アメ横のリアル店舗経営からEコマース進出を果たし軌道に乗せた小島屋三代目店主・小島靖久さんの商売の哲学

小島 靖久さん

慶應義塾大学卒。大手企業にて、営業・営業戦略・マーケティングの部署を計7年経験。 その後、実家の会社の小島屋へ戻る。2004年にEコマースを立ち上げ、ナッツマーケットを作り上げて業界No.1へ。市場の変化・トレンドに対応した事業展開を行い、価格競争からの脱却・自社PB商品開発・自社サイトを中心とした小口BtoB通販など、事業を『大きく・さらに強く』変革している。

「Eコマースしか販路はない」リアル店舗からEコマースへの進出は、考え抜いた末のチャレンジ

小島さん、本日はよろしくお願いします。実は、私自身家族で昔から小島屋さんを利用させていただいてまして、今日をとても楽しみにしてきました。ぜひ、たくさんお話を伺えると嬉しいです!

小島 靖久さん

そうなんですね!いつもありがとうございます。お客様の前だと変なこと言えないですね(笑) よろしくお願いします!

小島屋さんはもともとはアメ横の歴史あるリアル店舗をお持ちのショップですよね。お店には私も何回か母親に連れられて訪れた記憶があります。リアル店舗をすでにお持ちの中で、なぜEコマースを立ち上げようと思ったのですか?

小島 靖久さん

Eコマースを始めたのは、売上の拡大に向けた販路の開拓のためです。

場所が定められており、通行人数に左右される店舗だけだと、売り場で優秀な人材がどれだけ頑張っても、売上にそこまで大きな振れ幅は起こらないのが実情です。店の前を通るお客様を呼び込むのも大事ですが、指名買いで来ていただいているお客様も多いということもあって、いくら優秀なスタッフでも1日に今の売上から+10万をするというのは簡単ではないんですよね。

そこで、店舗以外の場所でも売上を作ろうと、別の道を模索し始めました。一度卸しの営業もやってみたんですが、発注される量が決して多くは無くてうまくいきそうにもないし、これはもう消去法で考えて、拡大できる場所としてはネットしかないな、と思ったんです。

なるほど。消去法で決められたということは、小島さんには最初からEコマースで売上を拡大していく未来が見えていたというわけではなかったのですね。

小島 靖久さん

はい、Eコマースを始めた当初は、まだ成功の確信はなかったです。うまくいくかわからないけれども、とりあえずやってみよう、という感じで始めましたね。

そうだったんですね。実際に今運営されているEコマースのコンセプトについても教えてください。

小島 靖久さん

実は、Eコマースを始めた当初のコンセプトと今のコンセプトって違うんですよね。なので、この質問を受けると毎回ちょっと困っちゃいます(笑)Eコマースを始めた2004年当初は、とにかく「売上を立てられるか?」が重要でした。

商品ページに商品の情報をたくさん書いたのも、当時は他に商品情報を充実させているお店があまりないのに気づいたことがきっかけです。アーモンドを売っていたら「アーモンド」とだけ書いてある、いやいやそれ結局何も書いていないのと一緒じゃん、みたいなお店が結構多かった。そこで、せめて情報をちゃんと書くことがほかショップとの差別化になるかな?と思って書き始めたんです。

そうしたら、「読み応えありますね」とか「情報豊富ですね」という感想をもらうようになりました。正直なところ、「当たり前のことしか書いてないのに褒められるのはなんだか恥ずかしいなぁ」という感覚で。だったらもっと詳しい情報を増やしていけばいいんじゃないかと思って、商社の方とやり取りする際にこれまで聞いていなかったことも聞くようにしてみたんです。そうしたら、産地の情報に加えて品種、味の傾向、商品特有の特徴など鬼のように情報が増えていって……(笑)

その過程で今度は、「自分たちが専門家となって、お客様に商品のバリエーションを楽しんでもらえるショップ」というコンセプトがいいんじゃないか、と思い始めました。これがだいたい5~6年前のことです。

