではないことを最初に断っておきたいと思います。

“世界のこんまり“のプロデューサー川原氏ならではの「推しとは?」の話から「推されるために大切なこと」まで、アメリカに移住されてからのご自身のご経験を基に語っていただきました。

なぜ、ブランドは「推される」必要があるのか

「❝推し❞はビジネスに寄与すると思いますか?」

セッション冒頭に菅原氏が参加者に問いかけます。「寄与する」と挙手したのは会場内の1割ほどの参加者のみ。多くの参加者は「推し」に対して自社のブランドや企業との関わりや必要性に懐疑的な様子でした。

従来は利益を得るために販売する商品の原価に対して、「意味」や「目的」など「ブランド」を乗せることで1円でも安くではなく、1円でも高く売ることを目指していました。しかし、現在は商品の機能的な役割よりも「推されること」「熱狂的な好きを生む」という情緒で「推されるブランド」も増えてきたと思います。

自社商品のブランドを考えることも大事だが「推されるブランドになること」がなによりも大事になるのではないかとオープニングセッションの口火をきる菅原氏。

今回「推し」というテーマを頂き、自分なりに考察を深めてきました。そこで皆さんにシェアしたいのが「なぜ『Konmari』や片付けが世界で流行るのか?」ということです。

それは、「物が溢れ、求めるよりも手放したいということの現れ」というのが私なりにたどり着いた答えでした。

イベント参加者にとって耳の痛い話になるかもしれないと断りつつ、その事実から議論を始めるということが私がここに呼ばれた意味なのではないかと川原氏は力強く語ります。

大事なことは、そのような世の中でも選ばれ、支持されているブランドがあるということ。そして、その違いこそが「推し」なんです。

今後のブランドにおいて「推される」ということ「あったらいいね」ではなく、「どのブランドも必ず身につけている」もしくは「推しの力学を理解し、活用している」状況が日本だけはなく世界規模で求められていると私は考えています。

私たちが生きていくうえで、どれほど物が溢れる時代と言っても、衣食住に関連する商品やサービスがいきなりなくなることはありません。

ですが、洗浄力が2倍になった洗剤を、その後も2倍、さらに2倍と機能面をアップデートし続けることに限界がくることは想像に容易いと思います。

だからこそ、物が重要にはならないこれからの時代にどのように推されて、選ばれるかを起点として議論をしていかなければならないということですよね。

「推し」とは、生きがいの創出!?

選ばれるブランドとそうではないブランドの「違い」を生むポイントはどこにあるのでしょうか。セッションはより具体的なお話に移っていきます。

『KonMari』が選ばれている「違い」はズバリどこにあるのでしょうか?

『KonMari』の明確な違いは「持っているものを捨てる、もしくは減らすことで喜びを生み出している」ことです。ダイエットに近い考えですね。もう1つは「物を増やし、使うことの幸福の先の新たな幸福を提案をできた」ことだと考えています。

Netflixの『KonMari ~人生がときめく片づけの魔法』を観ていただけるとわかり易いのですが、片付けに行った家の方が片付けられずに泣いているんです。撮影でマンハッタンの大きな家にお邪魔すると、いくつもの未開封のダンボールを目にします。理由を尋ねると、買う瞬間の幸福感を求めているだけで、実際に届いた商品を求めているわけではないと語ります。その時に私は資本主義社会の行ききった先の未来を見た気がしましたね。

つまり、『KonMari』は物を「買う」から「手放す」ことで、視聴者に喜びを提供できたことが大きな違いになっていると。

そうです。エミ―賞を受賞した際、審査員からは「私たちはなぜ生きているのか」や「幸せ」の答えを見たという評価を頂き、その言葉がまさにこれまでの「違い」なのかと。

『KonMari ~人生がときめく片づけの魔法』の番組構成も歴代のエミー賞受賞作品とは全く異なるフォーマットだったことに多くの番組関係者が驚いたと同時に、異例の受賞だったと言う。これまでヒット作を生み出し続けていた敏腕プロデューサーは、劇的ビフォーアフターのように見た目の派手さを演出に加える予定だったところ「嘘はつけない」と番組制作の方向性を何度もすり合わせたと語る川原氏。

結果としてエミ―賞を受賞した『KonMari』だが、その経験を経て学んだことがあると続けます。

『KonMari』を通じて「静かな変化や幸せ」を世界中が観て、感動した事実を通じて本物は伝わることを肌で体感しました。

だから、今までの成功体験以上に、そこにある真実や感情の変化を世界中の人が感じることができることを私たちは信じてもいいのではないでしょうか。

そして、そこに今回のテーマである「推し」があるのではないかと考えています。

なるほど。川原さんなりの「推し」とはなんなのでしょう?

私は「推し」を「生きがいの創出」と考えています。物質的な豊かさの次に求められているのは「精神的な満たされ」であり、究極的に「生きがい」と言い換えられるのではないでしょうか。

そして、自分だけでは生み出すことのできない生きがいを企業やブランドの向こう側に共感を通じて「推す」という行為につながるのではないでしょうか。だから、従来は顧客の方を向いていたブランドはこれからの未来、顧客と共に進むべき未来側に共に向くことで、顧客を代弁して未来を作る存在になることが求められていくのだと思います。

「推される」ブランドになるためには

以前、クラシコム社を題材に従来のメーカーとの異なる点を自身のnoteで考察した際に気付きがありました。企業が思っている以上にお客さまは企業のホームページをみているのですが、どの企業もコーポレートサイトのトップページでは、「エコ」や「サスティナブル」などの文字が並びます。つまり、お客さまではなく「人」ではなく「社会」に約束したメッセージを発信していませんか?

