「知識を体験へ」 高級ワインのサブスク、ホームワインが提案する3段階の知識変革とは?継続会員数を伸ばし続ける緻密に設計されたマーケティングの裏側に迫る

岡前亮介さん

株式会社Wine Tubes 代表取締役・合同会社D2Cマーケティング代表社員。早稲田大学理工学部在学中、自宅に届くワインスクール「ホームワイン」を有名ソムリエである佐々木健太さんと共に創業し8ヶ月で黒字化を達成。現在、ホームワインの起案及び事業責任者としての事業運営を行う傍ら、ニッチなD2Cを立ち上げる合同会社を立上げ、D2Cアドバイザリー事業やリブランディング事業を行う。

ホームワインが提案する3段階の知識から体験の変化とは?

前回はサービス設計から継続率を高める仕組みづくりまでのお話をお伺いしました。ここまで継続会員数を伸ばし続けている理由について、ズバリなんだとお考えですか。

前回「情報を与える順番」というお話をしたのですが、ホームワインは継続率という考え方ではなく「知った知識を日常でどのように楽しんでもらうか」という視点で考えています

ホームワインには、全12回で完結するワインプログラムでワインを学べる仕組みがあります。しかしワインの知識を得るだけではなく、得た知識をどのように体験に移していけるかの仕組みづくりを大事にしています

「知識を体験へ」ですか…。もっと詳しく聞いてもいいですか?

知識を体験へ昇華していくには、全部で三段階の行動変化があると考えています。

まず第一段階は、新しい情報を知ること。そして、学んだ知識を活かして楽しむことができることを第二段階とします。そして最後に、自発的な行動へと変わっていく第三段階があります。

例えば、ワインはコップではなくワイングラスで飲む方がグラスに伝わる体温を最小限に抑えられ、ワインが暖まるのを防ぐことができるという知識を得る第一段階があります。

その知識を持って、ホームワインで届いたワインをワイングラスで飲む第二段階に移せたら、少し進化した感じがしませんか?

たしかに、ワインを飲む前に香りを楽しんだり、口に5秒以上含んでから飲む方いますよね。ワインに詳しいんだなという印象を受けます。

そういう知識の1つ1つが生活に浸透していくことで、他の人にも布教できるようになると自分自身の成長を感じることができますよね。

そしてさらに、受動的に知識を得るだけではなく、自発的に求める行動変容の第三段階へ移行していきます。

自発的に行動変容を求めるとは、具体的にどういうことでしょう。

たとえば、ワインの香りや味について説明を受けてから飲むのと、説明を受けないで飲むのワインだと飲んだ後の印象って変わりませんか?

そこからさらに一歩踏み込んで「この香りは10~20年熟成すると、草原のような香りから森の奥深くに進んだような腐葉土みたいな香りに変わっていきます」と聞くと、同じワインなのに香りの変化があるのかと興味が出てきますよね。

そこから、ワインに興味を持ち、1本でもボトルを購入して自宅で10年くらい寝かしておこうかなと思ってくれたら、それは自発的な行動変容になりますよね。

なるほど…自発的な行動変容へ移行するための、第二段階から第三段階への流れは言うは易く行うは難しいと思っていまうのですが、ホームワインではどのような工夫をされているのでしょうか。

たとえば、ワインは飲む順番によっても印象が変わります。

最初に飲むワインは味わいにインパクトがあったり、バターやパイナップルなど香りが強く特徴のあるワインだと印象が分かりやすいです。そして次に、少し香りが複雑で高価なワインや、味がおとなしめのワインを飲むとより違いが際立つんです。

ワインは香りや味など変数が多いんですね!

そうなんです!たとえば、原料が同じチーズでも、牛や羊などの動物の種類と製法の違いで味も見た目も変わります。ワインも同様で「葡萄の土壌の種類」と「葡萄の種類」、「製法」や「天候」などでも味がわかるくらい、とても変数が多いんです。それが、ワインを楽しめるポイントともいえますね。

しかし、それは同時にどこから始めればいいのか分からなくなるという、ワインで躓きやすいポイントでもあります。

確かに、第一段階から第二段階で楽しさよりも難しさを感じてしまうと、挫折してしまいそうです…!

数学も算数を学んでから、二次方程式を学びますよね。だからホームワインという教育サービスを通じて、どの順番で学ぶかがとても重要なんです。

なるほど!知る順番を整備することで、得られた知識を活用できるようになり、それが気づきに繋がると…!

どこで興味を持つかや、伝わりやすい方法も人それぞれです。そのため、知識を得る順番に加えて、伝え方も工夫しています。

学習コンテンツの動画も伝え方の工夫の1つです。ワインの楽しみ方を感じてもらえるきっかけを色々と用意をしておくのはサービス側で準備しておきたいですよね。

画像引用元:ホームワインホームページより

各段階のユーザー心理を理解した設計に目からうろこです…!「好きこそものの上手なれ」という状態にするということですよね!