ラーメン好きな人が同じ醤油ラーメンだけ食べ続ける、みたいなことってなかなかないじゃないですか?同じように、例えばあんずのドライフルーツが好きなお客様でも、産地や品種が違うものがこれだけあるから違いを楽しめるよ、ということをご提案できたら素敵だなと思ったんですよね。

そして、今はそのコンセプトに加えて「ドライフルーツやナッツを『ただ食べる』だけではなく、他の組み合わせの可能性を提供していくショップ」というコンセプトを持っています。

海外の農園などを訪問した際に、現地ではドライフルーツやナッツが本当に色んな使われ方をしていることに驚いたんです。一方で日本では、そのまま食べる、で終わってしまうことが多いのがもったいないなと思いました。なので、ドライフルーツやナッツをなにか他のものと掛け算して面白いことができないか、日々模索しています。

ありがとうございます!「頑張って売ろう!」というところから、「専門的な知識をどんどん伝えていこう!」という考えに発展して、今は「更にもっと色んなバリエーションを楽しんでもらえるように掛け算をしていこう!」というコンセプトに変化してきたんですね。

小島 靖久さん

そうですね。自社ドメインのサイトを開設してから、変化はだいたい5~6年刻みだったのかなと思います。一つ一つの取組みから新しい気づきを得て、徐々に変化してきたイメージですね。

モールの価格競争を脱し、自社ドメインEコマースの拡大へ。小島屋はなぜ踏み切れたのか?

小島屋さんは、まず最初は楽天モールに出店されるところから始めましたよね。そこから自社ドメインを立ち上げた経緯について教えてください。

小島 靖久さん

2004年に楽天モールで出店を始めて、2010年頃に自社ドメインのEコマースに注力しはじめました。もともと、それまでも自社ドメインのEコマースを開いてはあったんです。ただ、そのときは被リンクを蓄積する目的で、本当に開いてあるだけ、という状態でした。

その後実際に自社ドメインのEコマースに注力し始めた理由も、これまた消去法です。まず、楽天モールの価格競争がどんどん厳しくなり、同じような業態のライバルもたくさん出てきたのがきっかけで、「モールの中では勝てないな」と思ったんです。

勝てない、と思われた理由はなんですか?

小島 靖久さん

モール、特に楽天モールで売るためのお金のかけ方としては「広告費」と「ポイント」と「値下げ」の3つがありますが、この3つのどれにお金をかけ続けるとしても、勝ち筋が見えなかったんです。

うちも最初から価格競争にまったく乗らない判断をするほど意思が強かったわけではないので、いくつか値引きのための施策をやってみました。特定の商品を期間限定で数10%下げてみたらどうだろうとか、削れる費用はないだろうかとか……。

ですが、結局、商品の値下げはやらないという結論に行き着きました。ちまちまと値下げをしてもインパクトがないし、原価ギリギリまで商品の価格を下げるのは、性に合わなくてできなかったのが理由です。

そもそも僕は「損して得取れ」という考え方を商品の価格でやりたくないんですよね。例えば、原価が1,000円で定価が2,000円の商品を、期間を区切って1,500円まで値引きするというようなやり方ならまだいいと思います。でも、原価1,000円の商品を限界まで値引きして1,000円で売ります!儲けはゼロです!みたいなことって、商品が世に出るまでに関わった人への冒涜だと思うんです。ただの僕のこだわりで、本当に気持ちの問題なんですが、なんだか嫌でできないんですよね。もうこれは僕の哲学といってもいいかもしれない。

また、他のコストを削る施策として、配送法をメール便にするというやり方があるんですが、これも一度やってやめてしまいました。メール便で食べ物を送るということがどうしても気に入らなかったんです。お客様からの評判も良くないし、そもそも送っている自分が「やっぱり嫌だよね……ごめんね……」という気持ちになってしまって。

これらを併せて考えると、価格競争が今後どんどん激化していくであろう楽天モールの中で、勝てるポイントがないことは自明でした。当時の出店先の楽天モールだけでなく、AmazonやYahoo!など他のモールに投資したとしても遅かれ早かれ同じ状況になるだろうことも容易に想像できました。

とすると、予算を投入して注力すべきなのは、私の哲学を貫くことが出来るであろう自社ドメインのいわゆる「本店」と呼ばれるEコマースの拡大しかないと思ったんです。

モールの中で傾向を見極めた上で、哲学を貫く為に自社ドメインEコマースを選ばれたんですね!

