大切なのは「お店からの信頼」と「ユーザー体験」。宅麺.com 創業者・井上琢磨さんに聞く「ラーメン屋さんの未来」と、コロナ禍で過去最高の売上を達成するまでの軌跡

井上 琢磨さん

1975年生まれ。創業間もないサイバーエージェントにインターンを経て入社。同社の子会社として株式会社トラフィックゲートを立ち上げ、2003年から取締役を務める。2010年に独立し、野間口兼一氏と共にグルメイノベーション株式会社を設立。国内最大級のラーメン通販サイト「宅麺.com 」を立ち上げ、その運営のほか、複数の新規事業を手掛けている。

立ち上げ時の試行錯誤と、2020年コロナ禍における大躍進。宅麺.comのこれまでを振り返る

井上さん、本日はよろしくお願いいたします。私自身、宅麺.comは長年利用していて、昨年新型コロナのタイミングから在庫が一気になくなり出した流れも拝見しており、すごく気になっていました。今回このような形で取材させていただけて非常に嬉しいです。

井上 琢磨さん

ありがとうございます。こちらこそよろしくお願いします。

宅麺.comの存在を最初に知ったときは、「なんて素敵なサービスなんだ…!」と衝撃を受けた覚えがあります。サービスのコンセプトについて教えて下さい。

井上 琢磨さん

「お店のラーメンの味をそのままご自宅にお届けする」がコンセプトです。ラーメン屋さんで実際に提供されているスープ、麺、具材を冷凍してそのままお届けしており、簡単な調理をしていただくだけで、お店の味が自宅で再現できます。

とは言っても、本当にお店と同じ味だと思っている方は少ないのではないかと思うんです。なのでその分、実際に食べていただいた時に「なにこれ、本当にお店と同じじゃん!」とびっくりしてもらえる方も多いです。その驚きの新鮮さや、強烈さがサービスの強みになっていると思いますね。

サービスを立ち上げる際、「ラーメン」を選んだ理由は何なのでしょうか?

井上 琢磨さん

宅麺.comを立ち上げたのは、今から11年ほど前です。当時、在籍していた会社からの独立を考えていて、ビジネスモデルについて色々と模索していた時期だったんですね。ちょうどその時、「なんでんかんでん」や「大勝軒」がお持ち帰り用のラーメンを販売しているのを見て、そこからアイデアを得ました。

仕事終わりにお持ち帰り用のラーメンを買って家に帰ったりすると、母親にすごく喜ばれたんです。そこで気がついたのは、「家庭に入った女性はおいしいラーメンを食べる機会が非常に少ない」ということでした。当時、「女性は家庭に入るもの」という考えがまだ一般的だった時代の話です。日々の食事の用意をしなければなりませんし、外食しようと思っても、小さな子どもがいるとラーメン屋には足を運びにくい。これはひょっとしたら、女性にとって「ラーメン」がすごく遠い世界の食べ物になっているんじゃないか……と思いました。

しかし、それぞれのラーメン屋さんが通販を始めたところで、成り立つ見込みはない。だったら、それをまとめたサービスを作ることでビジネスになるんじゃないか、そう考えました。

中高の同級生に野間口という男がいて、ビジネスの相談を度々していました。彼に今の考えを話してみたところ、「それいいね!」という反応が返ってきて、彼と2人でグルメイノベーションを設立し、宅麺.comを立ち上げることにしたんです。

そんなエピソードがあったんですね!サービスを立ち上げる中で苦労されたことはありますか?