そうです。ワインボトルをただ販売するだけでは、誰かにおすすめされた ワインを買わされただけになってしまい自発的な行動にはなりません。

そのため、受動的に届くホームワインの瓶詰めのワインではなく、自分でワインボトルを購入することで自分で好きなワインを判断して、購入を決めているという自発的な行動に変えることがポイントです。

その結果、ワインを飲んでいなくても、普段の生活にワインが目に入るようになります。そうすると「そろそろ、ワインセラーを買ってみようかな」などの様々なニーズ喚起に繋がります。

そのタイミングで6本収納のワインセラーをおすすめすることもできます。その後、ワインセラーが6本すべて埋まると、ワインの趣味も広がってきている状態なので12本収納の大きなサイズはどうですか?とクロスセルにもつなげることができるんです。

おお…すごすぎて、今、鳥肌が立っています!

ワインはなんとなく難しくて、よくわからないものにしてほしくないという想いがホームワインを始めた理由でもあります。だからワインの全てを理解する必要はないと思っていて、ワインボトルを買ってみるとか、ワイングラスやワインセラーを買ってみるなどワインが趣味になっていくことがなによりも重要なんです。

大事なのは、買うまでの気持ちの盛り上がりや自分で決めてもらうプロセスです。だから、そのためのきっかけづくりができるサービス設計は今も試行錯誤しています。

全344ページに及ぶワインバイブル(画像引用元:ムワインさま)

なるほど!ここまでお話をお伺いしてきてホームワインが他のサブスクリプションと一線を画す理由がなんとなく言語化されてきた気がします!

ありがとうございます! 正直な話、ワインバイブルや動画をここまで手の込んだコンテンツにしたからと言って売れるわけではないんです。

しかし、「ワイン好きを増やして、ワインが趣味と心から言えるようになる」というホームワインの掲げるビジョンを叶えるためには必要なコンテンツだと考えています。現行のワインバイブルも数千人のお客様のフィードバックを基にパワーアップした第二版にリニューアル予定です。

ホームワインが考える日常に溶け込むラグジュアリーとしてのサービス設計と工夫

コンテンツへのただならぬこだわり以外に、サービス全体のブランディングで意識している点はありますか?

人によってはホームワインの100mLのボトルが割高に感じられる方もいらっしゃいます。しかし、捉え方によっては、家にワインがあることで日常が豊かになるだけではなく、大人の余白を感じることができるとも言えます。それを私たちは「日常に溶け込むラグジュアリー」と表現しています。

ソムリエ試験用のワインスクールは合否結果が全てですが、ホームワインは学んでいる瞬間や面白いと思ったり楽しんで学ぶプロセスを大事にしていきたいんです。

ホームワインのサービスを外から見ている時には、ソムリエの方々やワインのクオリティなど「本物」を意識されている印象でした。しかし、サービスの本質はそれだけではなかったのがとても面白いです…!

ホームワインを同名義で2箱で契約されている会員さんにアンケートを取ったんです。

その会員さんは、夫婦でホームワインを続けてくださっていて、ホームワインを通じての知識はもちろん、夫婦で学んでいる時間や空間に価値を感じてくれているようでした。

すてきな話だぁ…!

仮に、ホームワインを5ヶ月継続したとしても1ヶ月1時間のオンラインスクールで魔法のようにワインについて話せるようにはなるわけではありません。

ホームワインの提供している価値は、学んでいるときの空間や時間などをコミュニティ内外の人と共有して楽しんでもらうことです。レストランでホームワインで覚えた単語を実際に使うことができた喜びなど日常のちょっといい感じの瞬間を感じてほしいです!

その1つ1つの体験の積み重ねがワインの敷居の高さを下げて、多くの人に楽しんでもらえるきっかけになってくれたら私も嬉しいです!

成功事例に学ぶ!小さな成功から大きな1人勝ちへの道

ここまで、考え尽くされたサービス設計に脱帽です。D2C未経験の岡前さんがホームワインのサービス設計にともない参考にしたサービスはあるのでしょうか。

参考にする際も「マーケティング」と「プロダクト」それぞれの側面があると思っています。

ホームワインにおけるマーケティング的側面は、プロの人が選んだ品質保証やサービスの信頼性が該当します。

たとえば、「Apple」などプロダクトやブランド力が強すぎる場合はApple製品であることが「信頼性」になるのでわざわざマーケティングを行わなくても売れるんです。しかし、ブランド力のないブランドはマーケティングをやらないと売れないですよね。

たしかに…。すると、参考にされるサービスはどのように選定されたのでしょう。

まずは、業界として市場規模が大きく、宣伝に多くの広告費をかけている業界を調べました。宣伝に多くの費用を投資している業界であれば、その分のたくさん知見を持っているはずだと考えました。

もちろん見よう見まねなので、クリエイティブのクオリティは高くはないかもしれません。しかし、たとえ8掛けのクオリティでもニッチ市場で横展開することで1人勝ちすることができると思っています。

巷には多くの成功事例がありますよね。しかし、「成功したのは大手企業のプロモーションだからでしょ?」と自分事化できない企業も多いと思います。一方、岡前さんは横展開したり、成功から学ぶ姿勢を感じるのですが、そこの違いについてご自身ではどのように考えられますか?