ちなみに、今もモールを完全に捨てるわけではなく両立しながらの運用をされていると思いますが、今、自社ドメインEコマースとモールの売上のバランスはどうなっていますか?

小島 靖久さん

今だと、自社ドメイン:楽天:Amazonでだいたい1:1:1くらいです。

リアル店舗を含めても、今はリアル店舗:自社ドメイン:楽天:Amazonでちょうど1:1:1:1くらいの比率でしょうか。今はコロナ禍でアメ横の人通りも減っていることもあって、リアル店舗の売り上げは少し下がっているのが実際のところです。コロナ前だと、おおよそ1.7:1:1:1ほどの比率でしたね。

それぞれのEコマースの売上を合わせると、リアル店舗よりも大きな売上になっているのが驚きです!

小島 靖久さん

そうですね。今となっては、小島屋としてもEコマースは欠かせないピースになっています。

自分がやられて嫌なことはしない。「丸投げ」してもうまくいく、外注先との付き合い方

自社ドメインのショップが軌道に乗ったと感じたタイミングはありましたか?

小島 靖久さん

5~6年前に自社ドメインEコマースのサイトリニューアルをコンサルティング会社さんに丸投げでお願いをした段階で「あ、本店だけでもそれなりにいけるな」と感じました。軌道に乗り始めた、というようなイメージです。

ただ、じゃあ具体的にサイトリニューアルの何が良かったのかと言うと、わからないんです(笑) なにせ丸投げをしていたので。

(笑)(笑)(笑) 本当にすべてを依頼されていたんですね。

小島 靖久さん

なんだか構造設計というものをやってもらったみたいです(笑)

サイトリニューアルをする前の自社ドメインEコマースは、楽天モールに出店していたショップの内容をそのまま貼り付けていたような状態でした。コンテンツ自体は楽天に出店していた状態でかなり充実していたそうです。そのコンテンツたちを、コンサルティング会社の方が検索エンジンが理解しやすいようにうまく設計し直して出してくれた、という感じでしょうか。

お話を伺っていると、外注の会社さんとうまく付き合われているな、ということを感じます。Eコマースって、どこかのタイミングで内製に入っていくパターンが多いと思うのですが、小島屋さんは完全に外注に振り切っていますよね。ここまでいい意味で「丸投げ」をされるショップさんって珍しいです。小島さんの考える、外注を成功させる秘訣があれば教えてください!

小島 靖久さん

なんでしょうね?多分、人間関係の作り方なのではないでしょうか。

ちょうど先日も、物流倉庫の監査に立ち会おうと思って出向いたんですが、そこで向こうの社長さんに「小島屋さんが最初にしてくれたことをする人は他にいないんです。やっぱり小島屋さんって最強ですね」と言われました。これは、物流倉庫の方と小島屋の社員の最初の顔合わせの時にした「仕事相手を下に見るな」という考えの共有についてのお話でした。

まず、取引先と関わるときに「自分たちの仕事に関わる人達はすべて対等の関係なので、相手が動きやすい提案を相互に考えて、みんなで取り組むという姿勢を大事にしてください」「物流倉庫だからって、『取り扱ってくれ』というような態度で仕事をすることが絶対にないように」ということを記載したものを社員に配ったんです。そして同じものを取引先や物流倉庫の方にも渡して「うちはこういう方針でやっているから、何かあったら遠慮なく言ってほしい」ということを伝えました。

なるほど!社員さんに考えを共有されるだけでなく、同じ内容を取引先にも伝えているところが小島屋さんの特別なところですね。徹底した風通しの良さというか、会社間での強いパートナーシップを感じます。外注の「丸投げ」も、こうした信頼関係があるからこそできるものでしょうか?