井上 琢磨さん

最初は、ラーメン屋さんとの提携を結ぶのに苦労しました。職人気質な店主の方に「ラーメンをネット通販で売るんです!」と言っても理解してもらえないことが多くありましたね。

ラーメン屋さんとの関係構築は野間口が担当していたので、彼も相当苦労したと思います。店舗に足繁く通い、「ここのラーメンをウチで取り扱わせてください!」というお願いをして回りました。ときには子どもを連れて行って、「パパー、このラーメン、宅麺でたべたーい」と言わせたこともあったり(笑)そんな努力が次第に実を結び、商品を卸してくれるラーメン屋さんが増えていきました。

(笑)(笑)(笑)

卸しが成功すると、次は実際に商品を売るフェーズに入っていくかと思います。当時は今に比べるとEコマースの認知度も低く、色々と難しい状況だったかと思うのですが、どのようにして事業を軌道に乗せていったんでしょうか?

井上 琢磨さん

初期はフラッシュマーケティング(※1)を活用しました。結果として、ある程度の認知獲得と、まとまった売上を得ることができたのですが、手法の性質上、リピーターになってくれる人が少ないというデメリットもありました。

(※1)フラッシュマーケティングとは商品やサービスの提供にあたり、割引価格や特典がついたクーポンを期間限定でインターネット上で販売する手法


参考:フラッシュマーケティングとは?

フラッシュマーケティングに関しては、利用者にクーポンハンター的な人が多く、リピーターが獲得しづらいという話は私も当時よく耳にしました。

井上 琢磨さん

その通りの状況に陥ってましたね。あとは、価格と送料のモデルに問題があって、利幅が少ないという問題を抱えていました。当時は他の食品通販にならって、「販売価格は店頭と同じ」「送料・梱包料は一律。◯円以上で無料」という料金体系にしていたんです。しかし、このモデルだと利幅が少なく、売っても売っても儲からない。

考えてみれば当たり前のことじゃないですか。そもそも、送料は発送する量が増えるにつれて上がるものです。その上、当時、クール便の送料値上がりもあって、このままでは立ちゆかないな、と判断しました。

そこで、「梱包費を含めた販売価格」「基本送料+一食ごとの送料」という現在の料金体系に変更しました。

価格が上がったことで、売上に悪影響はなかったのでしょうか?

井上 琢磨さん

いえ、これはむしろ良いことのほうが多かったです。サービスへの理解があるお客様がきちんと残ってくれました。また、利幅が増えたおかげで、物流システムなどの整備に投資する余裕が生まれたんです。

物流システムに関しても、最初は外注していたものを、一度自分たちで引き受け、オペレーションを確立してから再度外注にした、という経緯があったりします。そういった地道な試行錯誤を重ねていくにつれて、事業が軌道に乗っていったのではないかと思いますね。

ちなみに、黒字化するまでには4年かかりました。その後はずっと黒字経営を継続出来ています。

事業が軌道に乗るまでに様々な苦労とトライアンドエラーがあったのですね。

5年目以降黒字経営を続け、11年目にあたる2020年は、コロナ禍における成長が目覚ましかったと思います。改めて振り返ってみるといかがですか?

井上 琢磨さん

業績は急速に伸びましたが、一方で大変な年でもありました。

大変だったことというのは?

井上 琢磨さん

1回目の緊急事態宣言が出た昨年の4月ごろ、あるメディアで「ラーメン屋の救世主!」的な取り上げられ方をしました。それがきっかけで、テレビの取材依頼が20件くらい一気に来たんです。その後、サイトへの注文が殺到しました。

そして、注目度が高まった状態のまま、4月末開催のオンラインイベント「ラーメン祭り」に突入したんです。イベント期間でサーバーはパンク。倉庫のオペレーションも完全に破綻してしまいました。オペレーションを立て直すのにけっこうな時間がかかりまして、その間は気が気じゃなかったですね……。

まあ、そういった困難もありましたが、結果を見ると、1年で会員数は倍増、年間販売数は前年比179%増など、今までとは比べ物にならない成長を遂げることができました。いきなり脚光を浴びて戸惑うこともありましたが、まさに転換期と言える時期でしたね。

成長の陰で、大きな困難を乗り越えられていたんですね。

ユーザー体験を向上させる取り組みと、ラーメン屋さんに選ばれる理由、「独自性」が持つ強みについて

実は先日、宅麺.comでラーメンを注文したのですが、異なる2店舗の商品が同時に届いて驚きました。物流はどのような仕組みで管理されているんですか?