私たちも、全ての施策が成功しているわけではありません。しかし、Lステップやタクシー広告などのいわゆる、トレンド施策というのはお客さんや媒体などのステークホルダーが喜んでいるからトレンドになっていると思うんです。

つまり、「大手だから成功している」という思考ではなく「喜んでいるステークホルダーが私たちにも該当するか」で判断しています

考えなしに同じことを真似してもうまくいく業界と失敗する業界があるのは当たり前です。自社サービスのお客さんの気持ちや、業界に合うかを確認した上でチャレンジすれば自分ごと化もしやすくなるのではないでしょうか。

ただ「成功を真似る」のではなく「なぜ成功しているのか」まで突き詰めて考えるということですね!ちなみに、うまく行かなった施策についても可能な範囲でお伺いしてみたいです…!

マンガ広告ですね。まだ、一部では活用しているのですが、獲得広告においてはホームワインのお客さんよりもマンガを読みたいユーザーが混ざって広告配信の最適化が上手く機能しなくなったのは反省でした。

しかしマンガ広告が悪いというわけではなく、活用の仕方次第だと思っています。多くのユーザーにアプローチできるメリットはあるので、ブランドの認知を広げる目的であれば効果的な活用もできると考えています。

 ニッチ市場では、あまり認知目的で広告を出稿するイメージが湧かないのですが、ホームワインではどのような戦略で進められているのでしょうか?

仰る通り、認知を積極的に取りにいく必要性を現在は考えていません。

ホームワインは年齢、性別関係なく全ての人が対象になるサービスではありません。だから、バス停のポスターや渋谷駅の看板など幅広い層に認知を取ったところで買ってもらえないと意味がないんです。

購入目的において、サービスユーザーとは異なる層の認知やその後の検索のクリックに費用をかけるのはもったいないなと。つまり、広く浅く多くの認知を獲得しているよりは、同じ人に複数媒体で繰り返しアプローチを行い認知から購入までを促すことが大事だと考えています。

 「もったいない」という言葉が出てくるのがとても印象的なのですが、運用型広告の領域も岡前さんが見ていられるのですね。

お客様のために払う費用ならいいですが、広告などの宣伝費用はお客さまから頂いた利益の再投資です。

そのお金があれば、教育コンテンツの改善やお誕生日の方にワインボトルプレゼントすることもできます。それをせずに、宣伝費に費用を投資しすぎるのは既存のお客様を顧みてない行為に感じてしまうんです。

だから、できるだけ広告宣伝費は少なくサービス改善に投資を回せるようにできる努力はこれからもしていきたいですね。

聞きながら涙が出てきそうになりました…イイハナシダ。

個人的には、最初から長く買い続けてくれる方が得をするなサービスにできるといいなと思っています。しかし、BtoCサービスだと長く使い続けている方への還元を意識したサービスは多くはないと思っていてそれがすごく悲しいなと。

だからこそ、それを岡前さんは体現していきたいということですね…!

間違いないです。ホームワインでは「学びたい」という好奇心が、入会資格です。

骨を全て取り除いた状態で、頭から尻尾まで魚が食べられる状態のように、ワインに興味を持った人が然るべきステップを踏めるようなサービスにできるようこれからも精進していきます。

編集後記

COMMERCe+初の二部構成でお送りした今回のインタビュー。一流のプロダクトにもかかわらず、プロダクトを売らない考え方から、権威性をもつ提携先を増やし、獲得数を積み上げる広告戦略までを文字通り、根掘り葉掘りお伺いしました。

輝かしいホームワインの実績に基づく試行錯誤の数々は、ニッチD2Cで愛されるコミュニティを作るために石橋をこれでもかと叩いて渡る岡前さんの姿勢はインタビュー前に抱いていたイメージを大きく覆すエピソードの数々。

しかし、ここまで隙のないサービスを設計した岡前さんはD2C未経験者と言うから驚き。成功の秘訣として、マーケティングとプロダクトの側面からサービスを分析し、成功者を徹底的に真似る姿勢をご自身で挙げられていたのが印象的でした。

また、岡前さんの興味深い戦略として、トレンドに振り回されず、大手企業の真似ではなく「なぜ成功しているのか」を突き詰める姿勢が、本当の意味での顧客貢献なんだと改めて感じます。

インタビューでは、広告運用など詳細にお伺いしましたが、岡前さんがお客様のために大切にしている思いや、サービスの向上にどのように投資しているのか、その姿勢を伝えることができたらとても嬉しいです。

インタビュー第一弾はこちら🔽

文 :杉山 美和
写真:村上 裕紀
画像提供:ホームワインさま

トップにもどる