その点、クラシコム社は「フィットする暮らし、つくろう。」というお客さまに向いているメッセージということがわかるんです。つまり、自分に語りかけてくれる企業と、自分とは関係ない「何か」に約束をしている企業とでは、推し方が変わると思いました。

資本主義社会におけるビジネスでは、株主の利益の最大化が株式会社に求められることであり、努めと語る川原氏。しかしそれは、株主に向いていて仕事をすれば良いわけではなく、顧客が何を求めて、そのために何を作るのかを発信していくことが大事だと言う。そして、その積み重ねが最終的に株主の利益を最大化することにもつながると語ります。

「ブランド」や「推し」が大事とはいいつつ、利益がでなければ企業として持続的な経営はできません。そこでセッションは、冒頭の問いかけにもある「推しはビジネスに寄与するのか?」という「推しと利益」というより具体的なビジネスの話に進んでいきます。

物が溢れる時代において、推される企業になった後は、売上よりも利益がより大事になってくると思うんです。

たとえば、1万円の物を販売していても1,000円の利益を出せる会社Aと、5,000円の利益をだせる会社Bがあるとします。両社が目標売上10億円を達するためにA社はB社の5倍の物を作り、売らなければならない。つまり、両者の利益の差分だけ物を作り、売らなければいけないという、薄利多売の悪習が歪を生むと思うんです。

菅原さんの仰るとおり、薄利多売の先に未来はないですよね。だからこそ、厚い利益で少なく売る厚利少売で利益を最大化する企業経営やブランドづくりが必要になってくると感じます。

GDPという指標で測る社会において人口が減り続ける限り、今までの売り方で2倍、3倍頑張る未来には限界があります。そのため、企業は何かしらの策を講じなければいけない危機感があるものの「どうすればよいか分からない」状況も大いに考えられます。そのような状況における1つの突破口となる価値観の変化が今回のテーマである「推し」であると語る川原氏は更に以下の通り続ける。

「推される」ということは、企業にとって「利益を乗せられる顧客との強い信頼関係」ではないでしょうか。

「どうすれば、ブランドは推されるようになるのか」という問いについて「消費者側をちゃんとみること」など、ここまで様々なポイントが出てきましたね。

それ以外で、川原さんの考える「推されるブランド」のポイントはありますか?

テスラなど海外企業も含めて求心力のある会社は、前代未聞の素晴らしいテクノロジーの有無で推されているわけではなく「主語の違い」だと私は考えています。

主語の違いとは、「あなた達は人類をどの方向にもっていこうとしているのか」を考えているだけではなく、「We(我々は)」の主語の基、顧客との「共犯関係」を築けているかどうかです。

たとえば、イーロン・マスクはおそらく本気で人類を火星に連れて行くと想い、実際に行動しているからこそあれ程の時価総額を誇っています。
つまり、どこを目指して生きているのかの大きさと具体性が「推される」幅を作っているのではないでしょうか。

推されるべくして推されている企業は、企業としての役割を担っており、その役割は「天命」や「使命」という言葉にも置き換えられるかもしれないですね。

まさにです。そして、顧客からその使命を「あなたにお願いしたい」と思われることが「推される」ということですね。

物がない時代においては、できるだけ良いものを安く提供できれば顧客との利害関係は一致していました。しかし、物が溢れた現代の消費者は「推したい」理由がなければ動かないということですね。

まさにサイモン・シネックの「ゴールデンサークル理論」ですね。優れた企業とそうではない企業には考え方には違いがあるという動画なので(会場で動画を)見たことがない方は、必ず見てください。

結論から言うと、人を強く引き付け愛されるブランドは中心に「why(なぜこれをやっているのか)」があり、その外側に「how」があり、さらにその外側に「what(機能)」を伝えています。

たとえば、テスラは枯渇するガソリンや、自動車から排出される排気ガスにより引き起こされる空気汚染を食い止めるために電気自動車を開発しています。ここまで明確に世の中を考えたビジョンを伝え続けているからこそ共感を生み、多くの人が推すのだと思います。

Appleも同様にApple製品を買うことで、Appleのメッセージを背負っているということですね。だから、どれだけ製品価格が高くなってもAppleなら面白いことをやってくれるという期待を込めてファンは買い続けるんですね。

ぜひ、世界的企業の話と夢物語で終わらせるのではなく、自社商品にゴールデンサークル理論が当てはまるのかを、改めて問い直してみてはいかがでしょうか。

編集後記

オープニングセッションは「推し」のテーマから雲をつかむような壮大な話にまで広がったように思うかもしれません。しかし、お2人が共通して仰っていたのは自らを1人の消費者として、インサイトを深ぼる日々の生活に「推される」ヒントがあるということ。

つまり、私たちが欲しいと思わないものが、社会で売れるわけはないのだ。

世界に影響力のある人に選ばれる人も、スーパーサイヤ人ではなく私たちと同じ「人」です。同じ時間軸で生きている人との違いは「何を考え」「何を実行したのか」というだけと語る川原氏。最も無意味なことは聞いても、やらないこと。そして、考えたことや既に実施していることを続けた先に変化は必ず生まれるという参加者の背中を「推す」一言がとても印象的なセッションでした。

文 :杉山 美和
写真:Why!?Direct.様提供

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