井上 琢磨さん

現在は、ラーメン屋さんからあらかじめ買い取った在庫を自社の倉庫で管理し、注文に応じて発送する仕組みをとっています。

あらかじめ買い取っているんですか!

井上 琢磨さん

そうですね。以前はサイトでの注文があった時点でラーメン屋さんに発注し、出来た商品を受け取ってから発送する仕組みでした。ですが、この方式だと注文してから実際に届くまでおおよそ2週間くらいかかってしまうんです。お客様からすると、忘れたころに冷凍のラーメンが家に届く(笑) これはユーザー体験として良いものではないですよね。

ですが、今の方式に変えてからは、お届けまでの期間を大幅に短縮することができています。結果として、ユーザー体験が向上し、リピート率も大きく伸びました。

なるほど。「食べたいときに食べられる」という体験がユーザーの満足度にもつながっているわけですね。他にもユーザー体験向上に向けた取り組みがあれば是非教えてください。

井上 琢磨さん

そうですね……今までの話を聞いていれば分かる通り、わりと穴だらけだったサービスなので、それをひとつひとつ埋めていっている、というのが正直なところです。

ユーザー体験向上の取り組みとしては、詳細な作り方を記したリーフレットを商品に同梱しています。これによって、より高いクオリティでお店の味を再現することができます。また、アンケートで商品の細かいところまで踏み込んで質問することで、質の高いフィードバックを得られるようにしています。

あとは、ラーメン屋さんになるべくキレイな形で冷凍してもらうようにお声がけをしたりはしていますね。冷凍の仕方で商品の見栄えが決まるので、「お店の評価にもつながりますよ」ということで、気をつけてもらっています。

細かい改善の積み重ねが、お客様からの支持につながっているんですね。

ちなみに、今まででインパクトがあった施策があればお伺いしたいです。

井上 琢磨さん

入荷通知メールですね。販売数が大きくアップしました。

入荷通知メールですか!?詳しく聴かせてください。

井上 琢磨さん

施策としては、登録しておくと商品が入荷したタイミングでメールが飛ぶ、というものです。私達の商品は、ラーメン屋さんの余剰生産能力を使って提供してもらっている商品です。その為、「入荷のタイミングが完全には読めない、安定しない」傾向があります。商品によっては、ユーザーの需要に入荷量が追いついていないものもあるんですよね。こういったこともあり、導入前までは、「買いたいのに買えない」というケースが多発していました。

ですが、そういった場合でも、入荷通知に登録しておくと入荷時にメールが来るので、ユーザーは欲しかった商品を購入できるようになります。その時に、他の商品もカートに入れて注文していただけることも多いので、ユーザー1人あたりの購入回数が伸び、全体の販売数もアップしました。

なるほど……!たしかに某大手アパレルサイトでも入荷通知を導入したことで、大きく売上が伸びたという話を聞いたことがあります。

ちなみに、購入をしやすくするという意味では、Amazon Payを導入したことでCVRが大きく改善したという事例もよく耳にします。Amazon Payの導入はされてないようでしたが、もし導入されていない理由などあれば是非お伺いしたいです!

井上 琢磨さん

優先度は高くないですね。自社開発の為、カートシステム的に導入ハードルが高いという事情もありますが、扱っている商材に独自性があるので、そこで差別化しなくてもよいと考えています。

宅麺.comには、宅麺.comでしか買えない商品がたくさんあります。もしこれが他のサイトでも買える商品を扱っている場合、Amazon Payなどサイト面での差別化を考える必要がありますが、商品に独自性がある場合は、それだけで購入する理由になるので、その必要はないと考えています。

すごく正しいお考えだと思います。「そこでしか買えない」商品があるサイトはどんなカートやフォームでもユーザーが突破してくれるんですよね。我々もさまざまなクライアントのデータを拝見しながら痛感しています!