小島 靖久さん

はい、ある程度人間関係ができてしまえば、基本的にプロに任せるという考え方でいいと思っています。プロと見込んだ方の腕があまり良くなかったら仕方ないですが……そこの目利きができさえすれば、こちらは決定だけしてあげればいいんじゃないでしょうか。

なので、僕のミーティングはほとんど提案に「OK」を言うようなものですね。「こんなことしたいんですがどうですかね」とか「こんなことできると思うんですけど」というお話をいただいては、「やってもらえますか?」と返事をしています(笑)

今年、全国ネットショップグランプリで、小島屋さんのスマホのサイトが特別賞を受賞(※1)されていました。このUIにしようという提案も、コンサルティング会社の方からのご提案ですか?

(※1)「第13回 全国ネットショップグランプリ特別賞」

一般社団法人イーコマース事業協会(EBS)の主催する「19周年記念イベント ネットショップカンファレンス2021」にて発表。

”「特に評価したいポイントは、業界全体の流れでもあるスマホ経由の注文増に対応したスマホ最適化。画面下のタブバーにメニューやログイン、初めて利用する方向けの案内などの誘導を設けており、画面上部にカゴやトップページの誘導など、LINEやFacebookといった多くのユーザーが日常的に使うスマホサービスのUIに近い設計になっている。なれ親しんだスマホ操作で、小島屋のECサイトを利用できるので、訪問者はストレスなく操作できるのではないか。昨年、小島屋さんではECサイトをリニューアルし、コンテンツの役割を明確化されているように感じている。(中略)コンテンツから訪問した高いユーザーの消費意欲を下げることなく購入につなげる素晴らしい導線作りだ”

参考:https://news.mynavi.jp/article/20210417-1873103/

小島 靖久さん

はい、そのとおりです!こちらからは、「やりたいことは何?」というお話を最初にしたくらいです。それも本当に抽象的で、「新しい商品がきっちりお客様に伝わるようにしたい」とか、「リピートするお客様が買いやすいようにしたい」とか、そういったざっくりとした要望を伝えました。

それをコンサルティング会社の方が形にしてくれた、ということなんですね。さすがの信頼関係!

ちなみに、プロの方に全てを任せる上での「目利き」が大事だという話が気になりました。小島さんはどのように「目利き」をされているんでしょう?

小島 靖久さん

そうですね、まずはその会社やプロの方を、自分の信頼している人が信頼しているか?という見方があると思っています。

例えば、新しいことをある会社に相談したいとなったときに、自分の信頼している人が「そこあんまり良くないらしいよ」と言っていたら、少し気をつけてお話を聞いてみよう、という気になりますよね。同じように、「ああ、あそこ良いよね」という反応が返ってきたら、前向きな検討をする姿勢で打ち合わせに臨むことができる。自分の信頼する人がどうその会社と関わっているかって、結構大きな判断軸になるのではないでしょうか。

ただ、最終的には、自分と依頼する相手の1対1の相性が一番大事だと思っています。

「小島屋が使っている物流会社やシステム会社がいいのではないか」ということで同じ会社を使い始めたショップさんでも、最終的にはお別れをしたというケースをよく聞きます。これもまさに相性の問題だと思っていて、僕が依頼する会社さんたちには、企業間でパートナーシップを強く出していくことが得意な方が多いんですよね。そういった相手を、ただの「外注先」として使うショップや会社だと、うまくいかないんだと思うんです。

自分との相性が大事だという話を聞いて、会社の大規模なサイト改修を依頼したときのことを思い出しました。

信頼している人が「ここ良いよ」と言っている会社に頼んだら、見積もりがどう考えてもおかしいでしょう、という金額だったんです。それでも、信頼している人が良いと言っていた会社だったので、まあいいかということで実際にお願いした結果、問い合わせ件数が1/5まで減少してしまって。

今考えると、その時の違和感、つまり「自分との相性」という部分を大事にする視点が抜けていたんだなと思います。どれだけ信頼している人が信頼している相手でも、最後には自分で目利きをするという視点は本当に大事ですよね。

小島 靖久さん

そう思います。信頼している人が信頼しているから絶対にいい、というより、あくまで「そのほうが正解率が上がる」という考え方のほうがいいのではないかなと思いますね。

ありがとうございます!とってもイメージが湧きやすいです。

ここまで話を伺っていて思ったのですが……小島さんが何か外注で依頼をするとき、見積もりを値切ったりしなさそうだと感じました。実際いかがですか?