井上 琢磨さん

そうですね。余談になりますが、佐野プレミアムイタリアンという、Facebook上で和牛の塊肉を売っている肉屋さんがあるんです。購入方法はというと、Facebookの投稿に「はい!」とコメントした先着順なんですよ(笑) 

通常のEコマースからするとかなり無茶苦茶な売り方ですが、高級肉を破格の値段で買えるという独自性があるので、毎回一瞬で完売します。こういう例を見ていても、商品に独自性があれば、フォームや買いやすさは関係ないんだなぁ、と感じます。

ちょっと極端な例ですが(笑)でも本当にそれは間違いないと思います。

「もっと儲かってもらいたい」井上さんが思い描く宅麺.comとラーメン屋さんの未来

「宅麺.comでしか買えないラーメンがたくさんある」とのことでしたが、それはつまり「宅麺.comにしか卸さない」というラーメン屋さんが多いということだと思います。そういった形で「ラーメン屋さんに選ばれている」理由は何だと思いますか?

井上 琢磨さん

そうですね……。特にこれといって「選ばれるために何かをした」というのは無いんですが、10年あまりこの事業をやってきて、ラーメン屋さんとのリレーションは一番大切にしてきた部分です。ラーメン屋さんの利益や満足度というのは常に考えながら動いてきましたし、そういったことを考えながらひとつひとつ誠実に対応してきた結果として、信頼をいただいているのではないかなぁ、と思いますね。

「ラーメン屋さんとの信頼関係」は当社の事業にとって一番大きなアセット(資産)なので、これからも大切にしていきたいです。

在庫をあらかじめラーメン屋さんから買い取っている、というのも信頼につながっているのではないかな、と思います。

先日発表されていた「G系専用ダイエットサポート ナシナシ」は、「ラーメン屋さんと共に歩んでいくんだ」という思いを感じて非常に感動しました。こちらを開発された流れについて教えて下さい。

井上 琢磨さん

「ナシナシ」は、ラーメン屋さんのレジ横商品として開発したダイエットサポート食品です。二郎系をはじめとした高カロリー・高塩分のラーメン屋さんの店頭に置いてもらうことで、客単価の向上が望めます。

作った理由としては、やはり「ラーメン屋さんにもっと儲かってもらいたい」というのが一番大きいですね。

やはりそこなんですね。

井上 琢磨さん

はい。今、日本全国で約4万店舗のラーメン屋さんがあって、そのうち10%が毎年潰れて入れ替わると言われています。その上、4万店舗の中のトップ・プレイヤーといえるラーメン屋さんでも、「めちゃくちゃ儲かっている」というところは皆さんが思うよりも少ないんです。

これは非常にもったいない。おいしいラーメン屋さんがもっとガッツリ稼げるような環境をサポートしていきたい。そういう思いがあります。

たとえば、ナシナシは「トッピングを1個売るよりは利益が出る」くらいの価格で卸しています。仮に、月間5,000-10,000人訪れるラーメン屋さんがあって、その内の10%がナシナシを買ってくれたとしたら、だいたい5-10万円の利益が上乗せされます。ご夫婦で経営されているような店の場合、月に5-10万円が手元に残るだけでも大きいと思うんですよね。そういった状況の実現を目指して商品を設計しました。

ラーメン屋さん、お客さん、宅麺.comさん、誰も損をしない商品ですよね。まさに近江商人の三方良し。嫉妬するくらい素晴らしいコンセプトだなぁ、と思って見ていました。

サポートの取り組みとして、店舗への送客施策なども行われているんですか?

井上 琢磨さん

はい。ラーメン好きの方は、店舗の雰囲気なども含めて「”本物”を味わいたい」という方が多いので、送客施策とは相性がよいと思っています。

井上 琢磨さん

効果が大きかったのは、アニメ作品とのコラボ企画ですね。「ご注文はうさぎですか?」という作品とコラボしたときは、店舗限定のグッズを用意して、送客効果を狙いました。対象店舗は全国各地にあったのですが、3日でコンプリートした猛者も現れたりして、驚きましたね。コアなアニメ作品はファンとの結びつきが強いので、そのぶん送客効果も高いと感じています。

なるほど。魔人豚さんもインタビューで「宅麺きっかけの来店も多い」とおしゃっていましたし、送客効果は十分出ていそうですよね。

定期的に掲載されるラーメン屋さんのインタビュー記事も、送客施策の一環なのでしょうか。

井上 琢磨さん

それもありますが、双方にとってのプロモーションと捉えています。インタビュー記事が店舗に足を運ぶきっかけになればそれは素晴らしいことですし、我々としても、コンテンツが増えることでSEOに強くなるというメリットもあります。

「食べる」という体験は、モノを食べるということだけではなくて、その背景にある情報、雰囲気、ストーリーなども含めた体験だと考えています。インタビュー記事は、まさにストーリーの部分を強化できるコンテンツなので、そういった意味でも、ラーメン屋さんと宅麺.comの双方にとってメリットがあると思いますね。

ラーメンは他の食べ物と比べても、「ストーリー」の部分が強いので、相性が良さそうですよね!

ラーメン屋さんの収益をサポートしていく取り組みは他にも考えられていますか?

井上 琢磨さん

レジ横商品もその一環なのですが、ラーメン屋さんの収益ポートフォリオを増やしていきたいな、と考えています。将来的には、ライセンスと受託販売の仕組みを作っていきたいです。我々でセントラルキッチンを作って、そこで宅麺.com用のラーメンを製造し、ラーメン屋さんにはライセンス料をお支払いする、といったような形をイメージしています。

おお、セントラルキッチンとライセンス契約ですか!店舗に立ってラーメンを売ること以外に収益を得られる道が出来たら、大きな変化になると思います。

井上 琢磨さん

そうですね。ラーメン屋さんでその仕組みが上手く行けば、他の業態にも展開できると思います。

「宅うどん」「宅カレー」も出来るのか?食品Eコマースの今後と、これからビジネスを始める人へのアドバイス

今後の展望として、ラーメン以外の食品のEコマース化ということは考えられているんですか?

井上 琢磨さん

現時点ではあまり考えていないですね。「宅うどんやらないんですか?」「宅カレーは?」というご相談は度々いただくんですが、基本的にはむずかしいと考えています。

ラーメンに比べて、他の食品は自宅とお店のクオリティの差が少ないからです。「家で作ったうどんと店のうどんの味がどのくらい違うか?」と考えたとき、もちろん違いはあれど、ラーメンほどの差ではないでしょう。こういったこともあり、お店のうどんを冷凍して送ったとして、「この味が家で食べられるなんて!」という驚きが少ないと思います。

ただ、現時点ではむずかしいと思っているというだけで、将来的には他のジャンルも伸ばしていきたいと考えていますね。コロナをきっかけに人々の行動は大きく変容しましたし、それに合わせたビジネスをやっていかなければならないと考えています。

コロナがもたらした変化は大きいですよね。

この1年でEコマースの需要が大きく伸び、これからEコマースビジネスを始めようという人も増えていると思います。そういった人に向けたアドバイスはありますか?