小島 靖久さん

はい、値切らないです。

やっぱり!

小島 靖久さん

もちろん、予算感は伝えますけどね。

「これ200万円でできる?」と聞いて難しいと返ってきたときに、「じゃあどれくらい?」と聞いてみて、返事が例えば「230万円」だったら全然出すって言いますし、「5.600万円」と返ってきたら「あ、そういう話?ごめん……」となります(笑)

そもそも最初に「予算はどれくらいですか?」と聞かれても僕の方で相場がわからない場合もあるんです。そんなときは、「どれくらいがいいかわからない」ということを伝えた上で、作り上げたいものとそれにかかる費用をプロに聞きながら、一緒に相談して決めていく感じですね。

最初に「ここまでしか出せない」と決めてしまうのではなく、クリエイターのことを尊重して依頼を進めている姿勢が素敵です。

小島 靖久さん

実際、そうすることで良いものができた例があるんです。いまコンテンツ記事の執筆も一部外注で依頼をしているんですが、そこで記事依頼を1記事●円といった価格帯から時給制に変えたら、内容のクオリティがすごく高くなりました。

記事執筆に時給制ですか!?

小島 靖久さん

記事執筆は、1記事数千円~1万円、といったふうに頼むのが一般的だと思います。でも、執筆の仕事って、ただ文字を書いている時間だけが全てではないんですよね。記事を書き上げた後に何度も修正が入ったり、後日SEOの結果から再度修正をお願いする事もあるだろうし、、取り扱うテーマによっては執筆前にたくさんの情報を探したりする必要があると思います。

そこで、記事執筆に関わる時間全てに時給制を導入してみたんです。すると本当にたくさん仕事をしてくださいますし、記事としても質の高いものが出来上がりました。「ブログの書き方」といったマニュアルを渡して読んでおいてもらう、みたいな時間も対象になるので、皆さん嫌がらずに勉強してくれるんですよね。

すごい!素晴らしいクラウドソーシングの使い方ですね!

小島 靖久さん

1文字1円、みたいな記事の依頼の方法も聞きますが、正直あまり意味がないと思っていて。1文字1円だった場合、書く側は1文字でも長く書いてやろうと思うだろうし、その結果冗長な記事が出来上がっても誰も得しないでしょう。

そう考えると結局、自分がやられて嫌な仕事の出し方はしちゃイカン、ということだなと思います。

本当にそれに尽きるなと感じました……。

「自分がやられて嫌なことはしない」、仕事に限らず大事なことだとは思いますが、外注というお付き合いをしていく上で意識すべきことをこれ以上凝縮した言葉はないですね…。

小島 靖久さん

ありがとうございます。なんだか結論が出ちゃいましたね(笑)

自己満足を避け、お客様の求めるものを探り続ける

少しお話を戻して、Eコマース領域で実施された施策などについて伺いたいと思います。うまくいった施策として、自社ドメインのEコマースのリニューアル以外にも効果が見られたものがあれば教えてください。

小島 靖久さん

まず、AmazonPayの導入の効果は大きかったです。カート落ちが明らかに減りました。

やっぱり、ユーザーが意欲を保ったまま簡単に買い物できるのは重要ですよね。

小島 靖久さん

そう思います。導入して数ヶ月で、決済方法の3割がAmazonPayになっているのを見たときは驚きました。これは、新規ユーザーも既存ユーザーも含めたざっくりとした数値なんですが、数ヶ月で3割も行くということは、それだけ使いやすいんだろうなということを実感しました。

あと効果があったのは、AiDealというAIのWEB接客ツールの導入ですね。4年ほど前に導入して、入れた当初は新規の獲得が1.3倍ほどになったんです。

すごい数字ですね。AiDealとはどんなものですか?

小島 靖久さん

簡単に言うと、購入画面でお客様が5分迷っていたらクーポンが出る、というような、ユーザー属性に合わせたシナリオ設計が自動でできるツールです。

初回訪問のお客様、1回だけ購入したことがあるお客様……というふうに手動で設定できるソフトもあるらしいんですが、細かすぎてどう設定していいかわからないじゃないですか。なので、ある程度AIに頼って自動で設定してもらえるほうが楽だよという話を聞いて、AiDealを導入しました。人間が選ぶとしたら「よく出す」「ちょっと抑えめ」というような、予算をどう使うかの大雑把なレバーだけです。

作業効率も向上しそうですね!今の話を伺って気になったのですが、クーポンで購入をした新規ユーザーだと、ショップに根付きにくいという話も聞きます。小島屋さんでは、クーポンを利用したユーザーはその後もリピート購入されますか?

小島 靖久さん

はい、リピートしてくれます。クーポン経由の新規のお客様がショップに根付かないというのは、単に割引率の設定の問題なんじゃないでしょうかね?うちでは、初回購入のお客様には「4,000円以上購入で300円引」というクーポンをお渡ししています。これって、そもそも買おうか迷っていなければそこまで魅力的じゃないと思うんです。同じクーポンでも、「1,000円購入で200円引」と「4,000円以上購入で300円引」では、使うユーザーのモチベーションが違うと思います。そのコントロールが重要だと思いますね。

なるほど!購入前に最後のひと押しをしてあげる、というような割引設定を見極められると良さそうですね。

逆に、あまり効果がなかったり、うまくいかなかった施策はありましたか?

小島 靖久さん

ドライフルーツやナッツなど、商品の種類を増やせばいいというわけじゃないんだな、と気づいた経験がありました。一時期、商品のバリエーションを増やして提案をできる幅を広げたというお話をしたと思うんですが、楽しくなってやりすぎてしまったんです。

ユーザーの前に並ぶ商品の選択肢が増えすぎてしまったということですか?

小島 靖久さん

そうです、そのとおりです。

例えば、5年前に国産の無添加のドライフルーツシリーズを出してみたのですが、うまくいかなかったですね。今売り出したら違う結果になるかも知れないですが、国産無添加ということで少し価格が高かったのもあり、あまり売れませんでした。

しかも、当時の僕たちは変わったことをやろうとしていたので、「静岡県の特定の農家が生産している特定の銘柄のいちごの無添加ドライフルーツ」といったように、何重にもこだわった商品を生んだりしていたんです。僕たちは絶対美味しいぞ!と思って出すんですけど、マニアックなうえに高いのでファンが全然つかなかった。よく考えると盛りすぎですよね。普通の「国産いちごの無添加ドライフルーツ」でいいよ、という(笑)

なので、こだわりすぎると、こっちの勝手な自己満足になってしまうということは意識するようにしています。未だにやってしまうこともあるんですけどね。

ユーザーが本当に求めている商品を探して企画するのは難しそうですね。反対に、うまくいった商品開発はありますか?

小島 靖久さん

商品開発は、他が作らない商品で、お客さんが求めていて、僕が面白いと思う商品ってなんだろう、という試行錯誤の連続で、やっぱり難しい部分もあります。

その中で一番ヒットしたのは、ヨーグルト専用のドライフルーツですね。それがその後のいろいろな商品開発のきっかけだったのかもしれません。

ヨーグルト専用のドライフルーツはどうやって生まれたんでしょうか?