井上 琢磨さん

そうですね。Amazon Payのところでお話したことと重なるんですが、商材の独自性を追求することが重要だと思います。「サービスのブラッシュアップの前に、商材のブラッシュアップを」という考えは、頭の中に置いておくと良いかもしれません。

今からEコマースを始めるのであれば、他に競合のいないニッチな商材を選ぶのがベストかな、と思います。競合がいる場合、サービスのレベルや使い勝手で勝ち負けが決まってしまうのがEコマースの世界です。そういう状況だと、競合に負けないようにサービスをどんどんブラッシュアップしていかなくちゃならない。

ですが、他に競合がいなくて、商品に独自性がある場合は、その必要がないんです。「ここでしか買えない!」という独自性があれば、サービスの形がどんなものであれ、ユーザーは買ってくれるからです。「サービスのブラッシュアップの前に商材のブラッシュアップを」というのはそういう意味です。

まず最初に商材の独自性を高めることが、その後を勝ち抜く力になるということですね。

Amazon、Yahoo!、楽天などモールへの出店についてはどう考えられていますか?

井上 琢磨さん

モールに出すんだったら、初期投資が少なく、かつそこで構築した顧客資産が本店でもきちんと活用出来るところを選びますね。そういった意味で、Yahoo!やAmazonなんかは良いと思います。

Eコマースを始めようとしている10年前のご自身にアドバイスするとしたら、どんなことを伝えますか?

井上 琢磨さん

立ち上げ当初、EC-CUBEを使っていましたが、当時の機能では制約も多かったので、早期に自社システムに切り替えました。それからはずっとそのシステムを使っています。ただ、フルスクラッチでの開発だったので、上手くいかないことも多々あり相当苦労しました。細かい改善は今でも継続していますが、10年前の自分にアドバイスするとしたら「カートシステムを使え!」と言いたいですね。最初からスクラッチ開発は苦労するのでやめたほうがいい(笑)それこそ、今は色々便利なカートシステムのサービスがありますし、機能も充実している。出来ることのレベルもどんどん進化しているので、利用しない手はないと思いますね。

カートとモールを併用して、基本となる仕組みをきちんと整えてから、それに合わせて業務をどう構築するかが大切だと考えています。逆に、業務に合わせてシステムを構築するのはナンセンスだと思いますね。

では、最後の質問です。10年前に戻ってまた起業するとしたら、同じようにEコマースをやりますか?

井上 琢磨さん

たぶん、やらないかなぁ(笑)

自分の性格的に、立ち上げが好きというか、0を1にする部分が好きなんです。なので、また起業するとしたら、ぜんぜん違う、新しい領域に手を出すんだろうなぁという気がしています!

 

 

編集後記

取材前の井上さんのイメージとして、「ラーメンのEコマース化という奇抜なアイデアで成功した破天荒な起業家!」という印象を抱いていました。しかし、実際にお会いしてお話を聞いていくうちに、ラーメン屋さんとお客様に対して誠実に向き合い、こつこつと改善を積み上げられてきた方なんだな、とわかりました。

新型コロナウィルスの流行によって人々の行動が変容する中で、宅麺.comというサービスが多くの人の支持を集めたのは必然なのではないかと個人的に捉えています。「普通ならお店に足を運ばないと食べられないラーメンが、家で食べられる」というコンセプト自体が時代のニーズを満たしていますし、井上さんがこれまで築いてきたラーメン屋さんとのリレーションや、高水準のユーザー体験は、他のサービスとは一線を画していると思うからです。2020年における宅麺.comの急成長は、食品通販業界のみならず、飲食業界全体に広く影響を与えていくのではないでしょうか。まさに、グルメイノベーション=飲食における革新という社名を体現していると言えます。

……などと偉そうなことを言っていますが、みなさんと同じように、私もラーメンが好きでたまらないファンの一人です。宅麺マガジンにも掲載されている栃木の「ハイマウント」さんは、個人的に大好きなお店で、今すぐにでも食べたいです。編集後記を書いている現在、入荷待ちで買えないのが残念ですが、入荷通知メールを楽しみに待ちたいと思います!仲の良い友人がアルバイトをしていたという思い出の店でもあるので、商品が届いたら彼とも語り合いたいですね。

インタビュー、文:安藤 和
編集:松本 涼花/阿部 圭司
写真:阿部 圭司

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