小島 靖久さん

知り合いの女性が、「ヨーグルトにドライフルーツミックスを入れて食べたいけど、レーズンだけが嫌い」という話をしていたところから始まりました。詳しく聞くと、彼女がヨーグルトに入れるのに適していると考えているドライフルーツミックスには必ずレーズンが混ざっているそうなんです。彼女はドライフルーツのサイズなどにもこだわりがあるみたいだったので、「じゃあ、試しに専用のドライフルーツを作ってみるから」という話になりました。

それで実際に作って渡してみたら、「美味しい、これは絶対に売ったほうが良い」と言われたので、そこから本格的に商品として作り上げたという形ですね。

では、ヒット商品の始まりはたった一人のために作られた試作品だったんですね!

小島 靖久さん

そうです。いわゆる趣味品ですよね。

でもこれが、「ドライフルーツを他の食品と掛け合わせて食べる」という発想で一番成功した事例です。ドライフルーツをなにかに入れよう、ではなくて、ヨーグルトになにか入れたいときにドライフルーツはどうですか、という提案ができたんです。

なるほど!となると、もしかすると「ヨーグルト」で検索したユーザーに商品が買われていく場合もあるんでしょうか?

小島 靖久さん

これが最近わかったんですが、こういう人気商品は、「小島屋」で検索した人にまず売れるんです。「小島屋」で指名検索した人に売れてモールでのランキングが上がると、他のお客様の目にもついて売れていく、という構図ですね。

なので、まずは小島屋のお客様層で売れそうなものを前提で考えないと、ハナから目立つこともできない、ということを学びました。

ユーザーの声や市場の動きをひとつひとつ丁寧に拾われているのがとても印象的です。そんな小島屋さんが、ユーザー体験の向上について力を入れているポイントがあれば教えてください。

小島 靖久さん

カートや接客サービス以外だと、商品を注文してくれた人にお送りする同封物には昔から力を入れていますね。今だと、オリジナルの冊子と小分けの袋を同封するようにしています。

小島屋の名前を覚えてもらえるように、同封物はコースターやポチ袋など結構いろいろなものを試したんです。ただ、使わないで飾っておく、しまっておくという可能性も考えられるのが懸念点でした。

この小分けの袋に決めたのは、お客様が認知した小島屋というお店の名前を、他の人にも広めてもらえると思ったからです。女性だと、購入したナッツをクッキーなどに加工して、人に渡すことがありますよね。

面白い話があって、あるお客様がブラウニーを手作りして、職場に持っていったそうなんです。ただ、そのブラウニーを全く関係ない小島屋の袋に入れて持っていったために、「小島屋にブラウニーがある」という勘違いが起きたらしくって。そのエピソードを聞いて、「ものが入っている袋を見て、お店の名前を覚えたりするんだ」と気づいたので、小分け袋を採用しました。

冊子についても、初回購入いただいたお客様には、結構ガッツリとした商品説明が書いてあるものを送付するようにしています。パッケージがアメ横の商品と同じということもあって、どうしても素朴というか、安く見られてしまうことがあるので、それを防ぐ目的もありますね。

初めて購入をされた方でも、この冊子を読んだらさらに色んな商品に興味を持ってもらえそうですね。本当に素敵な取り組みだなと感じました!

始めるなら「本気で」。これからEコマースで戦う人へのアドバイス

今ここからEコマースを始めようとしている人にアドバイスがあれば教えてください。

小島 靖久さん

コロナ禍ということもあって、実際そういう相談は来るんです(笑)ただ、最初に言えることとしたら、「本気でやれ」ということじゃないかなと思います。あとは、「マーケットサイズとターゲットの見極めをしなさい」という話をしますね。

最近受けた相談に、フランス料理のリエットのような、もっとニッチな商品をモールで専門店として売りたい、というものがありました。楽天で商品名を検索してみたんですが、なんと2商品しかヒットしない。しかも リエット専門店のようなところはなく、鶏肉屋さんなどが鶏肉が主体の販売で、リエットはおいてあるよという感じでお店の常連さんに付属した売上しか望めなそうな状況で、レビューも少ない状況だったので、「これはモールの中に需要がないってことだ」と伝えました。むしろこういった場合は、記事などのコンテンツを作った上で、検索からそのコンテンツにたどり着いたユーザーに商品を売るという設計が向いているだろうから、そのほうが良いということもアドバイスしましたね。

闇雲にEコマースを始めるのではなく、商材にあった場所、あった売り方で戦っていくのが大事だということですね。まさにこれまでお聞きしてきた、小島屋さんの戦い方そのものだと思いました。

では一方で、過去のご自分にアドバイスができるなら、どんなことを伝えられますか?。

小島 靖久さん

同じ出会いがあるかはわからないですが、早めに自分と動いてくれるネット専属のスタッフを入れておけ、という話はしたいなと思います。やっぱり、自分ひとりで考えるよりも誰かと一緒に考えたほうがアイデアに幅が出るんです。これは結構重要なことだと思いますね。

あとは、TVに出るなら、サーバーの増強は大事だということです(笑)

2019年に『マツコの知らない世界』に出演されていましたね!

小島 靖久さん

反響は凄まじかったです。2週間~1ヶ月ほどはオペレーションが破綻していました。とくにあのときは、商品が注目されるように露出の仕方を組んだので、製造ももうしっちゃかめっちゃかになっていましたね(笑)

注文が増えるように、出演の仕方にも工夫があったということでしょうか?

小島 靖久さん

そうです。やはり、メディアに取り上げられる際のコツとしては、あとからお客様が検索しやすいようにすることが大事なんです。

例えば、商品の後ろにしっかりお店の名前が入ったものを映しておくとか、紹介する商品は後で検索したら絶対に自社商品がトップに来るジャンルを選ぶ、といったように。もしくは、放送に備えて「〇〇の番組でうちのこの商品が取り上げられました!」というようなブログを用意して、導線を作っておくという方法もあります。

これは参考にしたい店長さんも多いと思います。お話を聞く限りだと相当忙しかったようですが、たくさん売上が立っても、体力や小島さんの気持ちも含めるとやはりコマースデザインの坂本さんが言うところの「いい感じ」に働けている状況ではなかったと?

小島 靖久さん

そうですね、TV出演による特需は一過性のものと分かっていたので頑張れはしましたが…やっぱり大変でしたね。次オファーがあっても、商品の出し方などは検討するかも知れないです(笑)

では最後に、小島さんに特にお聞きしてみたかったことなんですが、話を聞いていたり、活動レポートを拝見したりしていると、非常に楽しみながらお仕事をされている印象があります。家業という中でさまざまな葛藤があったかと思いますが、楽しく「いい感じ」に働くための考え方などがあれば教えて下さい。

小島 靖久さん

そうですね、色々ありますけど、やっぱりやりたいことをやるのが一番だと思います。きっと全てがやりたいことになることは難しいので、やりたくないことだって生まれてくると思うんですが、やりたくないことの中にも、やりたいこと・楽しいことを見つけるのが大事なんじゃないでしょうか。 僕はもともと、人にドライフルーツやナッツの話をすることが好きなんです。だから記事コンテンツで発信をしたり、取材を受けたり、そういうことからひとつずつ仕事を楽しめているのかもしれません。

まさに天職なんですね!小島さんの素敵な笑顔の理由がわかった気がします。本日は貴重なお時間をいただきありがとうございました!

 

 

編集後記

「自分ではこんな話が誰かのためになるの?って、あんまりわからなくて」

小島さんは取材中そう言って笑ってましたが、モールへの出店から哲学を貫き自社ドメインサイトへの注力、ユーザーとの向き合い方など、どれをとっても学びになるお話ばかりでした。

そしてなにより、「自分がやられて嫌なことはしない」という小島さんの考え方(これも哲学)が、小島屋さんカッコよさであり強さそのものなのだと感じます。相手を決して軽んじず、対等に接して気兼ねなく協力し合うという関係性は、きっと誰もが一朝一夕で作れるものではありません。小島さんだからこそ集まる人や気持ち、技術があるのだと思いました。

なんだか下町の情緒を感じるようで、アメ横のあの喧騒が恋しくなる取材でした。今度はぜひ、お店にお邪魔したいと思います。

インタビュー、文:松本 涼花
編集:安藤 和/阿部 圭司
写真:阿部 圭司

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